Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 その他
眼科その他

(S780)

家庭医療後期研修プログラムにおけるPoint-Of-Care超音波教育の試み

Developing Point-of-Care Ultrasound training curriculum in family medicine residency program in Japan

上松 東宏, 岡田 唯男

Haruhiro UEMATSU, Tadao OKADA

鉄蕉会亀田ファミリークリニック館山家庭医診療科

Family Medicine, Tesshokai Kameda Family Clinic Tateyama

キーワード :

【背景】
近年,米国を中心に問題解決型のアプローチで短時間に必要な情報を得るためにベッドサイドで施行されるPoint-of-care of ultrasound(以下POCUS)という概念が浸透してきている.当初は救急医療で注目を浴びていたが,2016年12月には米国家庭医療学会が研修プログラムの推奨カリキュラムを作成し,家庭医療の分野でも急速に超音波教育に取り入れられるようになった.一方本邦では,米国に比して超音波機器へのアクセスは良く,医師達は病棟,救急外来,一般外来等の研修の中で超音波検査に触れる機会は多い.その為米国での家庭医と比較して,ベッドサイドエコーのレベルが高い医師が多いような印象を受けるが,国内の家庭医をはじめとするプライマリ・ケア医を対象とした超音波検査に求められるコンピテンシー,系統的な技術指導方法及び評価法などを明記した先行文献は見当たらない.従って本邦においてもプライマリ・ケア医のニーズに合わせた教育カリキュラムの整備が急務である.
【目的】
当院は4年間の家庭医療レジデンシープログラムを運営しており,10人以上の専攻医を擁し,非常勤医師まで含めると30人程度でグループ診療を行う大規模無床診療所である.自施設での超音波検査を後方視的にカルテレビューすると,医師によって超音波検査の適応判断,描出技術,画像の解釈方法いずれもばらつきが明白であった.これはPOCUSを含む超音波検査に対する各医師の研修背景の乖離によるものであると推察された.まずは自施設での質の標準化のために研修システムの確立が必要だと思われた.
【方法】
米国での先行事例を参考にし,手技の教育方法の枠組みを取り入れて教育計画書を作成した.一般目標はPOCUSに慣れ親しみ,POCUSを用いてプライマリ・ケアの現場で診断・患者管理を行うことができる能力を習得することとした.教育方略は講義,マンツーマンもしくは小グループによる実技指導,患者ログとレビュー,シミュレーション,e-learning等を用いた.学習者評価は定期的に質保証の機会も兼ねたフィードバックを行い,コース修了後に総括的評価としてスキル・アセスメントを行った.
【結果】
まだパイロットの段階ではあるが,現在までに3名の自施設の専攻医が修了した.コース修了後のアンケートではPOCUSの適応判断,機器操作,各領域における描出方法及び解釈が,開始前と比較して主観的な改善が見られた.また,トレーニング・コース全体に対しても高い満足度を得た.
【考察】
現状では国内のPOCUS教育はセミナーやワークショップなどの単回もしくは短期間のものが多く見受けられる.コンテンツはどちらかと言えば救急外来や病棟で遭遇するような急性期の病態を扱ったものが主体であり,外来診療を中心としたプライマリ・ケア医が実際に必要となる場面は多少異なるように思われる.プライマリ・ケア医が適切なPOCUSを習得することができれば,診療に厚みをもたらし,不用意な検査やコンサルテーションを減らすなどの効果が期待される.そのためプライマリ・ケア医の診療現場を想定した包括的かつ構造化されたPOCUSの教育プログラムの確立が必要であると考える.
【結語】
POCUSの教育カリキュラムの内容は施設の診療範囲によって若干異なると思われるが,患者の年齢や臓器分け隔てなく診療にあたる当施設での経験から,カリキュラムの内容と効果,浮かび上がった課題などについて報告する.今後の家庭医を含めたプライマリ・ケア医に対する標準化されたカリキュラムの開発の一助になれば幸いである.