Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児血流

(S728)

正常胎児における心拡張能評価としての心室流入時間の検討

Evaluation of Ventricular Filling Time as Assessment of Diastolic Cardiac Function in Normal Fetuses

中嶋 えりか, 竹田津 未生, 宇津野 泰弘, 金川 明功, 岩城 久留美, 岩城 豊, 箱山 聖子, 小田切 哲二, 光部 兼六郎, 吉田 俊明

Erika NAKAJIMA, Mio TAKETATSU, Yasuhiro UTSUNO, Akiyoshi KANAGAWA, Kurumi IWAKI, Yuyaka IWAKI, Minako HAKOYAMA, Tetsuji ODAGIRI, Kenrokurou MITSUBE, Toshiaki YOSHIDA

1JA北海道厚生連旭川厚生病院産婦人科, 2北海道療育園診療部

1Department of Obstetrics and Gynecology, Asahikawa-Kosei General Hospital, 2Medical Department, Hokkaido Ryoikuen

キーワード :

【背景】
近年,胎児心臓超音波検査法は著しく進歩し,最近では形態的異常だけではなくさまざまな手法による心機能評価も試みられている.2014年のAmerican Heart Associationによる胎児心疾患診断・治療に関するscientific statementにおいては,胎児心機能評価についてのガイドラインも示され,その重要性が明記されている.房室弁流入波形と流入時間は心拡張能評価の指標として有用である可能性が示唆され,心筋症,左右流出路狭窄・閉鎖疾患における心室機能評価などに応用されている.単峰性の流入ドプラ波形は,胎児大動脈弁狭窄から左心低形成症候群への進行の予測因子として用いられ,胎児カテーテル治療の適応を決定する一因子とされるほか,双胎間輸血症候群(TTTS)における重症度スコアリングに用いる施設もあり,臨床的にすでに利用されている指標である.房室弁流入時間を用いての心機能評価は,定量的な胎児心拡張能の評価を試みるものであり,その心周期で補正したものは,肺動脈弁狭窄・閉鎖における二心室修復の可否の予測(Romanら)や,TTTS症例の心機能評価法(Moon-Gradyら,Votava-Smithら)として報告されている.しかし,房室弁流入時間/心周期比は,Romanらによる右室の正常値が報告されるのみで左室の正常値は報告がない.さらに,正常例の中にも単峰性の房室弁流入波形を認めることがあり,心室流入時間の臨床的意義については不明な点が残されると考えられる.
【目的】
本研究では,正常単胎における三尖弁流入時間/心周期比(TVi/RR),僧帽弁流入時間/心周期比(MVi/RR)を測定し,正常TVi/RR, MVi/RRを算出するとともに,その妊娠週数,心拍数との関係を検討した.
【方法】
当科で妊娠管理を行っている妊娠で,2017年4月以降,胎児心スクリーニング外来を受診し三尖弁流入時間および僧房弁流入時間の計測を行った胎児を対象とした.双胎妊娠,糖尿病合併妊娠,染色体異常や胎児奇形を伴う症例,子宮内胎児発育不全症例は除外した.計測した2数値をそれぞれの計測時点の心周期時間で除し,TVi/RR,MVi/RRを求めた.各数値と胎児心拍数,妊娠週数との相関係数を求め,P<0.05を有意差ありとした.妊婦の背景情報および計測値については診療録を用い後方視的に検討した.
【結果】
期間中50症例で流入時間の計測を行った.検査時週数は19.1~37.7週(28.6±4.5週)で,検査時推定体重は-0.4SD~+1.7SDであった.受診の理由は精査希望症例43例,家族歴3例,スクリーニング異常による再検査が4例(単一臍帯動脈単独2例,異常なし)であった.TVi/RRは0.391±0.035,MVi/RRは0.414±0.048で,MVi/RRはTVi/RRより大きな値を示した(p=0.008).TVi/RRは心拍数と強い負の相関を示し(r=0.506, P<0.001),妊娠週数とは弱い正の相関を示した(r=0.316, P=0.026).MVi/RRは心拍数と負の相関を示し(r=0.391, P=0.005),妊娠週数との相関はみとめなかった(0.229, P=0.109).TVi/RRの正常値として報告される0.38を下回る症例が30%存在した.
【結語】
TVi/RRおよびMVi/RRの正常値は異なる.また,いずれもRR時間で除してもなお胎児心拍数の影響を受けるパラメータであることが判明した.さらに,TVi/RR値は95%信頼区間が38%以上との報告があるが,正常症例でも異常域に分布している症例が少なからず認められた.これらのパラメータを用いる際には計測時の脈拍数に留意し,特に頻脈存在下では心機能の過小評価の可能性を考慮する必要があると考えられる.また,正常例でもTTTS症例と同様の値をとる例が存在し,心機能評価に用いる場合,単独での使用には注意が必要と考えられた.