Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 血管
静脈疾患

(S763)

当院における下肢静脈エコーの現状と問題点

Current status and problem of ultrasonographic diagnosis of deep venous thrombosis in our hospital

小林 希予志, 中川 正康, 松田 尚, 渡辺 栄里, 島田 俊亮, 藤原 美貴子, 柴原 徹, 藤原 敏弥, 鬼平 聡

Kiyoshi KOBAYASHI, Masayasu NAKAGAWA, Shou MATSUDA, Eri WATANABE, Shunsuke SHIMADA, Mikiko FUJIWARA, Tohru SHIBAHARA, Toshiya FUJIWARA, Satoshi KIBIRA

1市立秋田総合病院超音波センター, 2市立秋田総合病院循環器内科, 3きびら内科クリニック循環器内科

1Center of Diagnostic Ultrasound, Akita City Hospital, 2Caridiology, Akita City Hospital, 3Cardiology, Kibira Medical Clinic

キーワード :

【背景】
当院において下肢静脈エコーは飛躍的に増加しており,平成28年度は1171件であったが,さらに平成29年度は1500件を超えるペースでオーダーされている.
【目的】
当院における下肢静脈エコーの現状を調査し,今後の課題について検討すること.
【方法】
平成28年4月1日から平成29年3月31日の期間に当院で下肢静脈エコーを施行した1171件のうち,初回検査であった861例を対象とした.オーダーした科や目的,エコー所見等について調査した.
【結果】
依頼科は外科:288件と最も多く,産婦人科:127件,神経内科:105件と続いた.また402件(46.7%)は入院患者であった.検査の依頼目的は,術前評価:561件と圧倒的に多く,次いでDダイマー高値:126件,下肢の浮腫:90件であった.血栓の検出は79例(9.2%)に認められた.うち大腿静脈より中枢側に血栓を認めた症例は34例で,下腿の静脈のみの血栓は45例に認めた.血栓を認めた症例でCTでも評価した症例は19例のみであった.13例ではエコー所見と一致したが,2例ではエコーで認めた血栓をCTでは指摘できなかった(血管内腔の保たれた壁在血栓や下腿部末梢の血栓).逆に4例ではエコーで指摘できなかった血栓をCTで認めた(骨盤内で消化管のガスなどの影響で観察できなかった部位など).当院では下肢静脈エコーを施行する基準として事前にDダイマーを測定し,カットオフ値を超えた症例のみオーダーするように取り決めしているが,114件(13.2%)ではDダイマーは測定されておらず,またDダイマーがカットオフ値未満でも下肢静脈エコーがオーダーされている例も少なくなかった.10例においてDダイマーがカットオフ値未満でも血栓を認めたが,いずれも器質化した血栓と考えられた.
【考察】
一度でも重症の肺塞栓例を経験した診療科では,その後下肢静脈エコーをルーチン検査のごとくオーダーされる傾向があり,事前のDダイマー測定で判断するとの取り決めが遵守されていなかった.新規症例の65%が術前評価目的であり,緊急のオーダーや入院患者のオーダーも多かった.下肢静脈エコーは通常,心臓・血管エコー担当の2名で行っているが1日10件を超える日もあり,他の超音波検査への影響も少なくない.一方で臨床的に意義のある大腿静脈より中枢部の血栓例は約4%に過ぎず,過剰な検査である印象は否めない.ただその一方で,多くの症例を検討することで超音波技師の手技は目覚ましく向上し,血栓を認めない症例ではどの技師でも10~15分で検査を終了できるようになっている.さらに深部静脈血栓を有する例の多くは無症候で,Dダイマーの軽度~中等度上昇を示すのみであり,その診断にはエコーに頼らざるを得ないのも現状である.
【結論】
当院の下肢静脈エコーの依頼は飛躍的に増えており,超音波技師の負担は大きな問題となりつつあるため,事前のDダイマー測定や症例のリスクを考慮した適切なオーダーが望まれる.一方で深部静脈血栓症の診断におけるエコーの意義はきわめて高く,また大きな血栓の存在は致命的な肺塞栓を発症する可能性があるため,下肢静脈エコーを施行すべき症例の選択には慎重な判断を要すると考えられる.