Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2023 - Vol.50

Vol.50 No.03

Editorial(エディトリアル)

(0157 - 0158)

盤上から読む今日的超音波

Board game and Ultrasound

丸山 紀史

Hitoshi MARUYAMA

編集委員,順天堂大学消化器内科

Associate Editor, Department of Gastroenterology, Juntendo University

キーワード :

 スーパーコンピューター処理速度の国際的なランキング「High Performance Conjugate Gradient」が2022年11月14日に国際会議「SC22」で発表され,理化学研究所と富士通の開発による「富岳」が6期連続の1位となった.「米国と中国を抑えての世界一」との一報が流れた2020年6月は日本として8年半ぶりの世界一奪還であり,コロナ禍による沈滞ムードの中,久しぶりの明るい話題であった.一般に,家庭用パソコンと比べて約1000倍以上速いものをスーパーコンピューターと呼んでおり,2011/11に世界一となった「京」はパソコン数十万台分の速度と言われている.「富岳」は「京」の後継機種と位置付けられ,計算速度は「京」の約40倍と言うから驚きである.「富岳」の由来はその名の通り富士山であり,性能の高さやユーザー・研究分野の裾野の広がりを意識して命名された.日本人としての誇りでもある名称を背負ったこの技術が,人工知能(AI)への応用を介して,今後の社会への革新的効果を残すことを願うばかりである.  将棋の世界では,藤井聡太が次々とタイトルを獲得し,新時代の幕開けを予感させる話題に盛り上がりを見せている.30年前には羽生善治フィーバーの時代もあったが,当時,常にシリアスな表情で実直なコメントを述べた羽生とは異なり,笑顔と柔らかい印象をもった藤井は新たなキャラクターとして人気を集めている.そして今(令和5年3月),藤井と羽生による王将戦が注目を集めている.  昨今,将棋界においてもAIが広く普及し,多くのトップ棋士がAIを利用した研究によって棋力アップを図っている.そもそもプロ棋士とコンピューターとの対戦は,電王戦として2012年から企画されていた.2015年には,プロ棋士5名の団体戦で3勝2敗と辛くもプロが逃げ切ったが,2012年(米長邦雄永世棋聖,一番勝負),2013・2014年(団体戦,5番勝負),2016年(山崎隆之叡王,二番勝負),2017年(佐藤天彦叡王,二番勝負)の全てでAIが勝利を収めた.とくに2016年と2017年は,当時のタイトル保持者であるプロ棋士が2連敗の結果で終わり,将棋ソフトがプロ棋士のレベルを超えていることは周知の事実として認識されるようになった.  将棋は盤上数9×9=81であり,ゲーム開始時,既に自陣と相手陣の駒が盤上に配置されている.また,駒には種類別に移動方法の指定があるため,ゲーム開始時の駒の動かし方は20~30通りと言われている.一方,囲碁の場合,盤上の数は19×19=361で,盤上には碁石の置かれていない状態でゲーム開始となるため最初の打ち方には361通りの可能性がある.盤面は広く,碁石の配置の制限は極めて少ないため,ゲームが進んだ後でも,常に約100通り程度の候補手があると言われている.また,1ヶ所での戦いが最終的な勝敗に影響しないこともあるため,一度や二度の失敗があっても,別の戦いで挽回することも可能である.つまり,常に盤面の複数個所を見つつゲームを進めることも囲碁の特徴であり,その点からも,将棋より囲碁の方が変化に富んでおり複雑と言える.手数や可能性の相違は,人間がどれだけそのゲームを理解できているかを左右する因子である.そして人間の理解度は,コンピューターにも反映されAIの能力差として現れる.事実,現状でのAIとの対戦成績は,将棋よりも囲碁において,人間の方が圧倒的に有利である.すなわち人間の理解が十分でない領域ではAIの力も成熟には至っていないことが,ボードゲームからも明らかになったわけである.  さて医療の現場ではどうであろうか?  AI技術は,画像診断への活用に大きく期待されている.しかし現状では,CTやMRIに比べて超音波領域におけるAIの研究成果は,量だけでなく質の点でも各段に遅れている.とくに,筆者の専門分野である肝臓領域ではその傾向が顕著である.  はたして人間は,どれだけ超音波のことを理解できているのか?  確かに,超音波映像の成り立ちやアーチファクトなど,その全てが合理的に説明できているわけではない.また超音波画像には,おそらく,人の目では認識・判断できない情報も含まれているであろう.さらに昨今のデジタル技術の進歩には,我々ユーザーの理解を超えた部分もあると思われる.  今こそ,私たち自身が超音波への接し方を再考する時かもしれない.人としての視点で,超音波へ向き合い,理解を深め,そして掘り下げる,まさにその時期なのであろう.  しかし時間は限られている.AIが我々の師となる日は,すぐそこまで迫っている.