Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 消化器
脾臓/消化管/その他/症例

(S841)

腹部超音波検査が診断に寄与した小児Clostridium difficile感染症の1例

Ultrasonographic utility of pediatric Clostridium difficile infection - A case report-

吉年 俊文

Toshifumi YODOSHI

沖縄県立中部病院小児科

Department of Pediatrics, Okinawa Chubu Hospital

キーワード :

【はじめに】
Clostridium difficile感染症(以下CDI)は, 広域抗菌薬の使用などにより正常な腸内細菌叢が破綻することで引き起こされ, 高齢者や入院患者において致死的になりうる抗菌薬起因性腸炎の1つである. 一方, 小児外来患者における発症例の報告は少なく, その病態は不明な点が多い. 今回我々は経口抗菌薬を内服数日後にCDI を発症した健康小児で, その診断に腹部超音波検査が有用であった1例を経験したため報告する.
【症例】
5歳女児. 第1病日から発熱と少量の軟便があり, 近医を受診し, セフジニルを処方された. 第2病日からは解熱し排便もなかったが, 第4病日より発熱と腹痛, 1日3行の軟便が出現し, 前医を受診した. 前医にてホスホマイシンを処方されたが, 腹痛が増悪し, 第6病日に当院に受診した. 発熱と軟便, 腹部圧痛に加え, CRP高値, プロカルシトニン高値と炎症マーカーの上昇を認めたため, 細菌性腸炎を疑い, 血液培養, 便培養検査を提出した. また経口抗菌薬とロペラミドを中止した. 腹部超音波検査では回腸の壁肥厚や腸間膜リンパ節の腫脹はなく, 左半結腸優位に直腸から盲腸にかけて腸管壁の肥厚を認めたため, CDIを疑いClostridium difficileC. difficile)トキシン検査(GEテスト イムノクロマト-CD A/B®)を提出した. 結果はA/B共に陽性であり, CDIと診断し, メトロニダゾール30mg/kg/日を計10日間(静注5日間, 内服5日間)使用した. 治療開始2日後には解熱し, 経時的に消化器症状も改善したため入院7日目に退院とした. 退院1週間後には消化器症状は寛解し, 腹部超音波検査上で腸管壁肥厚も改善していた.
【考察】
経口抗菌薬を数日内服後に発症したCDIを経験し, 腹部超音波検査がその診断に有用であった. CDIの診断基準は, 1)1日3回以上の下痢の存在(軟便または水様便), 2)便からのC. difficileの検出, もしくは毒素の検出, もしくは内視鏡あるいは病理組織による偽膜性腸炎の証明, を利用されることが多い. 一方, 本邦の腸管感染症治療ガイドラインでは小児の腸管感染症の項にCDIの記載はなく, 小児では稀な疾患であるためCDIを想定した上で, 侵襲性の少ない検査を進めて行く必要がある. 本例では診断の契機に腹部超音波検査が有用であった. 一般的に, 細菌性腸炎では回腸末端から上行結腸などに浮腫性の壁肥厚やリンパ節腫脹などの病変を認め, ウイルス性腸炎では小腸や大腸に腸液貯留を認める. CDIの腹部超音波所見で最も高頻度に観察される所見は腸管壁肥厚であり, 直腸から左側結腸に広がる連続した病変分布が重要となる. 本症例では直腸から下行結腸(最大4.5mm)まで明らかな壁肥厚を認め, 上行結腸まで内側第3層の壁肥厚を中心とした5層構造を認めた. 回盲部よりも左半結腸の病変が主体であるため, 一般的なサルモネラやエルシニアなどの細菌性腸炎よりもCDIを強く疑い, C. difficileトキシン検査を提出し, 診断をえた. C. difficileトキシン検査の感度は72%−82%で, 特異度は97−98%である. そのため, CDIを強く疑う症例でC. difficileトキシン検査が陰性であっても, トキシン検査を複数回行い, 結果を判断する必要がある. 確定診断となるトキシン検査の感度が低いため, 侵襲性の少ない超音波検査による左半結腸主体の腸管壁肥厚の所見は, CDIの診断補助に有用であると考えられる.