Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 産婦人科
症例 2

(S851)

有心拍無心体によるTRAP sequenceを伴った一絨毛膜一羊膜双胎の一例

A case of monochorionic-monoamniotic twin complecated with twin reversed arterial perfusion sequence by existence heartbeat acardius.

東 裕福, 河野 愛, 中山 琢生, 仲尾 岳大, 市川 剛, 小松 篤史, 川名 敬

Hiromitsu AZUMA, Ai KONO, Takuo NAKAYAMA, Takehiro NAKAO, Go ICHIKAWA, Atsushi KOMATSU, Kei KAWANA

日本大学医学部産婦人科系産婦人科学分野

Depertment of Obstetrics and Gynecology, Nihon University School of Medicine

キーワード :

【緒言】
一絨毛膜一羊膜双胎(以下MM双胎)に無心胎双胎に伴う血流状態をTwin Reversed Arterial Perfusion Sequence(以下TRAP sequence)と称し,発症は35,000妊娠に1例と極めて稀である.胎盤内の動脈-動脈吻合を介した健常児(ポンプ児)からの逆行血流によって栄養される双胎一児異常である.胎生期の血流変化に伴い,しばしば健常児の予後も不良である.妊娠初期に膜性診断がされず,分娩後に有心拍無心体によるTRAP sequenceと診断されたが,胎児超音波断層法検査によって適切な娩出時期を決定し得た症例を経験したので報告する.
【症例】
42歳,5妊3産の中国人.自然妊娠の後,前医での妊婦健診では妊娠初期には異常を指摘されなかった.妊娠21週5日に双胎妊娠であること,一児が胎児水腫と胎児奇形であることを指摘された.周産期管理目的に妊娠21週6日に当院へ紹介され,妊娠24週0日から管理入院となった.胎児超音波断層法検査,MRIにより両児の臍帯付着部位が同一であり臍帯相互巻絡を認めたことからMM双胎として管理した.連日,胎児心拍陣痛図計測と頻回の腹部超音波断層法検査による胎児機能評価を行い,健常児のwell beingが保たれているうちは妊娠継続の方針となった.妊娠30週1日の腹部超音波断層検査で健常児の心拡大を認め,心負荷の増大が疑われたため,選択的早産に備えてベタメタゾンを投与した.妊娠31週2日に胎児水腫児の心拍消失を認め,また健常児の心拡大が増悪したために緊急帝王切開術での選択的早産となった.両児の臍帯相互巻絡を認め,健常児は1636g,女児,Apgarスコア:1点(1分),7点(5分)で,胎児水腫児は死産となった.健常児はNICUに収容され,その他の先天奇形を認めないものの心臓超音波断層法検査で心拡大を認め,NTproBNP 15,503pg/dlと高値であるために胎児期からの強い心負荷が疑われた.NTproBNPおよび心拡大は徐々に軽快していき,体重増加も良好なため日齢46日に退院した.発達に異常なく外来通院中である.
出生後の胎盤病理検査で両児の臍帯は分枝状臍帯で臍帯起始部が同一であり,また動脈-動脈吻合を認めた.胎児超音波断層法検査画像にて胎児水腫児の臍帯動脈血流が逆行性であったことが確認され,有心拍無心体によるTRAP sequenceであることが確定した.
【考察】
本疾患は,典型例では無心体は体構造の一部しか発育せず,無心臓もしくは痕跡的心臓であり,胎児心拍を有する例は稀である.無心体の心拍停止は,健常児の急激な血流変化をもたらしIUFDに至ることがある.本症例では,無心体が妊娠31週まで心拍出を有していたため,健常児がそれまで良好に発育し得た.近年では胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー光凝固術などの胎児治療によって予後の改善が報告されているが,本症例では妊娠初期の膜性診断が成されていないために胎児水腫が単独のものなのかあるいは他方の児との循環動態に伴うものなのか判断し切れず,レーザー光凝固術の適応とはならなかった.無心体が体外生活可能な週数まで有心拍であったこと,胎児超音波断層法による健常児の心機能評価を正確に行ったことから,分娩時期を逸することなく生児を得ることができた.