Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児行動・予後予測他

(S724)

SGA胎児と子宮内胎児発育不全胎児における表情の観察

Fetal facial expressions in small-for-gestational-age and growth-restricted fetuses

森 信博, ABOELLAIL Mohamed Ahamed Mostafa, 天雲 千晶, 石橋 めぐみ, 真嶋 允人, 花岡 有為子, 金西 賢治, 田中 宏和, 西本 尚樹, 秦 利之

Nobuhiro MORI, Mohamed ABOELLAIL, Chiaki TENKUMO, Megumi ISHIBASHI, Masato MASHIMA, Uiko HANAOKA, Kenji KANENISHI, Hirokazu TANAKA, Naoki NISHIMOTO, Toshiyuki HATA

1香川大学医学部母子科学講座周産期学婦人科学, 2香川大学医学部付属病院臨床研究支援センター

1Department of Perinatology and Gynecology, Kagawa University Graduate School of Medicine, 2Clinical Research Support Center, Kagawa University Hospital

キーワード :

【背景,目的】
Small-for-gestational age(SGA)胎児は通常推定体重が10パーセンタイル未満の児と定義されている.しかし,SGAで出生した新生児が単に小さいというだけで良好な経過を辿ることも多い.Fetal growth restriction(FGR)は通常母児間の胎盤を介しての不十分な栄養,酸素化の結果起こると考えられている.FGRは臨床的に胎児の推定体重が基準発育曲線の10パーセンタイル未満で胎児血流計測において中大脳動脈pulsatility index(MCAPI)が異常低値を示し,臍帯動脈pulsatility index(UAPI)が異常高値を示すものをいい,羊水指数(Amniotic fluid index: AFI)が低値を示す場合と正常な場合もある.
胎児行動と胎児表情は胎児の脳の機能と発達を反映していると考えられており,SGAとFGRの胎児における栄養や酸素化の違いが胎児行動,特に胎児表情に影響する可能性が考えられる.従来のtwo-dimensional(2D)超音波を用いてFGR胎児の行動を評価した研究がいくつか報告されているが,その結果において一定の見解が得られていない.
2D超音波の特徴として,走査断面外での胎児行動を描出することができないという胎児の動きを評価する上での大きな制約がある.しかし,four-dimensional(4D)超音波の登場により胎児の動き,胎児行動,胎児表情が容易に評価できるようになった.過去に4D超音波を用いたFGR胎児の行動に関する研究論文が一つだけ報告されており,観察される全ての胎児行動のパターンが正常胎児(Appropriate-for-gestational-age: AGA)に比べFGR胎児では少なくなる傾向にあるとされていた.しかしながら,FGRの定義(推定体重の異常もしくは,胎児血流の異常)が不明瞭であり,その真偽は不明であった.本研究の目的は,4D超音波を用いてAGA,SGA,FGRの胎児の表情の頻度を比較し,SGAとFGRの胎児において表情の頻度が本当に減少しているかどうかを検討することである.
【方法】
妊娠28週から35週のAGA胎児50例,SGA胎児25例,FGR胎児6例を対象とした.7つの表情(blinking: 瞬き,mouthing: 口をモグモグする動き,yawning: あくび,smiling: 微笑み,tongue expulsion: 舌を突き出す動き,scowling: 顔をしかめる動き,sucking: 指を吸う動き)を15分間記録し,その頻度を3群間で比較した.統計学的解析はKruskal-Wallis検定を用いて行い,有意差を認めた場合には多重比較法を行った.
【結果】
AGA胎児ではmouthingが最も頻度の高い胎児の表情であった.SGA胎児ではmouthingが最も頻度の高い表情であったが,mouthingとsmiling及びblinkingの間に有意差は認められなかった.FGRの胎児においてmouthingはyawning,smiling,blinkingとは有意差は認められなかったが,他の表情の頻度とは有意差が認められた.しかしながら,これら3群間ではどの胎児表情の頻度にも有意差を認めなかった.
【結論】
妊娠後期の胎児表情の頻度はSGAとFGRの胎児においてもAGA胎児と比較して減少しないことが明らかとなった.FGR胎児においてその頻度が減少しない理由として,brain-sparing effectによる脳血流の増加が関係しているのかもしれない.また,SGAとFGRの胎児においては脳機能,特にcentral dopamine systemの成熟と発達が促進されている可能性が示唆された.