Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 血管
血管疾患

(S861)

整形外科の手術前DVTスクリーニング検査で診断した膝窩部嚢腫の破裂した1例

Detection of a ruptured Baker’s cyst among patients with screening test of deep vein thrombosis before orthopedic surgery

渡辺 温子, 山添 直子, 小瀬戸 昌博, 平井 幸雄, 毛利 年一, 平林 伸治

Atsuko WATANABE, Naoko YAMAZOE, Masahiro KOSETO, Yukio HIRAI, Toshikazu MOURI, Shinji HIRABAYASHI

1日生病院中央臨床検査部, 2日生病院整形外科, 3日生病院リハビリテーション科

1Division of central clinical research laboratory, Nissay Hospital, 2Department of Orthopedic Surgery, Nissay Hospital, 3Depaprtment of Rehabilitation Medicine, Nissay Hospital

キーワード :

【はじめに】
運動器エコー検査は,整形外科医が直接外来診察室で検査することが多い領域である.深部静脈血栓症(DVT)についてはスクリーニング検査として標準的であることから超音波検査室に依頼される.DVT検査は下肢血管を対象に行うが,その際に下肢腫脹を伴う症例のうち膝窩部嚢腫や嚢腫の破裂により,DVTと同様の下肢症状を呈する症例がある.多くの検査者は,嚢腫は診断できるが破裂した病態について知らないことが多いので診断に困る.一方整形外科手術は術後に高率にDVTを発生することで知られており人工膝関節(TKA)50.5%,人工股関節27.3%,股関節骨折手術43.7%と高率であるので,当院では術前後に検査している.2014年より整形外科で下肢や脊椎手術の前後にエコーのスクリーニング検査を受けた56症例(男17,女39),年齢は平均77.2才(46~95才)のうち,1例に膝窩部嚢腫破裂による下肢腫脹を認めたので画像所見と特徴を報告する.
【症例】
82歳男性,左TKA手術前に下肢DVTスクリーニング検査を受けた.右下肢膝窩部に隔壁を持った嚢腫を認めた.左下肢は右に比べて下腿は腫脹していた.左下肢にDVTは認めなかったが皮下浮腫と腓腹筋内液貯留と筋腫張による局所線維構造の乱れを認めた.下腿3頭筋走査で内側腓腹筋内に8cmの細長い腫瘤を認めた.内部は無エコーを基調に所々に塊状や索状の構造組織を認めた.腫瘤は筋膜下に膝窩部脛骨上縁の腓腹筋から遠位はヒラメ筋に停止部の近位迄連続した.厚さは1cm以下であった.膝窩部に液貯留はなく内側腓腹筋腱様部分と周囲との構造がぼんやりとして不明瞭であった.膝窩部の主要な血管は変化なく観察可能であった.手術後3週で再度検査実施した.同じ部位に液貯留は縮小して残存した.
【考察】
膝窩部嚢腫は腓腹筋の内側腱下滑液包から腱の内側を回って半膜様筋との間から表層皮下組織との間に出て皮下の部分が増大する嚢腫である.また膝関節と交通する場合があり,大きい滑液包と考えると理解しやすい.嚢腫の内容は液体であるが,関節リウマチ患者や一部症例では関節の内容と同じ物を伴うことがあるので穿刺吸引できないことがある.これらが破裂すれば流れ出すのは液体だけではない.Volteasらは下肢腫脹で急性期DVTを疑い超音波検査した1000症例の41例に膝窩部嚢腫を認めそのうち34例に嚢腫破裂を認めた.DVTを合併していたのは破裂例に1例と未破裂の3例であると報告している.破裂していてもDVTを伴う例があることは検査上重要である.嚢腫の破裂は,急に痛みを伴って発症して下腿腫脹を伴うので,コンパートメント症候群をきたすことがある.その場合は穿刺や手術で減圧し嚢腫の内容物が多ければ切除する.したがって検査に際してはこのような状況を理解する必要がある.本症例の特徴は①膝窩部に液貯留がないこと②下腿の液貯留が膝窩部に連続している像がなく嚢腫の破裂による内容液が流出したと診断できなかった.一方膝窩部の横方向像は筋構造が不明瞭で検査者は違和感を持っていた.日常からDVT検査で見慣れた部位のため破裂の疑いにつながった.鑑別診断は,下腿筋内血腫,筋断裂である.
【結論】
膝窩部嚢腫破裂は検査する機会が少ない.膝窩部画像の形態が不明瞭で下腿3頭筋に液貯留を認める場合は膝窩部嚢腫の破裂を考えて下腿3頭筋の貯留液を用手圧迫して膝窩部に向けて流れるかを確認すると診断は可能である.DVTスクリーニングのように下腿の腫脹部のみでなく膝窩部から下腿へと順に走査すれば全体の状況から診断に至る.