葉山 裕真, 石井 梨奈, 牧野 健治, 橋本 剛, 原 久男, 鈴木 真事, 原 英彦, 廣井 透雄, 中村 正人

Hiromasa HAYAMA, Rina ISHII, Kenji MAKINO, Go HASHIMOTO, Hisao HARA, Makoto SUZUKI, Hidehiko HARA, Yukio HIROI, Masato NAKAMURA

¹国立国際医療研究センター病院循環器内科, ²東邦大学医療センター大橋病院循環器内科

¹Major, cardiology, Center Hospital of the National Center for Global Health and Medicine, ²Major, cardiology, Toho University Ohashi Medical Center

キーワード :

【症例】
20歳代欧州系男性．既往症はなく，コカイン吸入歴がある．　　
東南アジア各地を渡航中に動悸と呼吸苦を自覚し，本邦滞在中に呼吸困難の増悪を自覚し救急搬送となった．胸部レントゲンでは心拡大と肺うっ血所見を認め，うっ血性心不全と診断した．経胸壁心エコー図検査では左室拡張末期径55mm，左室収縮末期径50mm，全周性の壁運動低下ありEF15％（modified simpson法）と著明な左室収縮障害を認めた．左室内には心尖部全体を覆うような46×24mm大の可動性のある巨大な三日月状の等エコー腫瘤像を認め，左室内血栓と考えられた．強心剤，利尿剤，酸素投与などの抗心不全治療に加えて抗凝固療法で加療を行った．フォローした心エコー図検査では左室内巨大血栓は縮小傾向であったが大きく残存おり，第20病日の頭部MRI検査で右側脳室外側に新規脳梗塞を認めた．心臓MRIでは左室の拡大とびまん性の壁菲薄化を認め，遅延造影では中隔壁と前壁の中間層に線状の増強域を認めた．外科的血栓除去術と補助人工心臓の植え込みのため，入院第30病日に転院となった．
コカインは心室性不整脈，高血圧，急性心筋梗塞および左室肥大を含む心毒性に関連する強力な交感神経作用薬である．海外の文献ではコカイン中毒患者の死亡の多くは心臓疾患と関連するとされており，その影響はコカインの投与量や投与経路に依存しないとの報告もある．
本症例は急性心不全の発症を契機に心エコー図検査で全周性左室収縮の低下，左室心尖部の等エコー腫瘤像を認め左室内巨大血栓と診断した．既往症のない若年であり過去のコカイン使用と心機能低下との関連が考えられた．コカイン使用歴のある若年男性の巨大左室内血栓を認めた症例を経験したため報告する．