Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 循環器
弁膜症

(S799)

僧帽弁流入3相波の要因として貧血や僧帽弁閉鎖不全が考えられた2症例

Triphasic mitral inflow pattern associated with hemodynamic deterioration in anemia or mitral regurgitation: two cases reports

三角 郁夫, 石井 正将, 山部 浩茂

Ikuo MISUMI, Masanobu ISHII, Hiroshige YAMABE

熊本再春荘病院循環器科

Cardiology, Kumamoto Saisyunsou Hospital

キーワード :

【はじめに】
僧房弁流入波形は通常洞調律ではE波とA波の2相波であるが,まれに拡張中期波(L波)を認め3相波を呈する症例がある.今回我々は貧血もしくは僧帽弁閉鎖不全に3相波を認めた症例を経験した.
【症例】
(症例1)は81才女性で息苦しさを主訴に来院した.身体所見では血圧115/40 mmHg,脈拍52/minで聴診上心音と呼吸音は正常であった.採血ではヘモグロビン(Hb)値が3.9 g/dLと高度の貧血を認め,血中脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値は192 pg/mLであった.12誘導心電図では,洞調律でI, II, aVL, V3-V6誘導でST低下を認めた.胸部X線写真では,CTR 74%で肺うっ血を認めた.経胸壁心エコーでは軽度の左室肥大を認めたが壁運動は正常であった(心室中隔厚12mm,左室後壁厚12mm,左室拡張末期径 42mm,左室収縮末期径26mm,左室駆出率69%).推定三尖弁逆流圧は35 mmHgであった.有意の弁膜症はなかった.僧帽弁流入波形のパルスドプラでは,E波高 115cm/s,A波高 108 cm/s,E波のdeceleration time 229msであった.また,1年前の心エコー検査では認めなかったL波を認めた.組織ドプラでは,中隔側僧帽弁輪でe’高 5.8 cm/sでE/e’比が19.8であった.息苦しさの原因が心不全と貧血と診断し利尿剤と輸血を行ったところHb値は8.9 g/dLと上昇し,BNP値は65.6 pg/mLまで低下した.胸部レントゲン写真では,CTR 68%となり肺うっ血は消失した.12誘導心電図でのST低下も軽度改善した.パルスドプラではL波は消失していた.(症例2)は72才女性で7年前に洞機能不全症候群でペースメーカーを植え込みを受けた.今回は心雑音精査目的に紹介となった.身体所見では血圧 157/92 mmHg,脈拍60/minで心尖部に全収縮期雑音を聴取した.採血ではBNP値は312 pg/mLであった.12誘導心電図は心房ペーシングでQRS波形は正常であった.胸部X線写真ではCTR 63%であった.経胸壁心エコーでは左房拡大(47mm)を認めたが左室壁運動は正常であった(左室拡張末期径50mm,左室収縮末期径27mm,駆出率77%).カラードプラでは僧帽弁後尖の腱索断裂による高度の僧帽弁閉鎖不全(MR)を認めた.パルスドプラによる僧帽弁流入波形はE波高136 cm/s,A波高43 cm/s,E波のdeceleration time 134msであった.また,L波を認めた.組織ドプラでは,中隔側僧帽弁輪でe’高 4 cm/sでE/e’比が34であった.心臓カテーテル検査では左室造影で高度のMRを認めた.手術後の心エコーではL波は消失していた.
【考察】
L波の成因として,これまで左室拡張能の低下,前負荷の増大,徐脈が報告されている.今回の2症例では,症例1で高度の貧血が前負荷の増大と心筋虚血による拡張能低下が原因と考えられた.また,症例2では,もともと左室拡張能低下があるところにMRの出現により前負荷が増大しL波を生じたと考えられた.L波の機序と病態を考える上でこの2症例は重要と考え報告した.