Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児治療 他

(S708)

総排泄遺残症伴う胎児腹水と診断し腹腔羊水腔シャント術を施行した1例

A case of persistent Cloaca with ascites

吉田 彩, 笠松 敦, 小林 直子, 黒田 優美, 椹木 晋, 岡田 英孝

Aya YOSHIDA, Atsushi KASAMATSU, Naoko KOBAYASHI, Yumi KURODA, Susumu SAWARAGI, Hidetaka OKADA

関西医科大学附属病院産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Kansai Medical University

キーワード :

【はじめに】
総排泄腔遺残症は,総排泄腔が直腸・腟および尿道に分離せず,共通管を形成して会陰に開口する先天奇形であり,頻度は約5万出生に1例とされている.出生前の超音波所見は多嚢胞性骨盤内腫瘤(水腟症,膀胱拡大),水腎水尿管,羊水過少などとされている.
今回我々は,胎児超音波検査で胎児腹水の原因を総排泄腔遺残症に伴う胎児尿によるものと診断し,肺低形成予防目的に腹腔羊水腔シャント術を行った1例を経験したので報告する.
【症例報告】
40歳,1妊0産.妊娠28週時に胎児腹水と単一臍帯動脈を指摘され,当院紹介受診となった.
超音波検査では,腹腔内に腹水貯留と骨盤腔内に嚢胞様構造を認め,拡張した膀胱と腟,子宮,両側卵管を疑い,総排泄腔遺残症と診断した.腹水の原因として総排泄腔遺残症に伴う胎児尿の経卵管的腹腔内逆流による胎児腹水を疑い,腹水組成と腎機能評価目的に妊娠28週と29週時に腹水除去を行うも再貯留を認めたため,腹水貯留による胸腔圧迫および羊水過少による肺低形成を予防するために妊娠29週時に腹腔羊水腔シャント術を施行した.その後胎児腹水を認めず,羊水量も増加したが,妊娠30週時に再貯留を認めたためシャント閉塞と考え,再シャント術を施行した.妊娠32週頃より両側腎盂拡大を認め,妊娠33週頃から腹水の再貯留を認めシャント閉塞が疑われたが,再々シャント術を行うほどの再貯留は認めなかった.その頃より両側水腎症を認め,grade4と進行,腸管拡張も目立つようになった.妊娠36週時にはAFI2.6と羊水過少も認めた.妊娠37週1日骨盤位に対し選択的帝王切開術施行した.出生体重は3302g,アプガースコア2点(1分値)2点(5分値)であった.出生時啼泣なく,直ちに気管挿管施行.肺高血圧所見を認め,酸素化不良あり,HFOでの呼吸管理を要した.外陰部女性型,共通排泄孔あり,日齢0に膀胱鏡検査および人工肛門造設術を施行した.膀胱鏡検査では共通排泄管を認め,共通管より膀胱,直腸,子宮(双角子宮)に分岐していることから総排泄腔遺残症の確定診断に至った.開腹所見では腹膜炎を疑う腹膜の肥厚と腸管,子宮の癒着を認め胎便性腹膜炎と診断された.超音波所見では両側水腎•水尿管を認めた.日齢7には抜管でき,その後の呼吸状態は問題なかった.出生後の膀胱造影検査で片側の膀胱尿管逆流症と診断され,今後は腎機能の経過観察および根治術を行う予定となっている.
【考察】
胎児水腫を伴わない胎児腹水の原因として染色体異常,腹腔内嚢胞破裂,腸管損傷を原因とした胎便性腹膜炎,リンパ管機能不全による乳び腹水などがあげられる.今回は腹水穿刺後も再貯留したこと,総排泄腔遺残症が疑われたことから胎児尿の逆流による胎児腹水と診断した.総排泄腔遺残症における腹水は胎児尿の経卵管的腹腔内逆流に起因し,腹腔・腟内圧の変化および卵管周囲の癒着などが腹水貯留に関与すると考えられている.総排泄腔遺残症において胎児尿の体外への排泄が少ないことによる羊水過少に対して腹腔羊水腔シャント術の適応は確立していない.
今回の症例では腹腔羊水腔シャント術後羊水量は保たれていたが,徐々に胎児腹膜炎からの卵管閉塞,水腎・水尿管へと進行を認めた.しかし妊娠36週時まで羊水過少を認めなかったことで肺低形成を予防できたと考えられた.
【結論】
胎児腹水の出生前診断において胎児総排泄腔遺残症も念頭におくことで胎児治療の可能性を考慮できた一例であった.