Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 その他
その他

(S778)

救命処置における超音波の役割 ~循環編~

Role of ultrasonography in acute medicine

丹保 亜希仁, 中嶋 駿介, 岡田 基, 藤田 智

Akihito TAMPO, Shunsuke NAKAJIMA, Motoi OKADA, Satoshi FUJITA

旭川医科大学病院救命救急センター

Medical Center of Acute Medicine, Asahikawa Medical University Hospital

キーワード :

 重症患者の救命のためには内因性・外因性疾患を問わず,Airway・Breathing・CirculationのABCに対しての蘇生処置を行うことが必要となる.救命のための蘇生処置としては,
【A:気道】気管挿管,輪状甲状靭帯穿刺・切開,
【B:呼吸】人工呼吸,緊張性気胸での胸腔開放,
【C:循環】ショックに対する大量輸液・輸血,REBOA(resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta),ECPR(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)などが挙げられる.これらの救命処置では,超音波を利用することで安全性,正確性を高められるものがある.今回は,【C:循環】における救命処置での超音波の役割について報告する.
 出血性ショックなどで大量輸液が必要な際には,超音波ガイド下での静脈路確保が有用である.ショックの際には,末梢静脈路確保が困難である場合も多く,内頚静脈や大腿静脈などに輸液路を確保するが,静脈が虚脱している際には血管の状態を視覚化できる超音波ガイド下穿刺は大変有用である.穿刺方法には短軸像での交差法と長軸像での平行法があるが,これらの単独あるいは組み合わせることで安全な穿刺が可能となる.特に凝固異常を合併している患者では,不要な血管穿刺や後壁穿破が致命的となることがあるため,安全面からは超音波の利用が望ましいと考える.
 REBOAはバルーンカテーテルを胸部下行大動脈に留置し,バルーン拡張により大動脈を閉塞することで脳血流の保持,バルーンより末梢の出血コントロールを目的とする.REBOA施行の際には,大腿動脈穿刺と腹部大動脈内のガイドワイヤー確認に超音波を利用する.外傷などによるショック時には,大腿動脈触知が不可能であることも多く,さらに大量出血により虚脱した血管にシースを留置するのは困難である.またガイドワイヤーの迷入により合併症をきたす可能性も考えなくてはならない.超音波ガイド下に大腿動脈穿刺を行い,さらにガイドワイヤーを腹部大動脈内に確認することでバルーンカテーテル迷入がないと判断できる.
 ECPRでは大腿動脈から送血管,大腿静脈から脱血管を留置することが多い.血管穿刺については上述の通りで超音波ガイド下穿刺によってアクセスする血管が正しいことを確認しながら施行することができるのが大きなメリットである.脱血管のガイドワイヤーは下大静脈を描出することで確認可能である.また,脱血管の先端位置確認も超音波画像を確認しながら行うことができる.REBOAやECPRでのガイドワイヤー,カテーテル留置はエックス線透視下が確実で最も安全であろう.しかし透視装置の使用が不可能な救急現場においては,超音波の利用は合併症の低減に有用であると考えられる.
 一方で,超音波を処置時に利用する際には注意すべきことも多い.超音波機器そのものは万能ではなく,術者の技量に依存する.例えば血管の短軸像を描出し交差法により内頚静脈穿刺をする場合,正しく穿刺針を描出しているつもりでも,針先は描出画面の先に進んでいる状況が散見される.この思い込みは,後壁穿破のみならず椎骨動脈穿刺や気胸を引き起こす原因となる.超音波の使用により合併症が減少していることは間違いないが,正確な知識と技術と共に使用しなければ合併症がなくなることはないと考える.超音波使用のピットフォールについても合わせて報告する.