英文誌(2004-)
一般ポスター 産婦人科
症例 3
(S858)
心臓超音波検査が契機となり発見された静脈内平滑筋腫症の一例
A case of uterine intravenous leiomyomatosis extending to the cardiac extension
生田 明子, 溝上 友美, 木戸 健陽, 角 玄一郎, 直井 康二, 田中 敬一郎, 吉田 衣江, 大村 直人, 高山 康夫, 岡田 英孝
Akiko IKUTA, Tomomi MIZOKAMI, Takeharu KIDO, Genichiro SUMI, Koji NAOI, Keiichiro TANAKA, Kinue YOSHIDA, Naoto OOMURA, Yasuo TAKAYAMA, Hidetaka OKADA
1関西医科大学産婦人科, 2関西医科大学香里病院臨床検査部, 3関西医科大学香里病院内科, 4関西医科大学香里病院放射線科
1Department of Obstetrics and Gynecology, Kansai Medical University, 2Clinical Labolatory Department, Kansai Medical University, Kori hospital, 3Department of Internal Medicine, Kansai Medical University, Kori hospital, 4Department of Radiology, Kansai Medical University, Kori hospital
キーワード :
【はじめに】
静脈内平滑筋腫症(intravenous leiomyomatosis: IVL)は,平滑筋腫が子宮平滑筋あるいは静脈壁平滑筋,もしくはその両者から発生し静脈内に伸展した疾患である.平滑筋腫は組織学的には良性だが,伸展した部位により無症状からめまい,易疲労感,息切れ,ひいては呼吸困難,失神発作から突然死に至るものまで症状は多彩である.
今回,子宮筋腫の術前検査で心電図異常を認めたため経胸的心臓超音波検査を施行,右房内に可動性を有する腫瘤を認め,精査により子宮筋腫から右卵巣静脈,下大静脈,右房に伸展した静脈内平滑筋腫症と診断された症例につき報告する.
【症例】
50歳,女性,2回経産
47歳頃から月経不順を,49歳頃から下腹部腫瘤感を自覚し近医内科を受診.腹部腫瘤は子宮筋腫が疑われたため当科紹介となる.
双合診上,子宮体部は超新生児頭大に腫大.経腟超音波検査上,子宮体部長径は約9cmに増大し,複数の筋腫による子宮体部腫大が疑われた.また,骨盤部単純MRIでも複数の粘膜下,筋層内,漿膜下筋腫を認めた.変性を伴う筋腫もあること,問診上腹部腫瘤が徐々に増大していることから,病理診断目的に手術(子宮全摘術)の方針とした.術前検査の心電図波形で異常(poor R progression)を認めたため経胸的心臓超音波検査を施行,右房内に約6x2cmの可動性を有する低~等輝度の腫瘤を認めた.腫瘤は下大静脈と連続し拡張期に三尖弁を超えて右室内に伸び,また腹部超音波検査でも下大静脈に可動性のある腫瘤を認めた.肺野から坐骨底の造影CT検査で,子宮筋腫から右卵巣静脈を経て下大静脈,右房に伸展した静脈内平滑筋腫症が疑われた.腫瘍による急激な血行動態の増悪による突然死を回避する目的で,循環器外科と合同で緊急開腹-開心手術となった.まず,婦人科で開腹手術を開始,右卵巣静脈を切離し,子宮全摘術,両側付属器切除術を施行.次いで,経食道心臓超音波検査で腫瘍の可動性を確認し,循環器外科により胸骨正中切開にて部分体外循環下に右房開創後下大静脈側に腫瘤を押し出し,右卵巣静脈から腫瘍を把持牽引し,全長30cm,径2-3cmの索状線維を束ねた形状の腫瘍を摘出した.術後病理診断は静脈内平滑筋腫症であった.術後約4年が経過する現在まで再発は認めていない.
【考察】
静脈内平滑筋腫症は無症状から,めまい,易疲労感,息切れ,動悸,下腿浮腫などの軽微なもの,呼吸困難や意識消失,ときには突然死をもたらす.心臓に伸展する静脈内平滑筋腫症は約10%であり,そのうち約13%は無症状といわれている.右房に達した本症例も,主訴は腹部腫瘤感であった.
経胸的心臓超音波は,めまい,息切れ,動悸など非特異的症状の原因検索に用いられる検査である.しかし,心内伸展を伴う静脈内平滑筋腫症を発見することはできても,静脈内に留まる平滑筋腫症の発見は難しい.経腟超音波検査は子宮筋腫の大きさや発生部位の確認は可能でも静脈内平滑筋腫症を確定することは困難である.一方,造影CT検査は静脈内腫瘤の検索には有用であるが,子宮筋腫の全症例に行うことは現実的ではない.婦人科領域で頻用される骨盤部MRIも子宮筋腫に対しては,単純撮影のことが多い.子宮筋腫と診断された症例に対し,静脈内平滑筋腫症の存在を念頭におくことは重要である.しかし,無症状あるいは軽度の非特異的症状において,静脈内平滑筋腫症を同定することは容易ではないため,発見のきっかけとなる検査方法の検討が望まれる.非侵襲的で簡便な検査として,静脈系まで観察範囲を広げた腹部超音波検査の有用性を提起したい.