Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児心臓

(S721)

先天性心疾患の胎児診断に基づくレベル分類の妥当性についての検討

Usefulness of prenatal triage for congenital heart disease

山下 亜貴子, 染谷 真行, 川口 晴菜, 山本 亮, 笹原 淳, 金川 武司, 石井 桂介, 光田 信明

Akiko YAMASHITA, Masayuki SOMEYA, Haruna KAWAGUCHI, Ryo YAMAMOTO, Jun SASAHARA, Takeshi KANAGAWA, Keisuke ISHII, Nobuaki MITSUDA

大阪府立母子医療センター産科

Obstetrics, Osaka Women's and Children's Hospital

キーワード :

【目的】
先天性心疾患(CHD)の新生児は,疾患の重症度によってその治療内容は大きく異なる.当院では,2007年から胎児診断における疾患の重症度を4つのレベルに分類し,出生後の治療方針,管理病棟,関わる診療科などの診療体制を整えて分娩に望んでいる.このレベル分類は,生後のスムーズな治療開始のためだけでなく,病床利用や人的配置の計画にも有用である可能性がある.本研究では,CHDレベル分類の正確性と問題点を把握するために,出生前後のCHDレベル分類の一致率を検討した.
【方法】
2013年-2016年までに当院にて出生前にCHDレベル分類が行われ,かつ当院で出生したCHD児を対象とした.軽症で正常新生児と同様の管理を行える疾患をレベル1,出生直後からの治療介入が必要でなく産科病棟で観察できる疾患をレベル2,出生直後は内科的治療介入のみを要する疾患で循環器科病棟での管理を要する疾患をレベル3,出生直後より外科的な治療介入や小児集中治療室(PICU)での管理を要する疾患をレベル4とした.出生後にどのレベル相当の管理を要したかを検討し,出生前後のレベル分類の一致率を後方視的に検討することで分類の妥当性を評価した.さらに,退院までの侵襲的介入の有無と生命予後を出生前のレベルごとに比較した.
【結果】
対象は255例であった.出生前に判明した染色体異常,レベルの記載なし,人工妊娠中絶,子宮内胎児死亡を除外し228例を解析対象とした.レベル1,2は55例(24.1%)で,そのうち出生後にレベル1,2相当の管理が行われたのは48例(87.3%)であった.出生後にレベル3相当の管理を要した7例(12.7%)は,出生後に大動脈狭窄症(CoA)や肺動脈狭窄(PS)を伴うファロー四徴症(TOF)と修正診断された症例であり,いずれも肺動脈血流に対する介入が必要であった.レベル3の121例のうち,出生後もレベル3相当の管理が行われたのは90例(74.4%)であったが,25例(20.6%)ではレベル1,2相当の管理が行われた.いずれもPSが出生前と比較して軽度のTOFやCoAの狭窄が軽度でPGE1が不要であった症例など,出生前には肺動脈血流に対する介入を予想していたが,結果的に不要な症例であった.また,生後レベル4相当の管理をうけた6例(5.0%)では,PICU管理のもと肺動脈血流に対する介入を要した.レベル4は52例であり,いずれもレベル4相当の管理が行われた.経皮的バルーン中隔裂開術(BAS)はレベル1,2では0例,レベル3では16例(13.1%),レベル4では16例(30.8%)(P<0.001),心臓手術はレベル1,2では3例(5.3%),レベル3では44例(36%),レベル4では41例(78.8%)(P<0.001)であった.いずれもレベルが上がるほど高頻度であった.また死亡退院はレベル1,2で0例,レベル3で2例(2.4%),レベル4で3例(5.8%)(P=0.09)で有意差はなかったが,レベル1,2では死亡退院はなく,レベルが上がるごとに死亡率は上昇した.ただし,レベル3の死亡例はいずれも壊死性腸炎による死亡であった.
【考察】
胎児診断に基づくCHDレベル分類は,出生後に要した治療および生命予後と大きく解離しておらず,結果的に関連各科の医師および看護スタッフの統一した意志決定と生後の治療の準備のために有用であると考えられた.ただし,出生前のCHDレベル分類と出生後の病状に相違を認めることが多い疾患として,CoAとTOFが認識された.その背景には,CoAの狭窄の程度,TOFにおけるPSの程度を出生前に正確に評価することの困難さがあると考えられた.そのようなCHDの胎児診断の精度の限界を考慮した柔軟なレベル分類の運用が必要であると考えられた.