武井 咲月, 櫻井 健一, 安達 慶太, 窪田 仁美, 鈴木 佑奈, 原 由起子, 鈴木 周平, 榎本 克久, 平野 智寛, 藤崎 滋

Satsuki TAKEI, Kenichi SAKURAI, Keita ADACHI, Hitomi KUBOTA, Yuna SUZUKI, Yukiko HARA, Shuhei SUZUKI, Katsuhisa ENOMOTO, Tomohiro HIRANO, Shigeru FUJISAKI

¹日本大学・医学部外科学系・乳腺内分泌外科学分野, ²医療法人社団藤崎病院外科

¹Division of Breast and Endocrine Surgery, Department of Surgery, Nihon University School of Medicine, ²Fujisaki Hospital

キーワード :

　2年6ヶ月間にわたる術前内分泌療法が奏功し，切除が可能となった高齢者局所進行乳癌を経験したので報告する．
　症例は75歳，女性．4年6ヶ月前より右乳房に腫瘤を触知していたが放置していた．次第に増大し，悪臭と出血を認めるようになったため来院した．来院時，PSは2．腫瘍は7cm大であり皮膚潰瘍を伴い，胸筋固定を認めた．超音波検査では右ACE領域を中心とする形状不整な低エコー領域として描出された．造影CT検査では右乳房に73mmの皮膚・胸壁に浸潤する腫瘍を認めた．造影MRI検査でも右乳房に皮膚・胸壁に浸潤する75mmの造影結節を認めた．針生検を施行したところ，浸潤性乳管癌（硬癌），ER陽性，PgR陽性，HER-2陰性，Ki-67:20％と診断された．全身検索を施行したところ，腋窩リンパ節に腫大したリンパ節を認める他は，脳・肺・肝・骨などに転移を認めず，右乳癌（T4cN1M0=StageIIIB）と診断された．本人・家族と相談した後，Letrozol（2.5mg/day）の内服を開始した．内服開始後1年間はSDを維持していたが，局所の易出血性は収まらず，投与開始後1年6ヶ月後に腫瘍マーカーの上昇傾向を認めた．Fulvestrantに変更して治療を継続したところ，腫瘍に縮小傾向を認めた．Fulvestrant投与開始から1年後には腫大した腋窩リンパ節は消失し，腫瘍径も60％まで縮小し，易出血性も改善した．再度，全身検索を施行したところ明らかな遠隔転移は認めず，T4cN0M0=StageIIIBと診断された．胸筋温存乳房切除術（大胸筋一部合併切除）+腋窩リンパ節郭清術を施行．術後4年の現在，明らかな局所再発・遠隔転移を認めていない．
　内分泌受容体陽性の切除不能高齢者局所進行乳癌に対しては，まず内分泌療法を施行し，病状によって手術を考慮することが，QOL向上に寄与するものと考えられた．