Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 腎泌尿
腎泌尿

(S756)

前立腺膿瘍に対するマネージメントにおける経直腸的超音波検査の役割

The role of transrectal ultrasonography in management of prostatic abscess

押野見 和彦, 冨士 幸蔵, 松井 祐輝, 鵜木 勉, 下山 英明, 中里 武彦, 森田 順, 前田 佳子, 直江 道夫, 小川 良雄

Kazuhiko OSHINOMI, Kohzou FUJI, Yuki MATSUI, Tsutomu UNOKI, Hideaki SHIMOYAMA, Takehiko NAKASATO, Jun MORITA, Yoshiko MAEDA, Michio NAOE, Yoshio OGAWA

昭和大学医学部泌尿器科学講座

Department of Urology, Showa University School of Medicine

キーワード :

【目的】
前立腺膿瘍は,比較的まれな疾患である.広範囲スペクトラムの抗菌薬の導入で減少傾向だが,発展途上国や糖尿病,血液透析患者,肝硬変,免疫不全患者など高リスク集団においては必ずしもまれではない病態である.症状は急性前立腺炎と同様であり,非特異的症状のため,診断は困難である.治療は適切な抗菌薬投与と膿瘍ドレナージであるが,ドレナージのアプローチ経路は経直腸的,経皮的,経尿道的の3経路がある.経直腸超音波検査(TRUS)は症例によっては診断からドレナージまで一期的に施行可能である点で有用とされている.しかし,直腸からのアプローチは穿刺針のサイズの制限などから,粘稠な膿の十分なドレナージは困難な場合もある.経尿道的ドレナージより経直腸的ドレナージの方が,成功率は劣るが,低侵襲で,局所麻酔もしくは鎮静下で複数回施行可能である点が有利と述べている報告もある一方で,多発例や径の大きい膿瘍は,侵襲や合併症は危惧されるが経尿道的ドレナージの方が有用との報告も散見される.前立腺膿瘍に対するドレナージの適応基準やアプローチ経路についてなどマネージメントに関するガイドラインは存在しない.今回,我々は当施設で経験した前立腺膿瘍症例に対し,患者背景や臨床経過の他に膿瘍の形状や大きさを後ろ向きに評価し,治療につき臨床的検討を行った.
【方法】
対象は2005年から2016年の期間に当施設で入院加療を行った前立腺膿瘍症例18例.患者背景,治療経過に加え,膿瘍の形状やサイズも評価し,ドレナージの方法および適応なども検討した.膿瘍の形状は,第86回超音波医学会学術集会で我々が報告した前立腺膿瘍の形状分類に準じ,びまん型,限局型,多発型の3型に分類した.
【結果】
年齢中央値は63歳(43-88),基礎疾患は糖尿病10例,肝硬変2例であり,それに加え,間欠的自己導尿施行中の症例や独居での栄養不良状態や長期尿道カテーテル留置症例など前立腺膿瘍発症のリスクが高いと思われる何らかの背景を有していた.排尿障害で泌尿器科受診歴のある患者は4例(2例が自己導尿)のみであり,その他症例はもともとの排尿状態が不明であった.膿瘍の形状は多発型13例,びまん型3例,限局型2例であった.11例は抗菌薬のみでの保存的加療で改善した.ドレナージ施行症例は5例(多発型4例,限局型1例)であり,経直腸的ドレナージは4例に行われ,効果の乏しい3例に経尿道的ドレナージが追加施行された.また1例は前立腺炎を反復しており,経直腸的ドレナージは行わずにTURを施行した.保存的症例のなかでも全身状態不良などで簡便で侵襲の低い経直腸的ドレナージすら施行できない症例のうち2例では膀胱瘻を造設した.TUR(経尿道的ドレナージ)を要した4例のうち3例は最大膿瘍径が3cm以上と大きい症例であった.
【結論】
膿瘍径の大きい症例には経尿道的ドレナージが有用であった.簡便な経直腸的ドレナージのみで改善した症例は1例のみであった.骨折後や下肢麻痺などで体位保持できず経直腸的ドレナージさえ行えず保存的治療とせざるを得ない症例も少なからずあったが,保存的療法ではその後,有熱性の尿路感染を反復する症例がみられた.径の大きい多発膿瘍の場合はTRUS下での経直腸的ドレナージを第一に行いつつも,最終的には経尿道的ドレナージを考慮すべきであろう.