Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 血管
動脈硬化

(S767)

頸動脈プラーク内部エコーの揺動とステント留置術に伴う周術期脳梗塞との関係

Relationship between the fine trembling motion inside plaque and the ischemic complication after carotid artery stenting

村木 睦子, 三神 大世, 吉本 哲之, 丸一 勝彦, 藤本 真, 北口 真弓, 平尾 紀文, 徳田 耕一, 金子 貞男, 柏葉 武

Mutsuko MURAKI, Taisei MIKAMI, Tetsuyuki YOSHIMOTO, Katsuhiko MARUICHI, Shin FUJIMOTO, Mayumi KITAGUCHI, Norifumi HIRAO, Kouichi TOKUDA, Sadao KANEKO, Takeshi KASHIWABA

1特定医療法人柏葉脳神経外科病院検査科, 2特定医療法人柏葉脳神経外科病院循環器内科, 3特定医療法人柏葉脳神経外科病院脳神経外科

1Sonographic Laboratory, Kashiwaba Neurosurgery Hospital, 2Department of Cardiovascular Medicine, Kashiwaba Neurosurgery Hospital, 3Department of Neurosurgery, Kashiwaba Neurosurgery Hospital

キーワード :

【目的】頸動脈ステント留置術(CAS)の最も重要な合併症は周術期脳梗塞であり,その対策のひとつとして術前のプラーク性状評価の重要性が指摘されている.最近,我々は,頸動脈エコーで検出されるプラーク内部エコーの揺れ動くような異常運動,すなわち「揺動」が,プラークの破綻や軟弱な内容物を示唆する危険な所見であることを報告した.しかし,この揺動とCASによる周術期脳梗塞の関係はよくわかっていない. そこで,CAS前にエコーで検出されるプラーク内部揺動が周術期脳梗塞と関係するかどうかを,頸動脈内膜剥離術(CEA)との比較をしつつ検討した.
【方法】対象は,当院で2011年1月から2017年9月までの期間に,頸動脈のプラークに対して,CASを行った18例(男性14例,70±14歳)とCEAを行った60例(男性51例,72±6歳)である.これらの術前(4±3日,0~40日)に頸動脈エコーを行い,プラーク内部揺動の有無を評価した.また,これらの術前(16±19日,0~88日)と術終了後24時間以内に頭部MRIを行い,拡散強調画像(DWI)上の新たな高信号域の出現の有無を評価した.
【結果】CAS群では,CEA群より,入院時に症候があった例(50%対82%)と術前エコーで揺動を認めた例(61%対88%)がいずれも有意に少なかった(順にp=0.0070,p=0.0083).CAS群では,18例中8例(44%)にDWIで新高信号域が出現し,CEA群の60例中3例(5%)に比し,有意に高頻度であった(p<0.0001).CAS群のうち,術前に揺動がみられた11例中8例(73%)に新高信号域を認めたのに対し,揺動がみられなかった7例にはこれを認めなかった(p=0.0025).CEA群のうち,揺動がみられた53例中3例(6%)に新高信号域を認めたが,CAS群のそれより有意に少なかった(p<0.0001).揺動がなかった7例には,CAS群と同様,高信号域の出現はなかった.なお,術後の新高信号域はすべて無症候性であった.
【考案】頸動脈エコーで内部揺動を認めた例では,CASに伴う新規梗塞巣の出現が73%と極めて高頻度であったのに対し,CEAではわずかに6%であった.内部揺動がなければ,CASでもCEAでも新梗塞巣はみられなかった.エコーによる頸動脈プラークの内部揺動の評価は,その治療法選択に極めて重要な役割を果たすと考えられた.
当院では,従来からプラークの内部揺動をCASに適さない因子と考え,このような例には極力CEAを選択してきた.これが,本研究のCAS例がCEAに比し少なく,またCEA例に揺動が多かった理由である.本対象例中,揺動があるにも関わらすCASを行った例には,重大な心肺疾患,高位頸部病変,CEA後の再狭窄,対側CEAといったCEAの実施を妨げる理由があった.
頸動脈エコーによるプラーク内部エコーの揺動とCASによる周術期脳梗塞の関係を検討した報告はみあたらない.ごく最近,Ichinoseらは,CAS後のDWI上の新たな高信号域が,プラーク表面の動脈壁拍動と同調しない上下動(jellyfish sign)を認めた26例中14例(54%)にみられ,これがなかった60例中22例(37%)より多かったと報告している.しかし,我々の上記の成績は,プラーク内部揺動の方が,jellyfish signよりもさらに明確にCASによる周術期脳梗塞のリスクを評価できる可能性を示すものと考えられた.
【結論】頸動脈エコーでプラーク内部揺動が観察される例へのCASは,無症候性の周術期脳梗塞を高頻度に合併する.揺動がある例には,CASではなく,可能ならCEAを行うべきである.