公益社団法人日本超音波医学会|The Japan Society of Ultrasonics in Medicine

地方会抄録号

北海道地方会

一般社団法人日本超音波医学会第45回北海道地方会学術集会抄録

【循環器】

座長: 尾形仁子(心臓血管センター北海道大野病院内科)

石川嗣峰(手稲渓仁会病院臨床検査部)

45-1 . 心エコーを契機に発見された右室壁運動低下を伴った成人漏斗胸の1 例

窪田由季1、山崎香子2、井上 悠1,2、蛸島夢香1、渡邉美穂1、山田聡美1、大野誠子1、柴田正慶1、堀田大介2

1社会医療法人北海道循環器病院臨床検査科、2社会医療法人北海道循環器病院循環器内科

症例は23歳,産後4 ヶ月目の女性.院にて呼吸苦と胸部レントゲンで異常を指摘され,心不全疑いで当院へ紹介受診となった.臨床症状は,38. 3度の発熱と喘鳴を認めた.心拍数100 bpm,血圧110 mmHg / 70 mmHg,SaO2 94%であった.胸部レントゲンでは心陰影の左方偏移を認めたが,明らかな肺野の陰影異常は認めなかった.心電図検査では不完全右脚ブロックと肺性P を認めた.来院時心エコー検査では,右室の瀰漫性壁運動低下,右室流出路前壁の扁平化,左室中隔の壁運動低下,肺高血圧による肺動脈圧(ePAP 41. 1 mmHg)の上昇を認めた.明らかな弁膜症は認めず,EF は49%,E’12 と収縮能および拡張能は比較的保たれており,心原性の呼吸苦は否定的で喘息様気管支炎と診断され,気管支拡張薬およびステロイド治療を行った.この結果,呼吸器症状は著明に改善した.症状改善1週間後の心エコー検査では,左室中隔の壁運動異常は軽度に改善し,さらに肺動脈圧の低下を認めるも,右室の瀰漫性壁運動低下・右室流出路前壁の扁平化が残存していた為,胸部レントゲンを再度確認すると胸骨が心臓を圧迫する所見が確認され漏斗胸と判断された.今回,漏斗胸による気管支炎の重症化により右室圧の上昇をきたし,さらに漏斗胸に伴う壁運動異常により心機能が低下したと考えられた.本症例は授乳中の為,前胸部の陥凹が視診的には明らかではなかった.心エコーを撮る際に,今回経験した右室の特徴を見た場合には漏斗胸を疑う必要性がある事と考えられた.漏斗胸には僧帽弁逸脱症をはじめとする弁膜症を合併することが知られているが,右室を含めた壁運動異常に関する報告は少なく,若干の文献的考察を加えて報告する.

45-2 . 心不全を発症して発見された左房粘液線維肉腫の1 例

藤田善惠1、中島朋宏1、男澤千啓1、氏平功祐2、山田 陽2、丸山隆史2、中西克彦2、篠原敏也3、三橋智子4

1手稲渓仁会病院臨床検査部、2手稲渓仁会病院心臓血管センター心臓血管外科、3手稲渓仁会病院病理診断科、4北海道大学病院病理部

症例は23歳男性.数日前より発熱と倦怠感があり,急性呼吸不全を呈し当院に救急搬送された.末梢チアノーゼが著明であり,SpO2 80%.10 L マスクを使用してもSpO2 は83%であった.経胸壁心エコー図にて,左房後壁に広範囲に付着し,左房内全体を埋め尽くす2 つの巨大腫瘤を認めた.腫瘤の内部エコーは不均一で,表面に紐状エコーを認めた.腫瘤は可動性に富んでおり,拡張期に腫瘤が左室中部まで嵌頓していた.左室の流入血流は持続時間が短く高速であったため,腫瘍が左室への血液流入を障害していると考えられた.経食道心エコー図でも同様に,右上肺静脈から左房後壁に広汎に茎をもつ,可動性腫瘤が確認された.造影CT 検査では左房内の腫瘤像と,急性肺水腫を疑う所見があった.左室流入障害による心不全を呈していると診断し,緊急切除術を施行した.切除検体の病理組織診から,低悪性度の粘液線維肉腫(Myxofibrosarcoma)が考えられた.今回,稀な心臓肉腫を経験したので報告する.

45-3 . 石灰化を伴う左房腫瘤の1 例

早乙女和幸1、小室 薫2、横山典子1、渋谷美咲1、三嶋秀幸1、広瀬尚徳2、安在貞祐2、米澤一也3、窪田武浩4、木村伯子5

1国立病院機構函館病院臨床検査科、2国立病院機構函館病院循環器科、3国立病院機構函館病院臨床研究部、4国立病院機構函館病院心臓血管外科、5国立病院機構函館病院病理診断科

【背景】左房内に発生した腫瘍と血栓は鑑別に苦慮することがあるが,どちらも塞栓症の原因となり治療方針が異なることから,エコー性状のみならず基礎疾患等を考慮する必要がある.今回,腫瘍との鑑別が困難であった左房内血栓の1例を経験したので報告する.
【症例】70歳,女性.既往歴は原発性アルドステロン症(PA),高血圧,胸部大動脈瘤.他院にて施行された心エコーで左房内腫瘤を指摘されたため当院に精査入院となった.心電図は洞調律で,心胸比は53%と軽度拡大しており,FDP とD-dimer は正常であった.心房細動の既往を認めなかった.経胸壁心エコー法では左房前壁側に付着する強い石灰化を伴う腫瘤を認めた.経食道心エコー法では,広基性で強い石灰化を伴い,内部エコー不均一な可動性を認めない11 ×28 mm の腫瘤像であった.表面は滑らかで,周辺への浸潤像を認めなかった.また,左房内もやもやエコーおよび左心耳内血栓は認めなかった.CT 所見は石灰化を伴った造影効果の乏しい腫瘤であり,MRI 像ではT 1強調画像で低信号, T 2強調画像では等信号であった.悪性疾患を含め心内腫瘍の鑑別を行ったが術前診断がつかず,外科的切除術が選択された.術中所見での腫瘤は弾性硬で心内膜下に存在し,病理所見では石灰化を伴う層状に器質化した血栓と診断された.
【考察】石灰化を伴う心内腫瘍は稀である.一方,血栓であれば石灰化は珍しくはない.本症例では左房内血栓発生の背景が明白ではなかったこと,画像診断上,腫瘤が左房内血栓としては非典型的であったために腫瘍との鑑別に苦慮した.
【結語】腫瘍との鑑別が困難であった左房内血栓の1例を経験したので報告した.

45-4 . Bending line を有する高度大動脈弁逆流の1 例

長多真美1、赤坂和美1、樋口貴哉1、柳谷貴子1、中森理江1、青沼達也2、河端奈穂子2、吉田千佳子3、藤井 聡1、長谷部直幸2

1旭川医科大学病院臨床検査・輸血部、2旭川医科大学循環・呼吸・神経病態内科学、3旭川医科大学病院リハビリテーション科

症例は70歳代男性.52歳頃より心房細動と高血圧症にて他院通院中であったが,自覚症状は認めなかった.2015年5月に山菜採取に出かけた後より,動悸と息切れが出現した.前医にて高度大動脈弁逆流(AR)と診断され,精査目的で当院紹介となった.経胸壁心エコー検査(TTE)では,大動脈弁レベルの短軸像で右冠尖の弁腹を横切るような線状エコーが観察された.傍胸骨長軸像にて,右冠尖の線状エコーは大動脈側に若干突出しているように見え,右冠尖は同部から遊離縁側において軽度の逸脱を認めた.AR は三尖の中央から大きな吸い込み血流を伴い,僧帽弁前尖に向かって偏在性に吹きつけており,右冠尖の逸脱に矛盾しなかった.また,左冠尖と無冠尖の交連部からもAR を認めた.大動脈基部はsinotubular junction 径36 mm,バルサルバ洞径44mm と拡張していた.後日施行した経食道心エコー検査(TEE)では,TTE と同様の大動脈弁の形態が観察されたが,3D TEE を用いることにより大動脈弁の形態の把握は容易であった.右冠尖の線状エコーは肥厚による変化と考えられた.また,三尖の中央に小さなgap を認めた.弁尖の逸脱によるAR には,大動脈弁尖が折れ曲がって肥厚し,bending line として認められる形態を伴うものが報告されている.Bending line を有するAR を,TTE およびTEE で観察できた1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

45-5 . 腱索短縮による先天性僧帽弁閉鎖不全症が高齢期に発見された1 例

岩野弘幸1、山田 聡1、横山しのぶ2、中鉢雅大2、林 大知1、村井大輔1、阿部 歩2、市川絢子2、西野久雄2、筒井裕之1

1北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学、2北海道大学病院検査・輸血部

症例は60歳代の男性.生来,心疾患の指摘を受けたことはなかった.2009年に前医で持続性心房細動,慢性心不全と診断されて前医に通院していたが,転居にともなって当科へ転医した.経胸壁心エコー検査で高度の僧帽弁逆流(MR)と軽度の左室駆出率低下が認められたため,弁膜症の治療方針決定のために入院した.経胸壁心エコー図では,前後の乳頭筋は腱索を介さずに僧帽弁前尖に直接付着し,後尖の腱索は高度に短縮しており,前後の交連側では筋組織により弁の開放が制限されていた(図).このために僧帽弁の接合と開放は制限され,高度のMR と軽度の弁狭窄が認められた.経食道心エコー図でも同様の所見が観察された.以上から,mitral arcade の亜形である僧帽弁腱索短縮による先天性MR と診断した.心不全症状を有する高度MR であったため手術適応と考えられたが,上行大動脈に高度の動脈硬化病変が認められたために手術リスクが高いと判断され,手術は見送られた.高齢期に診断されたmitral arcade は1例しか報告がなく,成人例では稀な病態である.先天性MR の特徴を認識していないと正しく診断されない可能性があるため,文献的考察とともに報告する.

45-6 . ASD 後のMVR(DOMV) フォロー中に発生したLVNC の心エコー所見

長瀬雅彦1、金光綾香1、三浦美里1、小野寺英里1、湊  舞1、大場淳一2

1市立旭川病院中央検査科、2市立旭川病院胸部外科

【症例】60代女性,小学6年の時に弁膜症と言われたがそのまま放置,過激な運動はしなかったが日常生活は普通におくっていた.40代の時に全身倦怠感を主訴に当院受診,聴診にて胸骨左縁第3肋間にLevine 4 / 6 の収縮期駆出性雑音と2音固定性分裂を認めたため心エコー施行.右室,右房の拡大とカラードプラで左房から右房へと短絡を認める二次孔心房中隔欠損症が確認された.僧帽弁はballooning とMモードでDDR 低下,lutembacher 様であったが弁狭窄はなく,僧帽弁短軸像にて弁中央にbridge を有する重複僧帽弁(DOMV)を認め手術となった.術中所見では,超音波像と同様にDOMV を認めたものの弁開放は充分保たれ,弁逆流もわずかであったため放置,心房中隔のパッチ閉鎖のみで手術を終了した.
【経過】1999年,元々lateral 側の主弁口に強かった過剰な弁組織が原因で逆流が憎悪,MVR(SJM, 29mm)となった.その後フォローされていたが,2003年に左室心尖部の網目状過剰肉柱が明瞭に描出されるようになり,左室緻密化障害(LVNC)が疑われた.2013年に心エコーにて一時壁運動の低下を認めるも,その後改善,現在もフォローを続けている.
【考察】LVNC は,小児例と成人例とでオーバーラップする心筋疾患で,近年報告が多く見られるようになってきたが,遺伝子など一定の見解はあるものの心エコーでの診断基準は統一されていない.またDOMV は,心内膜床形成過程の障害で発生する先天性の弁膜異常で,いずれの症例も超音波画像の進歩により,近年多く散見されるようになってきた.LVNC とDOMV が合併した症例は本例以外でも数例報告されているが,今回のように初期の段階で不明瞭だった左室の過剰肉柱が遠隔期に描出された報告は見あたらず,LVNC 発生過程のMissing-link として興味ある例と考えられたので報告する.

【循環器】

座長: 村中敦子(札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座)

福西雅俊(北海道社会事業協会帯広病院臨床検査科)

45-7 . 妊娠中の心形態と機能の経時的変化:正常単胎妊娠と妊娠高血圧症候群の比較

馬詰 武1、山田 聡2、山田崇弘1、村井大輔2、林 大知2、岩野弘幸2、西野久雄3、横山しのぶ3、筒井裕之2、水上尚典1

1北海道大学大学院産科生殖医学、2北海道大学大学院循環病態内科学、3北海道大学病院検査・輸血部

【目的】妊娠中に体重は約20%,循環血液量は約40%増加するが,心形態と機能の経時変化の詳細は不明であり,周産期心筋症などの早期診断を困難にしている.そこで,妊娠中の心形態と機能の変化を,正常単胎妊娠と妊娠高血圧症候群との間で比較して検討した.
【方法】対象は,心疾患を合併していない正常血圧妊婦88名(NC群)と本態性高血圧,妊娠高血圧症候群を合併した高血圧性疾患合併妊婦22名(HD 群).妊娠初期,中期,後期,産後早期,1月,3月で施行した計348検査の心エコー指標を2群間で比較した.
【結果】Valsalva 洞は妊娠後期に,左室は産後早期に最も拡大したが,両群で差を認めなかった.左室壁厚と心筋重量は後期から産後早期に増大し,HD 群では中期,後期,産後早期,1月,3月でNC 群に比し高値を示した(産後早期の後壁厚:9. 1±1. 1vs 7. 1±0. 9 mm, p<0. 001;産後早期の重量係数:92. 7±13. 8vs 69. 4±11. 0 g/m2, p<0. 001).左房容積係数は後期から産後早期に増大し,HD 群ではNC 群に比し高値を示した(後期:29. 7±6. 6 vs 24. 1±5. 6 ml/m2, p = 0. 002).下大静脈径は,NC群では後期に縮小し産後早期に拡大したが,HD 群では後期にも拡大し中心静脈圧の上昇が示唆された.妊娠後期に,左室流入血流のE 波は減高し,A 波は増高した.僧帽弁輪拡張早期運動速度は後期に低下したが,HD 群では中期から産後1月までNC 群に比し低値を示した( 後期:10. 8±2. 7 vs 13. 4±2. 3 cm/s,p = 0. 001).肺静脈血流のS/D は,NC 群で中期から産後早期に1以上に増大したが,HD 群では産後3月まで増大が遷延した.
【結論】左室前負荷は産後早期に最も増大した.NC 群では妊娠中に左室肥大と拡張障害の傾向が出現し産後速やかに改善したのに対し,HD 群ではその傾向が顕著で,かつ遷延していた.

45-8 . 連続波ドプラ法による肺動脈弁逆流速度計測に基づく肺動脈圧推定の意義

黒壁大貴1、加賀早苗2、三神大世2、岡田一範2、村山迪史3、樋岡拓馬3、横山しのぶ4、榊原 守5、山田 聡5、筒井裕之5

1北海道大学医学部保健学科、2北海道大学大学院保健科学研究院、3北海道大学大学院保健科学院、4北海道大学病院検査・輸血部、5北海道大学大学院循環病態内科学

【背景】肺動脈圧の非侵襲的評価には,連続波ドプラ法で計測される三尖弁逆流(TR)のピーク流速から簡易ベルヌーイ式で求めた右室- 右房圧較差(PSPGTR)が広く用いられている.一方,同様の方法で肺動脈弁逆流(PR)から求めた拡張早期と拡張末期の肺動脈- 右室圧較差(順にRFPGPR とEDPGPR)の意義は十分定まっていない.
【方法】右心カテーテル検査連続70例の心内圧記録から,右室-右房圧較差(PSPG),拡張早期と拡張末期の肺動脈- 右室圧較差(順にRFPG,EDPG)および平均肺動脈圧(mPAP)を計測した.また,連続波ドプラ法によりPSPGTR,RFPGPR とEDPGPR を計測した.また,ASE のガイドラインに基づき,下大静脈の形態から右房圧(RAPIVC)を推定した.
【結果】全70例中,PSPGTR は52例(74%),RFPGPR は51例(73%),EDPGPR は51例(73%)で計測可能であった.PSPGTRとPSPG,RFPGPR とRFPG,EDPGPR とEDPG はそれぞれ有意に相関した(順にr =0. 67, p <0. 001 ; r=0. 71, p <0. 001 ; r=0. 77, p<0. 001).Bland-Altman 解析では,PSPGTR には正の,EDPGPR には負の加算誤差を認めたが,RFPGPR には加算誤差を認めなかった.PSPGTR,RFPGPR およびEDPGPR のすべてを計測できた36例において,各計測値にRAP を加えた値とmPAP との相関は,RFPGPR+RAPIVC が最も強く(順にr=0. 65, p<0. 001 ;r =0. 71, p<0. 001 ; r=0. 66, p<0. 001),その値(22. 8±9. 2mmHg)はmPAP(20. 6±8. 4 mmHg)と有意差がなかった.ESC ガイドラインの肺高血圧症(mPAP≧25 mmHg) をRFPGPR+RAPIVC で診断するためのROC 曲線下面積は0. 93,ベストカットオフ値24. 4 mmHg での感度は89%,特異度は85%であった.
【結論】PR から求めたRFPGPR は,十分な精度を有し,mPAP の推定とこれに基づく肺高血圧症の診断に有用である.

45-9 . 肺動脈弁逆流速度計測に基づく新しい肺血管抵抗の非侵襲的推定法

前田理菜1、加賀早苗2、三神大世2、岡田一範2、樋岡拓馬3、村山迪史3、横山しのぶ4、榊原 守5、山田 聡5、筒井裕之5

1北海道大学医学部保健学科、2北海道大学大学院保健科学研究院、3北海道大学大学院保健科学院、4北海道大学病院検査・輸血部、5北海道大学大学院循環病態内科学

【背景】肺血管抵抗(PVR)は,心カテーテル計測値から,PVRCATH={(平均肺動脈圧-肺動脈楔入圧)/心拍出量}の式で算出される.心エコー計測値から非侵襲的にPVR を推定する方法もいくつか提唱されているが,肺動脈楔入圧の無視や経験定数の使用などのため,その汎用性には疑問がある.肺動脈弁逆流(PR)から求めた拡張早期と拡張末期の肺動脈‐右室圧較差(順にRFPG とEDPG)は,それぞれ平均肺動脈圧と肺動脈楔入圧をよく反映すると報告されている.これらを使えば,PVRCATH と同様の式を使い,より汎用性のあるPVR(PVRPR)の算出が可能と考えられるが,過去に報告はない.本研究では,PVRCATH を基準とし,PVRPR の有用性を,従来の代表的な非侵襲的PVR 算出法と比較検討する.
【方法】対象は,心カテーテル法によりPVRCATH を計測した各種心疾患48例である.心エコーでRFPG,EDPG および心拍出量(COECHO)を計測し,PVRPR をPVRPR =(RFPG-EDPG)/ COECHOの式で算出した.また,従来のScapellato(2001年),Abbas-1(2003年),Dahiya(2010年),Lindqvist(2011年)およびAbbas-2(2013年)の各法でもPVR を算出した.
【結果】各法で求めたPVR とPVRCATH との相関(各法の計測可能率)は,Scapellato 法がr =0. 36(100%),Abbas-1法がr =0. 45(75%),Dahiya 法がr=0. 52(73%),Lindqvist 法がr =0. 76(75%),Abbas-2法がr =0. 66(75%),我々の方法がr =0. 72(65%)であった.Lindqvist 法は,相関は最も良かったが,実測値を極度に過大評価した(y=1. 9 x-1. 0).一方,我々の方法は,計測可能率はやや低いが,相関も実測値との対応も良好であった(y=1. 2 x-0. 003).
【結論】PR 流速計測に基づく我々の新しいPVR 計測法は,心疾患例のPVR の非侵襲的評価に有用である.

45-10 . 心エコー法による前毛細管性肺高血圧症と後毛細管性肺高血圧症との鑑別

早坂美咲1、加賀早苗2、三神大世2、喜田真由子3、岡田一範2、政氏伸夫2、横山しのぶ4、岩野弘幸5、山田 聡5、筒井裕之5

1北海道大学医学部保健学科、2北海道大学大学院保健科学研究院、3北海道大学大学院保健科学院、4北海道大学病院検査・輸血部、5北海道大学大学院循環病態内科学

【背景】肺高血圧症(PH)は,肺動脈側の器質的病変による前毛細管性 PH(PrePH) と左心不全に続発する後毛細管性PH(PostPH)とに大別される.ともに重篤な病態であり,治療法は互いに異なるので,その鑑別は重要である.しかし,その決め手となる心エコー指標は明確にされていない.本研究の目的は,PrePH とPostPH との鑑別にどのような指標が役立つかを明らかにすることである.
【方法】対象は,北大病院心エコー室で行われた心エコー検査でPH(三尖弁逆流速度>3. 4 m/s)を認め,担当専門医が,それぞれPrePH(11例)とPostPH(20例)と診断した31例である.PrePH の内訳は,特発性肺動脈性PH 2例,結合組織病によるPH 2例,先天性心疾患3例,慢性肺血栓塞栓症4例であった.PostPH の原因は,虚血性心疾患7例,弁膜症7例,心筋症6例であった. 心エコーでは, 左房径(LAD), 左房容積係数(LAVI),経僧帽弁血流の拡張早期ピーク流速(E)と心房収縮期ピーク流速(A)および側壁側の僧帽弁輪運動速度(e’)を計測し,E/A とE/e’を求めた.
【結果】PrePH では,PostPH に比し,LAD(34±6 vs 52±9mm),LAVI(21±4 vs 73±25 ml/m2),E/A(1. 0±0. 4 vs 2. 7±1. 2),E/e’ (5. 7±1. 5 vs 16. 0±. 6)が有意に小であった(いずれもp<0. 001).PrePH をPostPH から鑑別するためのROC 曲線の曲線下面積は,LAD が0. 94,LAVI が1. 00,E/A が0. 91,E/e’が0. 99 と,LAVI と E/e’ が良好であり,best cut of value はLAVI で31 ml/m2(感度100%,特異度100%),E/e’ では6. 9(感度91%,特異度100%)であった.
【結論】心エコー指標中,LAVI とE/e’ は,PrePH とPostPH の鑑別に極めて有用であると考えられた.

【循環器】

座長: 湯田 聡(札幌医科大学感染制御・臨床検査医学講座)

長瀬雅彦(市立旭川病院中央検査科)

45-11 . 心房細動患者における左室拡張機能評価に有効な代表拍選択法の検討

市川絢子1、山田 聡2、横山しのぶ1、岡田一範3、岩野弘幸2、西田 睦1、澁谷 斉1、清水 力1、三神大世3、筒井裕之2

1北海道大学病院検査・輸血部、2北海道大学大学院循環病態内科学、3北海道大学大学院保健科学研究院

【背景】心房細動(AF)時の収縮機能評価には,先行RR(RR1)/先々行RR(RR2)=1 となる代表的1拍で評価する方法が確立しているが,拡張機能指標は心周期長指標と相関しにくいとされており,代表拍の選択法が定まっていない. 【方法】心エコー検査時にAF であった連続30例で,前向きに以下の検討を行った.連続20拍で,左室内径短縮率(FS),拡張早期左室流入血流速度(E),収縮期(s’)と拡張早期(e’)の僧帽弁輪運動速度を計測し,20拍での平均値をスタンダードとした.当該拍のRR をRR0 とした.代表拍の選択法として,RR1 /RR2 =1 の1拍で計測する方法,任意の1拍で計測する方法,任意の連続3心拍で平均する方法を用い,連続20拍平均値との相関係数を算出した.
【結果】症例内のRR の変動係数は23±5%で,FS(16±8%)とs’ (14±9%)はやや大きく変動したのに対し,E(8±5%)とe’ (12±9%)の変動は小さかった.各例の20拍において,s’ はRR1 /RR2 と良好に相関したが(28例で有意な相関を示し,13例で強い相関),E とe’ はほとんどの例で相関を認めず(有意な正相関はE:5例,e’:4例のみ),RR0,RR1,RR2 についても同様であった.代表拍選択法の精度比較では,e’,E/e’ ともに,RR1 /RR2法(r =0. 97,r =0. 93)と任意1拍法(r =0. 98,r =0. 93)に差はなかったが,任意3拍法(r =0. 99,r =0. 97)は,RR1 /RR2法(p<0. 01,p<0. 05),あるいは任意1拍法(p<0. 05,p<0. 05)よりも有意に良好であった.
【結論】AF の症例内で,拡張機能指標は心周期長指標と相関しなかった.RR1 / RR2法は拡張機能評価のための代表拍選択には無効であり,任意の連続3拍の平均を用いるべきである.

45-12 . 左室拡張機能の単一定量指標,パターン評価,複数指標の総合評価の間での精度の比較

林 大知1、山田 聡1、岩野弘幸1、中鉢雅大2、山田博胤3、土肥 薫4、瀬尾由広5、大手信之6、三神大世7、筒井裕之1

1北海道大学大学院循環病態内科学、2北海道大学病院検査・輸血部、3徳島大学病院循環器内科、4三重大学大学院循環器・腎臓内科学、5筑波大学循環器内科、6名古屋市立大学大学院心臓・腎高血圧内科学、7北海道大学大学院保健科学研究院

【目的】左室弛緩能と充満圧の推定精度を,単一定量指標,E/AとE/e’ を用いたパターン評価,複数指標の人為的総合評価の間で比較する.
【方法】全国5施設で種々の心疾患を有する77例を登録し,micromanometer付きカテーテルを用いて左室の圧下行脚時定数(>48 ms を弛緩能障害と定義)と平均拡張期圧(>15 mmHg を充満圧上昇と定義)を計測した.ドプラ法で左室流入血流のE 波高,A 波高,E/A,E 波減速時間,等容弛緩時間,肺静脈血流のS 波高,D 波高,A 波高,S/D,D 波減速時間,左室流入・肺静脈血流のA 波持続時間の差,組織ドプラ法でe’ ,E/e’ ,カラーM モード法で左室流入血流伝播速度(Vp),E/Vp を求めた.パターン評価はE/A とE/e’ を用い,複数指標の総合評価は,年齢,性別,合併症等の臨床情報,壁運動の情報,上記を含む基本的心エコー指標に基づき,エキスパート4名がブラインドで判定した.
【結果】表に示す.
【結論】左室弛緩能と充満圧の予測には,単一定量指標や簡便なパターン評価よりも複数指標の人為的総合評価が優れていた.

45-13 . 肺静脈血流速度計測に基づく左室硬さの新しい指標の有用性

安彦里佳1、岡田一範2、三神大世2、加賀早苗2、横山しのぶ3、西田 睦3、岩野弘幸4、榊原 守4、山田 聡4、筒井裕之4

1北海道大学医学部保健学科、2北海道大学大学院保健科学研究院、3北海道大学病院検査・輸血部、4北海道大学大学院循環病態内科学

【背景】左室の硬さは, 侵襲的に計測した左室拡張末期圧(LVEDP)や左室圧の心房収縮期波高(ΔAP)により評価されるが,非侵襲的評価は難しい.心エコーでは,肺静脈血流(PVF)の逆行性心房収縮期波の持続(DPVA)と経僧帽弁血流(TMF)の順行性心房収縮期波のそれ(DA)との差(DPVA-DA)の有用性が報告されているが,広く用いられてはいない.本研究の目的は,PVF とTMF の時間速度積分値(TVI)計測に基づく新しい左室硬さの指標を考案し,その意義を,LVEDP やΔAP との比較に基づき検討することである. 【方法】対象は,心カテーテル法と経胸壁心エコー法を行い,良好な左室圧とPVF の記録が得られた洞調律の各種心疾患患者連続55例である.左室圧記録からLVEDP とΔAP を計測した.PVF の流速波形からDPVA と心房収縮期血流のTVI(IPVA)を計測し,IPVA がPVF 全体のTVI に占める割合(FPVA)を求めた.同様に,TMF からDA と心房収縮期血流のTVI(IA)を計測し,そのTMF 全体のTVI に占める割合(FA)を求めた.これらから,DPVA - DA’ IPVA / IA およびFPVA/FA を算出した.
【結果】LVEDP およびΔAP との相関は,DPVA - DA では比較的弱く( 順にr = 0. 44,r = 0. 48),IPVA / IA ではよりよく( 順にr = 0. 77,r = 0. 55),FPVA/FA ではさらによい傾向を認めた(順にr = 0. 79,r = 0. 66).DPVA - DA’ IPVA / IA およびFPVA/FA が,LVEDP>18 mmHg を診断するためのROC 曲線の曲線下面積(AUC)は昇順に大(順に0. 77,0. 87,0. 96),また,ΔAP>8 mmHg のAUC も昇順に大であった(0. 83,0. 87,0. 92).
【結論】心エコー法により計測される左室硬さの新しい指標,IPVA / IA とFPVA/FA は,非侵襲的な左室の硬さの評価に有用であると考えられた.

45-14 . 壁応力- ストレイン関係を考慮した長軸方向左室心筋短縮能の新しい評価法

村井大輔1、山田 聡1、岩野弘幸1、林 大知1、岡田一範2、西野久雄3、中鉢雅大3、横山しのぶ3、三神大世2、筒井裕之1

1北海道大学大学院循環病態内科学、2北海道大学大学院保健科学研究院、3北海道大学病院検査・輸血部

【背景】ストレイン(St)を用いて心筋短縮能を評価するには壁応力を考慮する必要がある.若年健常者の壁応力- St 関係を基準とし心筋短縮能を評価する方法を考案し,高血圧性心疾患(HHD)と肥大型心筋症(HCM)症例に適用した.
【方法】(1)若年健常者41例(29±5歳)でハンドグリップ負荷を行い,負荷前と負荷中に長軸方向壁応力(MWS)と長軸方向グローバルSt(LS)を計測した.負荷前後の全ポイントを用いて回帰分析を行い,壁応力- St 関係の基準とした.(2)左室駆出率50%以上のHHD 39例(61±11歳)とHCM 39例(58±19歳)および年齢を合せた健常対照30例(53±10歳)で,安静時のMWS とLS を計測した.
【結果】(1)MWS(x)とLS(y)の間に有意な直線相関を認め(y =- 0. 0041 x+19. 9,r =- 0. 53,p<0. 01),この回帰式と95%信頼区間を壁応力- St 関係の正常範囲とした.(2)MWSは,健常対照群(643±166 dyn・mm-2)に比しHHD 群(528±146dyn・mm-2) で有意に小さく(p<0. 01),HCM 群(317±119dyn・mm-2)でより小さかった(p<0. 01).LS も,健常対照群(15. 0±2. 2%)よりHHD 群(13. 2±3. 1%)で有意に小さく(p<0. 05),HCM 群(10. 3±2. 9%) でより小さかった(p<0. 01).壁応力- St 関係の正常範囲から下方に逸脱した症例の比率は,健常対照群で30%,HHD 群で64%,HCM 群で95%だった.さらに,各例のMWS に対応するLS の正常値に対するLS実測値の比率(壁応力補正% LS)は,健常対照群(87±14%)よりHHD群(75±18%)で有意に低値(p<0.01),HCM群(55±16%)でさらに低値であり(p<0. 01),LS で比較した場合に比べ,各群の間の重なりは小さかった.
【結論】若年健常者の壁応力- St 関係を基準とした壁応力補正%LS を用いることで,HHD 症例およびHCM 症例で,長軸方向心筋短縮能が低下していることが推定された.

45-15 . 頸動脈エコーと運動負荷を利用した力―収縮頻度関係の非侵襲的計測法の開発

田中みどり1、菅原基晃1、小笠原康夫2、仁木清美3、泉 唯史4

1姫路獨協大学、2川崎医科大学、3東京都市大学、4北海道医療大学

【目的】正常な心臓では,心拍数 (HR) の増加とともに収縮性の指標Peak dP/dtも上昇していく( Force-Frequency Relation: FFR,力―収縮頻度関係).心機能に異常があると,心拍数の増加によるPeak dP/dt のふるまいは正常とは異なる. 従来はこの測定を心房ペースメーカーと心臓カテーテルにより行っていたため臨床では普及しなかった.われわれはFFR を頸動脈エコーと運動負荷により非観血的に計測する方法を考案し検証した.
【方法】健康な若年男性15名( 年齢:21. 5 ± 2. 1歳,BMI:22. 4 ± 4. 3 kg/m2)を対象とした.心収縮性測定には,頸動脈エコーでのWave Intensity (WD) を用いて,心拍数変化には心肺運動負荷試験を用いた.WDとは,血管の直径( D) と血流速度( U)それぞれの微分の積として,次式で定義される.WD =( 1 /D)( dD/dt)( dU/dt).WD波形の収縮初期に見られる正のピーク値(WD1)は心臓カテーテルで得たPeak dP/dt と正の相関を示すことが証明されている.エコートラッキングシステムで血管の直径変化を,ドプラーシステムで血流速度を計測して,WD1 を得た.心肺運動負荷試験はリカンベント型のストレングスエルゴメータでramp 負荷を用い,心拍数156 ± 10 bpm で終了した.HR 増加に対するWD1 の上昇に線形回帰モデルを適用し,回帰直線をFFRとみなし,その適合度および傾きK を求めた.
【結果】FFR の適合度はr2 = 0. 77 ± 0. 13 で極めて良好であった.FFR の傾きK は0. 26 から2. 88 [m/s3 bpm]の範囲に分散した.K はBMI の増加とともに有意に減少した(p = 0. 05).
【結論】FFR は非観血的に得られた.FFR の傾きK はBMI の増加とともに減少した.

【循環器】

座長: 山田 聡(北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学)

加賀早苗(北海道大学大学院保健科学研究院)

45-16 . 退行変性性僧帽弁狭窄の頻度と臨床的特徴に関する検討

浮田康貴1、湯田 聡2、杉尾英昭1、米澤綾香1、高柳由佳1、山本均美3、齋藤礼衣3、三浦哲嗣4

1社会医療法人孝仁会釧路孝仁会記念病院臨床検査部、2札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座、3社会医療法人孝仁会釧路孝仁会記念病院循環器内科、4札幌医科大学医学部循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座

【背景】高齢化に伴い,退行変性性の大動脈弁狭窄症(AS)や僧帽弁輪石灰化(MAC)が増加している.MAC が進行し僧帽弁狭窄(MS)様の血行動態を呈するdegenerative MS(DMS)が報告されている.これまでDMS の頻度や臨床的特徴に関する検討は少なく,男女別や年代別の頻度は検討されていない.また,リウマチ性MS(RMS)に比べ,DMS は高血圧症が多いとされているが,心電図所見や左房容積,大動脈弁口面積(AVA)の差異は検討されていない.
【目的】DMS の頻度を男女別,年代別に検討し,DMS の臨床的特徴を明らかにすること.
【方法】DMS は既報に準じ,1)僧帽弁を通過する加速血流を有し,左房- 左室間の平均圧較差2 mmHg 以上,かつ 2)MAC を有し,弁尖の可動制限を認めない例とした.一方,1)に加え,弁尖の可動制限を認める例をRMS とし,臨床的特徴を比較検討した.
【結果】2011年から2013年までに心エコー検査を行った8, 683例中,DMS を25例(0. 29%,82±11歳)認めた.DMS は男性(4, 911例中6例(0. 12%)) に比べ, 女性(3, 772例中19例(0. 50%),p<0. 01)有意に多く,年代別の検討では,60歳代3例(0. 14%),70歳代7例(0. 26%),80歳代7例(0. 43%),90歳以上8例(2. 52%)と高齢者に多く認めた.DMSはRMS(19例)に比べ,高齢(82± 11歳,p<0. 01)で,高血圧症の合併(96%,p<0. 05)が多く,左室心筋重量(123±37 g/m2,p<0. 01),AS(AVA<1. 0 cm2)の頻度(52%,p<0. 05)はいずれも高値だった.一方,DMS はRMS に比べ,心房細動の合併(16%,p<0. 05)が少なく,左房容積(58±19 ml/m2,p<0. 05)は低値であった.
【結語】DMS は女性と高齢者に多く認めた.またRMS に比べ,AS の合併が多く,心房細動は少ないことが明らかとなった.

45-17 . 左室駆出率が維持された低圧較差重症大動脈弁狭窄症の臨床的特徴

中島朋宏1、藤田善恵1、越智香代子1、山口翔子1、網谷亜樹1、矢戸里美1、石川嗣峰1、工藤朋子1、男澤千啓1、村上弘則2

1手稲渓仁会病院臨床検査部、2手稲渓仁会病院心臓血管センター循環器内科

【背景】近年,硬化性の重症大動脈弁狭窄症(AS)に対して経カテーテル大動脈弁留置術が施行されるようになり,その適応は大動脈弁口面積(AVA)が1. 0 cm2未満,かつ大動脈弁平均圧較差(meanPG)が40 mmHg 以上となっているが,AVA が1. 0 cm2未満の症例で, 左室駆出率(EF) が正常でも,meanPG が40mmHg 未満の症例を認める.
【目的】EF 正常の重症AS(AVA<1. 0 cm2)で低圧較差(meanPG<40 mmHg)の症例の臨床的特徴を調べること. 【方法】2011年12月1日から2015年5月31日までに当院にて経胸壁心エコーを施行し,硬化性重症AS(AVA<1. 0 cm2)と診断されたEF 50%以上の患者156例(平均年齢81±8歳,平均AVA 0. 77±0. 15 cm2)を対象とした.meanPG 40 mmHg 未満をL 群,meanPG 40 mmHg 以上をH 群として,H 群と比較したL群の特徴を検討した.
【結果】L 群は156例中70例(45%)であった.このうち,1回拍出係数(SVI) 35 ml/m2未満の低流量,低圧較差AS は4例(6%)のみであり,他の66例(94%)がSVI 35 ml/m2以上の正常流量,低圧較差AS であった.L 群はH 群に比し,年齢,AVAは高値,体表面積,左室拡張末期容積,左室重量係数,E/E’は低値,SVI,分時血流量が低値であった.Valvulo-arterial impedanceに差がなかったが,体血管抵抗(SVR)は高値であった.
【結論】L 群はH 群に比べ,高齢で,体格が小さく,左室肥大は軽く,AVA がより大きく,SVI が小さいが,大多数は正常流量の範囲に留まる低圧較差AS であった.SVR が過剰に高値であることが要因の一つと推測される.

45-18 . 大動脈弁狭窄症の術前後における心機能と形態の変化に関する検討;生体弁間での比較

安井謙司1、湯田 聡1,2,3、村中敦子3、大久保亜友美1、藤田美紀1、大井由紀子1、佐藤保美1、阿部記代士1、橘 一俊4、伊藤寿朗4、渡辺 敦5、三浦哲嗣3

1札幌医科大学附属病院検査部、2札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座、3札幌医科大学医学部循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座、4札幌医科大学医学部心臓血管外科学講座、5札幌医科大学医学部呼吸器外科学講座

【背景】大動脈弁狭窄症(AS)の対する弁置換術において,生体弁が用いられる場合が多くなっているが,その種類間において術前後の血行動態の変化の差異についての検討は十分ではない.
【目的】AS に対する術前後の心機能と心形態の変化に,生体弁の種類間で差異があるか検討すること.
【対象と方法】2011年1月から2015年5月までの間に,AS に対して弁置換術が施行され,生体弁であるTrifecta 弁(T 群)もしくはMAGNA 弁(M 群)を選択された20例(平均年齢74歳,男性12例)を対象とした.
【結果】T 群とM 群において,術前の年齢,大動脈弁通過最大血流速度(V max),大動脈弁平均圧較差(mean PG),大動脈弁口面積,左心機能指標(EF,E/A,e’,E/e’),左室心筋重量係数(LVMI),左房容積係数(LAVI),弁サイズ(21±2 vs. 20±1mm,p = NS)に差は認めなかった.両群とも術前に比べ,術後(平均10日)のV max,mean PG,有効弁口面積係数(EOAI)は,いずれも有意(p<0. 05)に改善した.T 群に比べ,M 群の術後のV max (2. 6±0. 3 vs. 3. 0±0. 5 m/sec,p<0. 05)およびmean PG(14±4 vs. 19±6 mmHg,p<0. 05)は有意に高値であったが,EOAI(1. 1±0. 2 vs. 1. 0±0. 2 cm2 /m2,p = 0. 11),左心機能指標,LVMI,LAVI は両群間で差はみられなかった.術前後における心機能と心形態指標の変化度は,両群間で差異は認めなかった.
【考察】M 群に比べ,T 群のV max とmean PG が低値であったのは,弁構造の差異によるものと思われる.
【結語】AS に対する弁置換術において,生体弁の種類により術後のV max とmean PG は差を認めたが,心機能,心形態の変化度に差は認めなかった.

45-19 . 術中経食道心エコーが経カテーテル大動脈弁置換術の合併症発見に有用であった2 例

石川嗣峰1、中島朋宏1、工藤朋子1、男澤千啓1、村上弘則2、廣上 貢2、山田 陽3、中西克彦3

1手稲渓仁会病院臨床検査部、2手稲渓仁会病院心臓血管センター循環器内科、3手稲渓仁会病院心臓血管センター心臓血管外科

【はじめに】経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が2013年10月から国内でも保険適応となった.当院でも2014年6月から施行され,2015年6月までに22例が施行されている(総大腿アプローチ(TF) 18例,経心尖アプローチ 4例).起こり得る合併症として,重症の弁周囲逆流・冠動脈閉塞・弁周囲血腫・弁輪破裂・大動脈解離・心タンポナーデ・重症不整脈・血管合併症・脳血管障害などが上げられている.当院で発生した合併症は3例あり,1例は心室細動,2例は術中経食道心エコー(TEE)が発見につながった.今回,TEE が合併症発見に有用であった2例について報告する.
【症例1】88歳女性.2015年3月TAVI(TF)施行.人工弁留置後にstent edge 部から左房側に30 mm 程度の小さな上行大動脈の解離を認め,術後の造影CT でも同部位の解離が確認された.
【症例2】89歳女性.2015年4月TAVI(TF)施行,人工弁留置後にST 変化を認め,一過性に右冠動脈領域の壁運動異常が出現した.直後の冠動脈造影では狭窄を認めず,比較的速やかに壁運動異常は改善した.
【結語】TAVI は比較的低侵襲であるが,合併症のリスクは高い.今回,重大ではないが,施行して初めてわかる合併症を経験できた.TEE は,合併症の第一発見者となる可能性が高く,その責務は非常に大きいので,軽微でも共有して認識すべき合併症と考え報告した.

【腹部】

座長: 長川達哉(JA 北海道厚生連札幌厚生病院第2 消化器内科)

田村悦哉(北海道社会事業協会帯広病院臨床検査科)

45-20 . 口腔疾患に対する頸部・口腔内超音波検査の有用性:当院における経験

田中真樹1、柳原希美1、阿部記代士2、大久保亜友美2、小林千紘2、安井謙司2、小林大介1,2、荻 和弘3、宮崎晃亘3、平塚博義3、湯田 聡1,2

1札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座、2札幌医科大学附属病院検査部、3札幌医科大学医学部口腔外科学講座

【背景】口腔疾患の診断において,CT やMRI に加え,超音波検査(US)は有用な方法である.しかし,歯や舌が存在する口腔内は狭く,平坦な箇所が少ないため,プローブの操作は容易ではなく,また画像の読影に熟練を要することから汎用されているとは言い難い.当院では2013年4月から歯科医師の指導下に,口腔疾患に対して,頸部・口腔内US を行っている.
【目的】当院における口腔疾患に対する頸部・口腔内US の現状を検討すること.
【対象と方法】対象は,2013年4月から2015年3月までの間に,当院口腔外科から依頼を受け,頸部・口腔内US を行った連続401例(男性181例,平均年齢64±17歳)である.US は,GE社製LOGIQ S8 もしくは東芝社製Aplio 500 の7 - 18 MHz のリニアプローブを用いて施行した.
【結果】1)401例中398例(99%)に対し,頸部・口腔内US の施行が可能であった.2)US に要する時間は,約10分であった.3)401例の内訳は,悪性腫瘍205例,良性腫瘍53例,炎症性疾患43例,その他の疾患38例であり,残り62例は,US 上異常所見は認めなかった.4)悪性腫瘍の内訳は,舌113例(55%),歯肉39例(19%),頬粘膜31例(15%),口腔底12例(6%),その他10例であった.初診の悪性腫瘍36例は,全例(100%)で頸部・口腔内US により腫瘍病変の描出が可能であった.5)良性腫瘍の内訳は,血管腫17例(32%),線維腫13例(25%),エプーリス6例(11%),脂肪腫5例(10%),多形性腺腫4例,その他8例であった.良性腫瘍53例中52例(98%)は,頸部・口腔内US により腫瘍病変の描出が可能であった.6)歯肉の粘膜病変,口腔カンジタ症と扁平苔癬は,US による診断は困難であった.
【結論】口腔疾患に対するUS は,ほとんどの例で短時間に施行が可能であり,良性および悪性腫瘍の腫瘍病変の描出は,ほぼ全例で可能であった.

45-21 . 体外式超音波検査を用いたクローン病の病変検出能の検討

島崎 洋1、北口一也1、石本博基1、松本和久1、那須野正尚2、宮川麻希2、田中浩紀2、本谷 聡2

1JA 北海道厚生連札幌厚生病院医療技術部放射線技術科、2JA 北海道厚生連札幌厚生病院IBD センター

【目的】クローン病の評価には,内視鏡やX線造影,CT などあらゆる画像診断が駆使されているが,長い臨床経過で再燃・寛解を繰り返す本疾患の評価には,低侵襲で繰り返し検査が行える手法が求められている.体外式超音波検査(以下US)は侵襲や被ばくがなく簡便に施行できることから,近年その有用性に注目が集まっている.今回,我々はクローン病患者に対するUS の病変検出能について検討した.
【方法】2013年3月から2015年4月の間にUS による消化管観察と下部消化管内視鏡検査(以下CS)が同時期に施行されたクローン病患者138例を対象とした.138例中,CS にて終末回腸が評価可能であった123例において,びらん・アフタ,縦走潰瘍などの所見を「CS 所見あり」,US にて壁肥厚や層構造の消失を呈した所見を「US 所見あり」と定義し,終末回腸における両所見の有無の一致率を検討した.また,138例中,同時期に小腸X線検査が施行されていた124例において,びらん・アフタ,縦走潰瘍などの所見を「X線所見あり」と定義し,終末回腸における小腸X線所見とUS 所見の有無の一致率も検討した.
【結果】US とCS の所見の一致率は76%(93 / 123例)であり,US と小腸X線検査の所見の一致率も76%(94 / 124例)であった.不一致症例において,US とCS では12例でUS の過大評価,18例で過小評価であり,US とX線検査では11例でUS の過大評価,19例で過小評価であった.
【結語】クローン病患者において,終末回腸に対するUS とCS,US と小腸X線検査の所見の一致率はいずれも76%と比較的高値であった.患者の苦痛が少なく前処置なしに施行することができるUS は,クローン病の病変検出に有用であることが示唆された.

45-22 . 切除可能大腸癌の術前精査における,体外式超音波検査による局在診断の有用性

津田桃子1、西田 睦2,3、水島 健1、佐藤恵美2,4、工藤悠輔2,3、表原里実2,3、下國達志5、本間重紀5、加藤元嗣1、坂本直哉1

1北海道大学大学院医学研究科消化器内科学分野、2北海道大学病院超音波センター、3北海道大学病院検査・輸血部、4北海道大学病院放射線部、5北海道大学大学院医学研究科消化器外科学1

【背景・目的】大腸癌の外科治療において原発巣の局在部位を明確にすることは,切除腸管・郭清リンパ節範囲を決定するうえでの必須事項である.今回,体外式超音波検査(US)の大腸癌局在診断ツールとしての有用性を,標準的ツールとして用いられる下部消化管内視鏡検査(CS)およびCT 検査(CT)との比較から検討した.
【対象】術前にCS,CT,US を全て施行した大腸癌切除症例131例(2011年2月から2014年7月).
【方法】US 装置は東芝Aplio XG/ 500,使用プローブは中心周波数帯3. 75 MHz, 6 MHz, 7. 5 MHz.局在部位は大腸癌取扱い規約第8版に基づき決定.原発巣診断は,CS では術者の判断で,CTでは放射線科診断医の読影レポートを参照,US では系統的走査での内腔面の不整な限局性壁肥厚像を,局在部位の確定は外科手術所見をもって判定.統計学的一致度の指標としてカッパー係数を用いた.
【結果・考察】131例134病変を検討.指摘可能病変はCS:99. 3%(133 / 134病変),CT:73. 1%(98 / 134病変),US:96. 3%(129 / 134病変).外科手術所見による最終局在診断と各画像診断とのカッパー値はCS:0. 84,CT:0. 63,US:0. 85.各検査で指摘し得なかった病変は,CS:1例(進行癌口側の早期癌),CT:深達度sm 以浅の早期癌は24 / 36病変(66. 7%),部位ではS 状結腸12 / 36病変(33. 3%).US:上行結腸1病変(平坦な早期癌),直腸4病変(深達度sm3病変,mp1病変で深部のため観察不良).
【結語】深部評価における限界はあるが,US はCT で同定が困難な早期癌においても,CS と同等の局在診断能をもつ有用なツールといえる.

45-23 . 造影超音波検査により特徴的パターンが得られた基質産生乳癌の1 例

堀江達則1、西田 睦1、佐藤恵美1、工藤悠輔1、表原里実1、岩井孝仁1、藤澤孝志2、三橋智子1、加藤扶美3、山下啓子4

1北海道大学病院超音波センター、2北海道大学病院病理部、3北海道大学病院放射線診断科、4北海道大学病院乳腺外科

【症例】50代女性,閉経後
【臨床経過】検診MMG にて左乳腺に不均一な高濃度腫瘤影指摘.針生検にてcarcinoma の診断で翌月精査,加療目的に当院紹介受診. 【MMG】左U-O に辺縁微細鋸歯状の腫瘤.
【超音波検査(US)】左乳腺AC 領域に長径10 mm の境界明瞭粗造な低エコー結節を認めた.形態は分葉形,後方エコーは減弱しHalo を伴っており,内部は均質的で石灰化は指摘されない.ドプラにて体表側より流入するspot 状の血流信号を認めた.Sonazoid 造影US にては,arterial phase にて結節辺縁がリング状に強く造影され,中心部方向に結節状の造影効果を認めたが,他の大部分は造影効果不良であった.venous phase にて造影効果は速やかに減弱した.強い造影効果を認める範囲はB モード上の低エコー腫瘤より広く,浸潤性乳管癌を疑った.術前化学療法後,左乳房温存術が施行された.
【切除標本病理組織所見】基質産生乳癌(MPC),triple negativeであった.
【考察】MPC は乳癌のmetaplastic carcinoma の一亜型であり,比較的稀な腫瘤である.加療前の生検組織像では,腫瘤は中心部に線維化と浮腫を伴い,辺縁部では軟骨様基質を産生する癌腫上皮成分が増殖していた.軟骨様基質はアルシアン青に陽性を示し,上皮成分は免疫組織化学的にS-100蛋白が陽性であった.辺縁の癌腫上皮成分は造影US のリング状の強い造影効果に,中心部の造影効果を認めない領域は線維化と浮腫に対応すると考えられた.この造影パターンは特徴的であり,MPC が示唆される根拠になる所見と考えられた.
【まとめ】造影US によりMPC に特徴的なリング状の典型的な濃染パターンを呈した一例を報告する.

【腹部】

座長: 麻生和信(旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野)

長谷川聡洋( JA 北海道厚生連網走厚生病院医療技術部放射線技術科)

45-24 . 多彩な超音波像を呈した原発性肝未分化肉腫の1 例

関野益美1、鈴木康秋2、泉谷正和1、斎藤なお1、松本靖司1、村上雄紀2、久野木健仁2、芹川真哉2、杉山祥晃2

1名寄市立総合病院臨床検査科、2名寄市立総合病院消化器内科

【症例】70歳代の男性.1 ヶ月前に強い右側腹部が出現.その後,高熱,腹部重苦感が持続し,近医受診.炎症反応高値で抗菌剤投与されるも改善無く,当院消化器内科受診となった.血液生化学検査では,WBC 13, 500,CRP 26. 4,AST 46,ALT 47,ALP509,γGTP 34と,著明な炎症反応と軽度肝障害を認めた.HBs抗原陽性,HCV 抗体陰性で,AFP 4. 8,PIVKA-II 55,CEA 2. 7,CA19-9 2. 0,可溶性IL2R 1, 290 で,PIVKA-II と可溶性IL2R の軽度上昇を認めた.腹部造影CT では,肝前区域に大小の結節が癒合した低吸収域を認め,内部はまだら状に造影され,一部にガス像も認めた.さらに,横隔膜に浸潤していた.超音波では内部エコーは不均一で,様々なエコー輝度の腫瘤が癒合していた.造影超音波血管相では,口径不同のirregular pattern の腫瘍血管を認め,腫瘤はまだら状に造影された.以上より低分化型HCC を疑い,肝腫瘍狙撃生検を施行した.多核の大型の異型細胞が増殖しており,低分化型HCC あるいは肉腫が疑われた.肝前区域切除を施行.巨核で奇怪な核を有する多形性の異型細胞の充実性増殖を認め,広範な壊死巣を伴っていた.免疫染色ではVimentinのみ陽性であり,肝未分化肉腫の診断となった.
【考察】原発性肝肉腫は,類上皮性血管内皮腫,血管肉腫,未分化肉腫,横紋筋肉腫などに分類される.原発性肝未分化肉腫は成人例は稀であり,内部に出血・壊死・嚢胞変性を認める.本症例の多彩な超音波像はこれら組織型を反映したものであり,極めて示唆に富む症例を考え報告する.

45-25 . 造影超音波で血流動態を観察し得た肝Hodgkin リンパ腫の2 例

今西梨菜,鈴木康秋,村上雄紀,久野木健仁,芹川真哉,杉山祥晃

名寄市立総合病院消化器内科

【目的】クローン病の評価には,内視鏡やX線造影,CT などあらゆる画像診断が駆使されているが,長い臨床経過で再燃・寛解を繰り返す本疾患の評価には,低侵襲で繰り返し検査が行える手法が求められている.体外式超音波検査(以下US)は侵襲や被ばくがなく簡便に施行できることから,近年その有用性に注目が集まっている.今回,我々はクローン病患者に対するUS の病変検出能について検討した.
【症例1】50歳代の男性.腹部重苦感,体重減少を認め近医受診.B mode にて,膵頭部腫瘤と多発肝・脾腫瘤を指摘され当科紹介.造影CT では,肝門部から膵頭部にかけて内部low の一塊となった径60 mm の腫瘤と大動脈周囲リンパ節腫大を認めた.肝にはS 8 に40 mm の嚢胞性腫瘤と,その他にややlow なarea が散在していた.脾内にも小腫瘤が多発していた.CT fusion 造影超音波では,肝門部から膵頭部の腫瘤は,内部は造影されず,辺縁が不整に造影された.後血管相では肝,脾にdefect となる腫瘤が多発し,defect re-injection にて内部は微細血流により淡く造影された.可溶性IL2R が2, 570 と高値であり,悪性リンパ腫を疑い,頚部リンパ節生検を施行.Hodgkin リンパ腫肝浸潤の病理診断となった.
【症例2】50歳代の男性.Hodgkin リンパ腫(Stage IIIB)にて加療中.B mode にて肝S 8 に内部不均一なhypoechoic area を認め,悪性リンパ腫肝浸潤が疑われた.造影超音波では,血管相にて微細な血流を認め淡く造影され,後血管相では,P 8 と連続する不整形・不均一な造影欠損を呈した.B モード超音波下で肝狙撃生検を施行したが,明らかなリンパ腫組織は採取されなかった.病変は腫瘤を形成せず,リンパ腫組織は病変内に不均一に浸潤していると考えられた.その為,造影超音波下肝狙撃生検を後血管相下で施行した結果,Hodgkin リンパ腫肝浸潤の組織診断となった.
【考察】続発性肝悪性リンパ腫は,60 ~ 70%が症例1 のような結節型を形成するが,30 ~ 40%は症例2 のようなびまん型や混合型を呈することが知られており,特にHodgkin リンパ腫では結節型は少ないといわれている.また,Hodgkin リンパ腫は,本邦では悪性リンパ腫の10%未満と比較的少ないが,本症例はいずれも造影超音波で腫瘍内の血流動態を詳細に観察可能であった.

45-26 . 造影3D 超音波による肝癌の精密病態診断- 病理組織学的検討-

麻生和信、岡田充巧,玉木陽穂,太田 雄,大竹 晋,鈴木裕子,岩本英孝,高橋賢治,山北圭介,北野陽平,和田佳緒利,羽田勝計

旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野

超音波造影剤ペルフルブタンの登場によって造影超音波は飛躍的に進歩し,これにより肝癌診療は大きく発展した.ただし,現状では造影2次元超音波(造影2D 超音波)が臨床応用の主流であり,超音波特有の術者依存や客観性などの課題は依然残されたままである.造影3次元超音波(造影3D 超音波)はそのような問題の解決に加え,さらに高精度な診断を目指して研究開発が進められ,近年では画像処理技術の急速な進歩により肝腫瘍の精密病態診断が行える段階まで発展している.これまで我々は,高音圧撮影下のペルフルブタン造影3D 超音波を肝癌診療に応用し,他の画像診断との精度比較や肝癌の造影3D 画像と病理像との比較検討を行ってきた.その結果,造影3D 超音波は腫瘍の立体構造を精細かつ客観的に評価できるという優れた特長を有し,さらに肝癌の臨床応用面では腫瘍血管形態と腫瘍形態の両面から病態診断を進めることで,肝癌の肉眼的病理診断のみならず,組織学的分化度診断にも寄与する可能性が示唆された.そこで,今回は肝癌切除例に関する我々の検討から,肝癌の造影3D 画像と病理組織像との関連について報告する.

45-27 . 超音波画像が発見契機となった小型膵SPT の2 例

長川達哉1、北川 翔1、宮川宏之1、岡田邦明2、村岡俊二3

1JA 北海道厚生連札幌厚生病院第2 消化器内科、2道都病院外科、3JA 北海道厚生連札幌厚生病院病理診断科

超音波画像により発見され非典型的な画像所見を呈したSPT(Solid-pseudopapillary tumor)の初期像と考えられる2例を経験したので報告する.症例1 は46歳女性,EUS にて膵体部に境界比較的明瞭,内部均一な充実性低エコー腫瘤を指摘された.CTでは境界やや不明瞭な最大径12 mm のLow density tumor として描出され造影効果に乏しかった.MRI ではT1WI でLow,T2WIでHigh intensity tumor として描出された.ERP では膵管系に著変を認めなかった.症例2 は26歳女性,US スクリーニングにて膵体部に内部均一な充実性低エコー腫瘤を指摘された.CT では動脈相にて境界明瞭な最大径15 mm のLow density tumor として描出され,実質相でわずかに造影効果を認めた.MRI ではT1WI でLow,T2WI で軽度High intensity tumor として描出された.ERP では膵体部主膵管に12 mm 長の平滑な狭窄所見を認めた.共に組織学的には辺縁部を中心に腫瘍内出血を伴うものの,典型像とされる肉眼的な嚢胞変性や被膜形成を認めない小型のSPT であった.免疫染色ではα1-antitrypsin 陽性,α1-antichymotrypsin陽性,Chromogranin A 陰性,Grimerius 染色陰性であった.また腫瘍辺縁に線維性被膜は形成されておらず,膵実質との境界はモザイク状に入り混じり不規則となっているが,脈管浸潤,神経周囲浸潤,リンパ節転移など悪性を示唆する組織所見は見られなかった.病理組織学的に出血や壊死などの変性を伴う以前の初期像を呈するSPT と考えられ,そのため線維化や被膜形成などの生体反応が見られず,非典型的な画像を呈した症例と考えられた.

【腹部】

座長: 古家 乾(JCHO 北海道病院消化器内科)

島崎 洋( JA 北海道厚生連札幌厚生病院医療技術部放射線技術科)

45-28 . ファントムを用いた超音波エラストグラフィの硬度分解能,装置間差の評価

工藤悠輔1,2、西田 睦1,2、佐藤恵美2,3、井上真美子1,2、表原里実1,2、堀江達則2,3、岩井孝仁1,2、若林 倭2,3、渋谷 斉1、清水 力1

1北海道大学病院検査・輸血部、2北海道大学病院超音波センター、3北海道大学病院放射線部

【背景】近年,肝線維化診断において,shear wave を用いた超音波エラストグラフィが普及している.原理は共通だが,メーカーによってデータ取得方法は様々であり,硬度分解能や装置間差については不明な点が多い. 【方法】装置はSiemens 社製ACUSON S2000,GE 社製LogiqE9,Philips 社製iU22 xMATRIX,TOSHIBA 社製Aplio 500 の4機種である.装置名は匿名化し,順不同にA ~ D とした.探触子は腹部スクリーニングに用いるものを評価した.ファントムはEASTEK 社製エラストQA ファントム049型を用いた.硬度既知の球状ターゲットが同素材のブロック内に埋め込まれ,硬度はそれぞれ3,8,14,25,45 kPa に調整されたものである.測定は各装置デフォルトの設定で行い,視野深度は10 cm に固定した.ターゲットを描出し,計測ROI は球状ターゲットの中心である,深度3. 5 cm に設定した.計測は1名の超音波検査士が行い,硬度毎に10回ずつ計測し,計測値はkPa 表記とした.評価項目は各装置の硬度分解能と硬度ターゲット毎の計測値の差とした.統計学的解析にはKruskal-Wallis 検定を用い,危険率は5%未満を有意とした.
【結果】各装置の硬度分解能はA ~ C では硬度が上昇するにつれて計測値が上昇し,硬度毎に有意な差が認められた(p<0. 001).D のみ3 kPa より8 kPa のターゲットの方が低値を呈した.各社の硬度毎の差では3 kPa では全装置間に有意な差が認められた(p<0. 05).8 kPa ではBのみ他装置に比し,有意に低値であった(p<0. 01).14 kPa ではB のみ他装置に比し,有意に高値であった(p<0. 01).25 kPa,45 kPa では全装置間に有意な差は認めなかった.
【結論】各装置の硬度分解能は概ね良好だが,硬度により,装置間差が存在すると考えられ,結果の解釈には注意が必要である.

45-29 . 肝臓における超音波組織弾性測定の機種間差の検討-Shear wave with Smart maps とFibroScan との比較

若林 倭1,2、工藤悠輔2,3、西田 睦2,3、堀江達則1,2、岩井孝仁2,3、表原里実2,3、佐藤恵美1,2、高杉莉佳2,3、小川浩司4、坂本直哉4

1北海道大学病院放射線部、2北海道大学病院超音波センター、3北海道大学病院検査輸血部、4北海道大学病院消化器内科

【背景】超音波を使用した組織弾性度の評価法としてエラストグラフィがあり,各社より様々なエラストグラフィ装置が開発されている.今回,新たに開発された東芝メディカルシステムズ社製のShear wave with Smart maps (SwSm)を使用し,肝臓における超音波組織弾性値を測定し,FibroScan® (TE)と比較・検討したので報告する.
【対象・方法】2015年5月から7月の間に肝硬度測定を依頼された患者のうち,TE とSwSm を同時に計測し得た慢性肝炎の患者,B 型18例,C 型26例,その他19例の合計61例 (B 型C 型重複2例).使用機種および探触子はECHOSENSE 社製FibroScan® ,M probe,東芝Aplio 500 TM,375 BT.測定方法は右肋間走査にて肝S 5領域付近を描出し,TE による10回の中央値(median)[kPa]とSwSm をほぼ同一領域にて肝表面から1 cm 付近に約3 cm×3 cm のROI を設定し,ワンショットスキャンにて5回測定.設定したROI 内でVs 値[m/s]を伝播表示にて均一に伝搬している領域をそれぞれ2 ヶ所計測し,[kPa]に変換.10回の中央値(median)をSwSm の測定結果として比較した.また,SwSm において,各計測値がCV 20%以上となった値を計測困難値とし,計測困難値6個以上の症例を計測困難例とした.本研究は院内倫理委員会の承諾を得ている.
【結果・考察】計測困難例は36. 1%(22 / 61例)であった.計測困難例を除いた39例の検討ではSwSm とTE との間にはr = 0. 88 (p<0. 001)と強い相関関係を認めた.体表から肝臓までの距離が2 cm 以上ある症例や肋間が狭い例では計測困難な場合が多く,同時に算出されるSD を用いて,有効なデータを吟味する必要があると考えられた.今後SwSm を用いた弾性度測定におけるcut-off 値を設定することで,臨床で活用可能と考えられた.
【結語】SwSm を用いた肝組織弾性度はTE との強い相関関係を認めた.

45-30 . Shear Wave Elastography(SWE)とVibrationControlled Transient Elastography(VCTE)による慢性肝疾患の肝硬度測定─ MR Elastography(MRE)との比較検討─

鈴木康秋1、村上雄紀1、久野木健仁1、芹川真哉1、杉山祥晃1、関野益美2、泉谷正和2、斎藤なお2、松本靖司2

1名寄市立総合病院消化器内科、2名寄市立総合病院臨床検査科

【はじめに】近年,非侵襲的肝線維化評価法として,超音波やMRI を用いたElastography による肝硬度測定が注目されている.我々は,NAFLD の進行度評価におけるMR Elastography(MRE)の有用性を報告しているが,近年,せん断波の伝搬による肝臓の変位を解析し,肝硬度を評価する超音波Elastography が各メーカーより開発されている.今回我々は,慢性肝疾患に対し,Shear Wave Elastography(SWE)とVibration Controlled TransientElastography(VCTE)により肝硬度を測定し,MRE と比較検討したので報告する.
【対象】慢性肝疾患患者189例.内訳は,肝硬変(LC)59,非肝硬変(non LC)130例で,成因別では,NAFLD 79,C 型肝炎39,アルコール性肝障害32,B 型肝炎29,その他10例.
【方法】<SWE> 使用装置はGE Healthcare 社LOGIQ E9.<VCTE> 使用装置はEchosens 社FibroScan 502 Touch.<MRE>使用装置はGE Healthcare 社Optima MR450w 1. 5 T.それぞれの平均弾性率(SWE はm/s,VCTE とMRE はkPa)を肝弾性度とした.SWE,VCTE それぞれ,線維化バイオマーカー(血小板数,4型collagen 7S,FIB4 index)との相関,MRE との相関,両者の相関を検討した.
【結果】1,SWE 弾性度はLC 2. 1 m/s,non LC 1. 5 m/s,VCTE弾性度はLC 20 kPa,non LC 7. 7 kPa で,それぞれ有意差を認めた.2,USE 弾性度は血小板数と負の相関を示し,4型collagen7 S ,FIB4 index と正の相関を示した.VCTE 弾性度は4型collagen7S ,FIB4 index と正の相関を示した.3,USE,VCTE 弾性度はそれぞれMRE 弾性度と強く相関した.4,USE とVCTEの各弾性度は相関した.
【まとめ】SWE・VCTE とMRE は,超音波とMRI で測定modalityが異なるが,いずれも肝内に発生するShear Wave を測定しているため,両者の肝弾性は相関したと考えられた.

45-31 . Controlled Attenuation Parameter(CAP)による肝脂肪量測定─ MRI IDEAL IQ との比較検討─

松本靖司1、鈴木康秋2、関野益美1、泉谷正和1、斎藤なお1、村上雄紀2、久野木健仁2、芹川真哉2、杉山祥晃2

1名寄市立総合病院臨床検査科、2名寄市立総合病院消化器内科

【はじめに】肝組織の脂肪化は,従来は超音波画像の輝度上昇などにより主観的・定性的に評価されていた.Controlled AttenuationParameter(CAP)は,FibroScan の超音波信号が肝組織を伝播して戻ってくる際の減衰値を計測することによって肝脂肪量を定量化する新手法である.また,MRI IDEAL IQ はcomplex ベースのMRI 化学シフト法で,fat image により肝脂肪量の定量化が可能である.今回我々は,慢性肝疾患に対し,CAP とMRI IDEALIQ の両者により肝脂肪量を測定し検討したので報告する.
【対象】慢性肝疾患患者40例.内訳は,LC 10,non LC 10例で,成因別では,NAFLD 11,C 型肝炎12,アルコール性肝障害11,B 型肝炎3,その他3例.
【方法】<CAP>使用装置はEchosens 社FibroScan 502 Touch.超音波減衰値(dB/m)を肝脂肪量とした.<MRI IDEAL IQ fatimage> 使用装置はGE Healthcare 社Optima MR 450w 1. 5 T.IDEAL IQ fat image の脂肪含有率(%)を肝脂肪量とした.CAPとSaadeh らの超音波脂肪肝grade,BMI,Vibration ControlledTransient Elastography(VCTE)による肝弾性度,MRI IDEAL IQfat image との相関を検討した.
【結果】1,CAP 肝脂肪量はLC 184. 8 dB/m,non LC 247. 2 dB/mで,non LC 群が有意に多かった.2,CAP 肝脂肪量は超音波脂肪肝grade と強い相関を示した.3,CAP 肝脂肪量はBMI,VCTE 肝弾性度とは相関を認めなかった.4,CAP 肝脂肪量はMRI IDEAL IQ fat image と相関した.5,高度肥満の1例(BMI43)は,MRI IDEAL IQ 測定は可能であったが,CAP 肝脂肪量は測定不能であった.
【まとめ】CAP による肝脂肪量測定は,MRI IDEAL IQ fat imageと相関し,また比較的容易であるため,高度肥満例を除けば,肝脂肪量の定量化に有用であると考えられた.

【基礎】

座長: 岩野弘幸(北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学)

西田 睦(北海道大学病院検査・輸血部/ 超音波センター)

45-32 . 画像差分シュリーレン法を用いた減衰媒質中における超音波音場の可視化

飯島優季奈、工藤信樹

北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

現在,生体内の音圧はハイドロホンで測定した水中での音圧波形に生体の減衰係数を乗じることにより推定されている.しかし,水中と生体内では音圧の違いによる波形の非線形性の程度が異なるため,振幅の換算だけでは補正が不十分であると考えられる.そこで本報告では,透明度の高い減衰媒質を伝搬する超音波の減衰を画像差分シュリーレン法により直接観察する実験を行った.減衰ファントムは,水に重量比10%のカラギナン(パールアガー8,富士商事)を加え,加熱し溶解させ,脱気した後,硬化させて作成した.10 MHz の平面振動子(V311,オリンパス)で透過法を用いて計測した減衰係数と音速は,それぞれ0. 053[dB/MHz/cm],1, 540[m/s]であった.また同じ平面振動子を用いて,減衰媒質中の音場像を伝搬距離15. 4 mm,30. 8 mm,46. 2mm で撮影したものをFig. 1,その輝度波形Fig. 2 の振幅変化を求めた.これより求めた減衰係数は,0. 052[dB/MHz/cm]となり,音響計測の結果とよく一致した.今後は生体内の減衰を想定した減衰媒質内の計測を進めていく.

45-33 . 1, 000 万フレーム毎秒でのソノポレーション現象の観察

五十嵐康信、工藤信樹

北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

遺伝子や薬剤を細胞内に導入するソノポレーションを実現する上で,超音波照射下における微小気泡のダイナミクスと細胞への作用の機序を解明することは重要な課題である,これまで我々は,イメージコンバータ式高速度カメラ(ultranac,ナックイメージテクノロジー)を用いて,カバーガラスの下に浮遊している気泡のふるまいを観察することで機序を検討してきた.今回は,従来のカメラに比べ,撮影速度・解像度・撮影コマ数等が向上したCMOS イメージセンサ式高速度カメラ(HPV-X,島津製作所)を用いて観察を行った結果を報告する.カバーガラス上に培養したヒト前立腺がん細胞(PC-3)にバブルリポソームの気泡を付着させた後にカバーガラスを観察チャンバに取り付け,中心周波数1 MHz,最大負圧0. 5 MPa,波数10波のパルス超音波を1回照射し,気泡と細胞のふるまいを1, 000万コマ毎秒の速度で256コマ撮影した.1周期に撮影可能なコマ数は4 から10 コマに,総コマ数は24 から256 コマに増加し,輝度分解能も向上したため気泡と細胞の相互作用のより詳細な観察が実現できた.Fig. 1は撮影結果の1例から,6 コマを抜粋したものである.照射前と比べ,気泡の膨張時に細胞が押し広げられる様子が観察され(白破線),照射後に細胞の形が大きく変形していることが確認できる.

45-34 . ARFI イメージングに用いられる超音波が心筋細胞に与える損傷の発生メカニズム

三輪 英、工藤信樹

北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

我々は,ラットの心筋細胞を用いて超音波照射が心臓に与える影響を検討し,診断装置に用いられる短パルスでは,期外収縮の発生が拍動に対する時相に依存することを明らかにしてきた.今回は,Acoustic Radiation Force Impulse(ARFI)イメージングに使われる波数が多くパワーが大きい超音波パルスが生体に作用を与える機序を検討するため,脱気条件の異なる2条件のハンクス緩衝液(HBSS)内の心筋細胞に生じる損傷を観察した.脱気は40℃に加熱し約0. 1 Pa の真空チャンバ内に2時間放置することにより行い,細胞培養条件で平衡させたHBSS をコントロール実験に用いた.拍動をしている心筋細胞に中心周波数1 MHz,最大負圧1. 5 MPa,300波の超音波を照射したところ,脱気条件では超音波照射後も照射前と変わらず拍動を続けたのに対し,コントロールでは細胞に修復不可能な損傷が生じた.(Fig. 1)この条件では,照射後に気泡の発生が常に認められたことから,照射前に目視で確認できなかった気泡が照射を受けて成長し,キャビテーションの機械的作用により損傷を与えたものと考えられる.以上より,ARFI の音響放射力や生じる音響流のみでは心筋細胞に損傷を与えることはなく,キャビテーションの作用が重要であることが示された.

【腹部】

座長: 小室 薫(国立病院機構函館病院循環器科)

青木 朋(心臓血管センター北海道大野病院検査部)

45-35 . 頭蓋外内頸動脈瘤の1 例

横山典子1、小室 薫2、渋谷美咲1、早乙女和幸1、鏡 和樹2、島津 香2、高橋佑美2、広瀬尚徳2、安在貞祐2、米澤一也3、山崎貴明4

1国立病院機構函館病院臨床検査科、2国立病院機構函館病院臨床検査科、3国立病院機構函館病院臨床検査科、4函館脳神経外科病院脳神経外科

【はじめに】頭蓋外内頸動脈瘤は稀な疾患で,原因は主に動脈硬化や外傷といわれている.また脳梗塞や脳潅流不全の原因となることがあるため,頭蓋内潅流の評価が重要である.今回,我々は頭蓋外内頸動脈瘤の1例を経験したので報告する.
【症例】81歳,女性.既往歴は糖尿病,脂質異常症.現病歴は,全身倦怠感で近医を受診.CT 検査にて左頸部に腫瘤を認め,精査目的で当院外科に紹介入院となった.超音波検査では左頸部に21×19 mm の腫瘤を認めた.腫瘤は内頚動脈と連続しており,腫瘤内部には内頚動脈からの血流が流入し,また血流が流出するのが観察された.腫瘤内に壁在血栓は認めず,内頸動脈は腫瘤の前後で大きく蛇行していたが,狭窄などの潅流異常は認めなかった.MRA では左内頸静脈上方前面に20×17 mm の,T 1強調画像で低信号,T 2強調画像では高信号の腫瘤を認めたが,周囲の血管との連続は十分にはわからなかった.その後精査目的で脳神経外科病院に転院となり,脳血管造影で左頸部内頚動脈の頭蓋外内頚動脈瘤と診断された.頭蓋内潅流障害はなく,無症状で高齢であることから経過観察となった.
【考察】頭蓋外内動脈瘤は脳虚血症状または嗄声や咽頭痛等の局所圧迫症状にて発症することが多く,瘤破裂による出血症例は稀とされている.本症例は頭蓋内潅流障害,瘤内の血栓,および圧迫症状を認めなかったことから外科的治療は選択されなかった.診断には脳血管造影が必須であるが,本症例では内頚動脈とのつながりの同定に超音波検査が有用であった.
【結語】頭蓋外内頸動脈瘤の1例を経験したので報告した.

45-36 . 左膝窩静脈の新鮮血栓が下肢静脈エコー中に消失したため,中枢側への移動を疑い検索した結果,卵円孔に捕捉された血栓を確認できた1 例

越智香代子1、中島朋宏1、藤田善恵1、山口翔子1、石川嗣峰1、男澤千啓1、村上弘則2

1手稲渓仁会病院臨床検査部生理検査室、2手稲渓仁会病院心臓血管センター循環器内科

【患者】86才 女性
【背景】左大腿骨骨折により前医で入院加療中に突然の嘔吐・血圧低下・酸素化低下が見られ,緊急造影CT にて両側肺動脈内に多量の血栓および左下肢静脈血栓を認め,加療目的に当院紹介となった.経胸壁心エコー検査にて右心系の拡大とMc Connellsign・左室扁平化を認め,推定右室収縮期圧53 mmHg と上昇していた.このとき,心内に明らかな血栓は認めなかった.続けて,下肢静脈エコーを施行したところ,左膝窩静脈に新鮮血栓を確認した.検査中,再び同部位の血栓の描出を試みたところ,新鮮血栓は消失していた.中枢側に向かって順次血栓の検索を行うと,卵円孔に捕捉された右房内血栓が確認できた.バイタルの変動や推定右室収縮期圧の増悪は認めなかった.同日,血栓溶解療法が施行され,翌日の経胸壁心エコー検査では右房内血栓は消失していた.後日施行した経胸壁心エコー検査では,推定右室収縮期圧は正常化し,右心系拡大も軽快し,造影CT では肺動脈内の血栓は右側末梢に僅かに確認される程度まで減少していた.
【結語】下肢静脈エコー中に新鮮血栓が消失したため,中枢側への移動を疑いエコーにて検索した結果,卵円孔に捕捉され,右房内を漂う血栓を確認できた症例を経験したので報告した.

45-37 . 健常人における末梢動静脈の超音波検査所見:体格および性差の検討

柳谷貴子1、赤坂和美1、樋口貴哉1、中森理江1、松本靖司2、小島リサ3、八巻朋子4、神崎こずえ5、藤井 聡1、東 信良6

1旭川医科大学病院臨床検査・輸血部、2名寄市立総合病院臨床検査科、3士別市立病院臨床検査室、4天使病院生理検査科、5北彩都病院検査科、6旭川医科大学循環・呼吸・腫瘍病態外科

【背景】末梢動脈疾患の疑われる動脈や下肢血行再建術に用いる静脈を,超音波検査にて評価する機会が増加しているが,健常人での末梢動静脈の超音波所見に関する報告は少ない. 【目的】健常人における後脛骨動脈(PTA)径と血流量,下腿の大伏在静脈径について評価することを目的とした.
【対象と方法】2014年9月15日に開催されたTake! ABI&Echoの来場者91名中,ABI が0. 9以下の症例,静脈瘤とPTA 血流速波形がI 型以外の症例を除外した77名(男性32名,48 ~ 90歳)を対象とした.大伏在静脈径は右下肢の膝蓋骨下端より10 cm,20 cm 末梢側(A,B)で仰臥位にて計測した.計測値について,体表面積(BSA)との関係,性差を検討した.
【結果】静脈径はBSA と正の相関を認めた(A: r = 0. 39,B: r = 0. 44,ともにp<0. 01).PTA 径と血流量もBSA と正の相関を認めた(径: r = 0. 37,血流量: r = 0. 39,ともにp<0. 01).男性は女性に比して静脈径A,B は有意に大であった(A: 2. 42±0. 62 vs 2. 10 ±0. 47 mm,p<0. 05,B: 2. 40 ±0. 60 vs 1. 99±0. 39 mm,p<0. 01).動脈径,血流量も男性は有意に大であった(径: 2. 13±0. 56 vs 1. 87±0. 32 mm,p<0. 01,血流量: 30. 2±16. 6 vs 21. 0±11. 4 ml/min,p<0. 01).PTA 血流量と静脈径の間には有意な正の相関を認めた(A: r = 0. 51,B: r = 0. 50,ともにp<0. 01).しかしながら,動静脈径とBSA との相関,PTA血流量と静脈径の相関は男性においてのみ認められ,女性には認められなかった.
【考案】限られた症例数での検討であるものの,末梢の血管径や血流量には男女差が認められた.これらの違いは体格の違いだけでは説明できず,女性において別の因子が関与している可能性が考えられた.
【結語】末梢動静脈径や動脈血流量は,体格や性差により影響を受けることが示唆された.

45-38 . 人工関節置換術後の新規深部静脈血栓症の発生予測に有用なひらめ静脈径の検討

阿部記代士1、湯田 聡2,3、安井謙司1、大久保亜友美1、小林千紘1、村中敦子3、橋本暁佳4、寺本篤史5、名越 智6、山下敏彦5、三浦哲嗣3

1札幌医科大学附属病院検査部、2札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座、3札幌医科大学医学部循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座、4札幌医科大学医学部病院管理学、5札幌医科大学医学部整形外科学講座、6札幌医科大学医学部生体工学運動器治療開発講座

【背景】人工関節置換術(JR)後の深部静脈血栓症(DVT)発生予測因子として,高齢,人工膝関節置換術(TKA)に加え,ひらめ静脈の拡大(10 mm 以上)が報告されている.しかし,新規DVT 発生予測に最も有用なひらめ静脈径の値は不明である.
【目的】JR 後の新規DVT 発生予測に有用なひらめ静脈径を検討すること.
【対象と方法】2014年9月から2015年5月までの間にJR 術前および術後に下肢静脈エコー検査を施行した連続59例(平均年齢66±13歳)を対象とした.術前(平均5日)と術後(平均9日)に,下肢静脈エコー検査を行い,DVT の有無を評価した.ひらめ静脈の観察は,ベッド横に下腿を下垂させて行い,左右ひらめ静脈の最大短軸径を計測した.
【結果】18例(31%)に新規DVT の発生を認めた(DVT 群).DVT 群は非DVT 群(41例)に比べ,ひらめ静脈径は有意に大であったが(9. 1±2. 5 vs. 7. 2±1. 9 mm,p<0. 01),年齢(67±11 vs. 66±13歳,p = NS)とTKA の頻度(39% vs. 27%,p = NS)は,2群間で差を認めなかった.ROC 曲線から求めた閾値(ひらめ静脈径8. 5 mm 以上)を用いると,感度61%,特異度85%で,JR 後の新規DVT 発生を予測可能であった.
【考察】ひらめ静脈径の正常値は6. 7±1. 8 mm と報告されており,今回の閾値(8. 5 mm)は,その上限を超える値であった.今後症例数を増やし,術式毎に新規DVT 発生予測に有用なひらめ静脈径を検討する必要がある.
【結論】JR 後の新規DVT 発生予測に有用なひらめ静脈径の閾値は,従来の10 mm より低値であると考えられた.