Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 循環器
血栓・腫瘍

(S816)

外科的大動脈弁置換術後に形成されたValsalva洞内血栓の一例

A case of thrombosis in the sinus of Valsalva after surgical aortic valve replacement

柳 善樹, 橋本 修治, 水田 理香, 城 好人, 岡田 厚, 天木 誠, 長谷川 拓也, 神崎 秀明, 小林 順二郎, 田中 教雄

Yoshiki YANAGI, Shuji HASHIMOTO, Rika MIZUTA, Yoshito JO, Atsushi OKADA, Makoto AMAKI, Takuya HASEGAWA, Hideaki KANZAKI, Junjiro KOBAYASHI, Norio TANAKA

1国立循環器病研究センター臨床検査部, 2国立循環器病研究センター心臓血管内科, 3国立循環器病研究センター心臓血管外科

1Department of clinical laboratory, National Cerebral and Cardiovascular Center, 2Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, 3Department of Cardiovascular Surgery, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

【症例】
上行大動脈拡大(最大短径 :50mm)に伴う中等度大動脈弁閉鎖不全症,持続性心房細動,左心機能低下を認めた60歳台男性.( LVDd/Ds:57 / 44 mm %FS:23% LVEF(modified Simpson法):44%)
・主訴:全身倦怠感 ・既往歴:高血圧,脳梗塞後
・生活歴:喫煙(2年前から禁煙,20歳からそれまでは喫煙)
本症例に対し外科的大動脈弁置換術(CEP MAGNA EASE 27mm使用),上行大動脈置換術,Maze手術を施行した.術後20日で施行した胸部造影CTにて右冠尖に相当する弁尖部分に不整形の造影不良域を認めたため,同日心エコーを施行した.心エコーではValsalva洞内はもやもやエコーを呈し,右冠尖と無冠尖に相当する弁尖に等~低輝度の異常構造物の付着を認めた.右冠尖側の異常構造物は大きく22×32mm大で,右Valsalva洞内に充満しており,そのためか右冠尖の開放制限を認めた.また,無冠尖に付着する構造物の大きさは7×9mm大であった.いずれの異常構造物も可動性は認めなかった.この異常構造物は,Valsalva洞内のみに限局していたが,さらに上行大動脈(人工血管)や他の心腔内へ観察視野を広げてみたが,異常構造物は認めなかった.
本腫瘤は冠動脈起始部に近接し冠動脈への塞栓も考慮されたが,新たな局所壁運動異常は認めず,またカラードプラ法およびパルスドプラ法により左右冠動脈の血流は,順行性で灌流していることが確認され,冠動脈塞栓は否定的であった.臨床所見,心電図,頭部および腹部CT上,冠動脈を含む全身への塞栓を疑わせる所見は認められなかった.
【経過】
このような腫瘤は血栓または腫瘍との鑑別が必要であるが,大動脈弁置換術直後であったため,まずは血栓を疑い抗凝固療法により心エコーで経過をみたところ,そのサイズは縮小傾向にあり,その後約9ヶ月で消失した.また経過観察中も塞栓症を疑わせる所見は認められなかった.これらの経過より本腫瘤はValsalva洞内に形成された血栓であると考えられた.心エコーでは血栓の縮小に伴って大動脈弁尖(生体弁)の開放制限の改善を認め,ドプラ所見でも大動脈弁通過最大血流速度およびVTI比の経時的な低下を認めた.
【考察】
外科的生体弁置換術後の血栓弁の頻度は0.74%と報告されている.Valsalva洞内の血栓形成は現在までに数例の報告はあるが比較的稀であり,血栓形成の原因が不明な症例も多い.血栓の形成には血管壁の異常・血流の異常・血液成分の変化の3要素(Virchowの3要素)が重要な条件であり,本症例では外科的生体弁置換術によりこれら3要素が複雑に寄与することで形成されたものと考えられた.
Valsalva洞内に形成された血栓に対する治療法は確立しておらず,心エコー検査で血栓の性状(器質化血栓か否か)・可動性の有無・大きさを評価することが治療方針・経過観察に重要であると考えられる.また合併症として冠動脈への塞栓による心筋梗塞や血栓弁による弁機能不全が挙げられるため,新たな局所壁運動異常の出現の有無や,弁狭窄・弁逆流の重症度評価にも心エコーは有用である.
【まとめ】
今回我々は経胸壁心エコー図検査にて, 外科的大動脈弁置換術後に形成されたValsalva洞内血栓の一例を経験した.血栓の評価から消失までの経過観察に心エコー図検査が有用であったため,若干の文献的考察を加えて報告する.