Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 基礎
超音波計測一般

(S792)

超音波CT用の高精度音速測定ファントム

Accurate phantom for evaluating sound speed in ultrasound CT

鈴木 敦郎, 坪田 悠史, WENJING Wu, 山中 一宏, 寺田 崇秀, 大竹 陽介, 川畑 健一

Atsuro SUZUKI, Yushi TSUBOTA, Wu WENJING, Kazuhiro YAMANAKA, Takahide TERADA, Yousuke OTAKE, Kenichi KAWABATA

日立製作所研究開発グループ

Research & Development Group, Hitachi

キーワード :

目的
乳房用超音波CTでは水中の乳房に超音波を送信し,乳房を透過した波の信号を画像再構成することによって乳房の音速画像が取得される.このとき,水と乳房の音速差により波は屈折するため,波を検出する位置は乳房の音速に依存して変化する.任意の音速の乳房に対する透過波の屈折を模擬できる超音波CT用のファントムはこれまで考案されていない.そこで本研究では,音速の低い脂肪性乳房から,音速の高い高濃度乳房までの波の屈折を模擬することが可能な,超音波CT用オイルゲル・ファントムを開発した.
方法
オイルゲル・ファントムは,パラフィンオイルにSEBS(Styrene-Ethylene/Butylenes-Styrene)と呼ばれるポリマーを重量濃度10%で混合して作成した.ファントムの形状は直径5cmの円筒である.ファントムの内部には,直径10,7,5,3mmの円筒状の穴が開いており,これらの穴には液体を満たすことができる.液体の種類を変えることでこれらの領域の音速値を変更可能である.オイルゲルと液体の領域は,それぞれ乳房組織と腫瘍を模擬している.オイルゲル・ファントムを超音波CTで温度を15~27.5℃の範囲で撮像した.また,オイルゲル・ファントムの音響的な安定性を評価するため,ファントム作成直後と43日後に超音波CTでファントムを撮像した.さらに,オイルゲル・ファントムの液体領域の安定性を評価するため,穴に硫酸ニッケル水溶液を封入し,その40日後にMRIでファントムを撮像した.
結果
水の音速は温度上昇とともに高くなり,15~27.5℃において1466~1503[m/s]であった.一方,再構成画像におけるオイルゲル領域の音速は温度上昇とともに低下し,15~27.5℃において1503~1456[m/s]であった.温度が15~20℃ではオイルゲルのほうが水よりも音速が高く,20~27.5℃ではオイルゲルのほうが水よりも音速が低い.15~27℃において,水に対するオイルゲルの屈折率は1.025~0.968であった.再構成画像におけるオイルゲルの音速値の変化は,43日間で0.06%以下であった.MRI撮像の結果より,硫酸ニッケル水溶液はオイルゲル領域に染み出ることは無く,穴内に安定して保持できていることが分かった.
結論
脂肪性乳房と高濃度乳房の代表的な音速はそれぞれ,1479,1553[m/s]である.臨床撮像を35℃の水中で撮像する場合,水の音速は1520[m/s]であり,脂肪性乳房は水よりも音速が低く,高濃度乳房は水よりも音速が高い.このとき水に対する脂肪性乳房,高濃度乳房の屈折率は,それぞれ0.973,1.021である.したがって,オイルゲル・ファントムは水中の乳房に対する波の屈折に関して,脂肪性乳房から高濃度乳房までを模擬することが可能である.また,オイルゲル・ファントムは長期間にわたり音響特性,液体保持能力が安定しており,超音波CTの標準化ファントムとしての利用も期待できる.