Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 循環器
その他 2

(S823)

出産後心不全発症を契機とし心エコー図検査により発見された大動脈四尖弁の一例

A case of quadricuspid aortic valve found with heart failure by Echocardiography

中嶋 真一, 鈴木 秀, 梁 瑞穂, 加賀 元宗

Shinichi NAKASHIMA, Syu SUZUKI, Zuisui RYO, Akimune KAGA

1東北公済病院生理検査室, 2東北公済病院循環器科, 3東北公済病院新生児科

1Division of Physiology Laboratory, Tohoku Kosai Hospital, 2Department of Cardiovascular, Tohoku Kosai Hospital, 3Division of Neonatology, Tohoku Kosai Hospital

キーワード :

【はじめに】
大動脈四尖弁の発生頻度は, 剖検例の検討では 0.008 ~ 0.033%, 超音波検査の検討では0.043% と極めて稀と報告されている. また大動脈四尖弁の弁機能異常は若年期には少なく中年期以降によく見られ, 多くは大動脈閉鎖不全症であると報告されている. 今回出産後に心不全を発症し, 経胸壁心臓超音波検査(TTE)で大動脈四尖弁を認めた褥婦の症例を経験したので報告する.
【症例】
36歳, 女性.
【現病歴】
妊娠34週に近医にて妊娠高血圧症候群と診断された.
【経過】
妊娠35週4日に急激な血圧上昇を認め, 当院周産期センターへ緊急搬送となった. 入院時身長 162.0cm, 体重 65.5kg, 血圧 156/75mmHg, 脈拍 56回/分, 尿たんぱく陽性(4+), 下腿浮腫を認めた. 入院時の胸部レントゲン, 心電図検査に異常は認めなかった. 血液生化学検査において, CK 895IU/L と高値であった. 重症妊娠高血圧症候群より, 同日緊急帝王切開術が施行され女児を娩出した. 術日夜間, 酸素化不良(SpO2 93%)を認め, 術後2日目には安静時呼吸困難が出現し, 胸部レントゲンで心拡大(CTR 56%)と両側胸水を認めたため, 緊急で TTE を施行した. TTE において左室拡大(LVDd 60mm, LVDs 40mm)を認め, 乳頭筋を超え心尖部まで達する大動脈弁逆流(AR)を認めた. 胸部下行大動脈に汎拡張期逆行性波形を認め, 重症 AR が示唆された. 大動脈弁は無冠尖と右冠尖の間に過剰弁尖を認める四尖弁であった. LVEF 57%, 左房拡大(LAVI 54ml/m2)を認めた. 下大静脈は拡張し, 呼吸性変動は消失しており, 三尖弁逆流血流速度から右室収縮期圧の上昇(RVSP 46mmHg)が示唆された. 拡張期僧帽弁逆流を認め左室拡張期圧の上昇が示唆された. 血液生化学検査では BNP 310pg/mL と高値を示し, AR による急性心不全と診断され, 利尿薬, 降圧剤の投与が行われた. 治療後呼吸状態は徐々に改善を認め, 術後5日目胸部レントゲンにおいて胸水は消失し, 心拡大は改善した. 術後8日目の TTE では, 左室軽度拡大(LVDd 57mm, LVDs 40mm)と中等症 ~ 重症の AR を認めた. 右室収縮期圧の改善(RVSP 23mmHg)を認め, 拡張期僧帽弁逆流は消失していた. 血液生化学検査では BNP 78.4pg/mL の低下を認めた. 術後10日目に退院し, その後外来で経過観察となり, 転居に伴い他院心臓血管外科へ紹介となった.
【考察】
大動脈四尖弁の弁機能異常の多くは大動脈閉鎖不全症であり, 機序として弁尖の数と配列異常が弁運動を傷害し弁尖に線維性変化が生じること, また三尖弁に比べて隣接する弁尖の接合面積が小さく, 加齢や高血圧などにより弁尖間の支持が不安定になることで接合不全が生じるためと考えられる. 妊娠分娩では循環動態がダイナミックに変化することが知られている. 本症例では妊娠高血圧症候群を合併していたこと, 分娩後子宮による下大静脈の圧迫が解除され, 急激に静脈還流が増大し一過性の容量負荷が生じたことにより大動脈弁に多大なストレスがかかり AR を憎悪させたものと考えられた.
【結語】
今回出産後に心不全を発症し, 心臓超音波検査にて大動脈四尖弁を有する褥婦の症例を経験した. 心疾患の既往歴のない女性が出産後に心不全を発症した場合, 大動脈四尖弁を含めた先天性心疾患も考慮する必要があり, その際心臓超音波検査の果たす役割は大きいと考えられる.