Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 産婦人科
症例 2

(S850)

胎児水頭症をきっかけにL1症候群保因者であることが判明した一例

Diagnosis of hydrocephalus by prenatal ultrasound revealed the mother to be carrier of L1 syndrome

石黒 共人, 西岡 暢子, 森 裕介, 高橋 奈々子, 関根 花栄, 永井 富裕子, 糸賀 知子, 須賀 新

Tomohito ISHIGURO, Nobuko NISHIOKA, Yusuke MORI, Nanako TAKAHASHI, Hanae SEKINE, Fuyuko NAGAI, Tomoko ITOGA, Shin SUGA

越谷市立病院産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Koshigaya municipal hospital

キーワード :

【はじめに】
L1症候群は,L1症候群は,Xq28に存在するL1CAMの遺伝子変異により生ずるX連鎖性遺伝性水頭症やMASA症候群(精神発達遅滞,失語症,痙性歩行,母指の内転屈曲)などの脳神経系の発生障害を示す疾患の総称である.遺伝形式は,X連鎖遺伝であり,発症頻度は,L1症候群全体では不明であるが,
X連鎖性遺伝性水頭症だけでも,男子出生30000人に1人発症があるとの報告されている.病理学的には,脳梁低形成,錐体路低形成,小脳虫部低形成を示し,特発性水頭症と比較して脳室腹腔シャント術後の予後は不良である.今回, 妊娠経過中の胎児超音波検査による胎児水頭症の診断がきっかけとなり,母体がL1症候群保因者であることが明らかとなった症例について報告する.
【症例】
症例は,26歳,1経妊1経産.第1子健児.実兄が先天性水頭症.自然妊娠し,前医にて妊婦健診受診.妊娠21週に胎児水頭症を指摘され当院紹介となった.当院初診時,男児であり,BPD = 57.0 mm(+ 2.1SD),側脳室前庭部幅 = 21.2 mmと脳室拡張を認めていた.家族歴を詳細に聴取すると実兄の他に叔父及び3人の従兄弟(いずれも男性)に水頭症を認めていた.実母に連絡をとったところ,L1症候群家系であり,クライアントが保因者であることも確認されていたが,本人への告知はされていなかった.
【考察】
本症例では,本人が理解できていない状態で,遺伝学的検査が施行されており,検査結果も理解されていなかった.日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」の「非発症保因者診断に対し,本人の同意が得られない状況での検査は特別な理由がない限り実施すべきではない.」や「未成年者など同意能力がない者を対象とする遺伝学的検査について,原則として本人が成人し自律的に判断できるまで実施を延期すべきで,両親等の承諾で検査を実施すべきではない.」などの項目に反していると言ってよい.
【結語】
遺伝学的診断対するカウンセリング体制やクライアントの理解が成熟したとは言えない本邦では,カウンセリングを実施していても,本症例のように理解が不十分なまま遺伝学的検査が行われる例が散見される.理解が困難な場合は,カウンセリングを数回に分けて行うことや時間をおいて説明することも必要であり,クライアントが必要な時にカウンセリングを受けられるように体制を整えることが重要と考えられた.