Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 産婦人科
婦人科腫瘍

(S706)

骨盤内腫瘍にて発覚後,急速な経過をたどった神経内分泌腫瘍の1例

One case of the neuroendocrine tumor which followed rapid progress after detection for pelvic tumor

福地 弘子, 池袋 真, 小暮 剛太, 山口 摩佑子, 豊澤 秀康, 武田 豊明, 杉山 将樹, 満川 元一, 石川 哲也, 松岡 隆

Hiroko FUKUCHI, Shin IKEBUKURO, Gouta KOGURE, Mayuko YAMAGUCHI, Hideyasu TOYOZAWA, Toyoaki TAKEDA, Masaki SUGIYAMA, Genichi MITUKAWA, Tetuya ISHIKAWA, Ryu MATUOKA

1水戸赤十字病院産婦人科, 2昭和大学病院産婦人科学教室

1Obstetrics and gynecology, Mito Red Cross Hospital, 2Obstetrics and gynecology, Showa University Hospital

キーワード :

はじめに,神経内分泌腫瘍の発生頻度は,10万人に5.25人の割合で発症し,全悪性腫瘍の1∼2%を占めると言われているが,その罹患率は年々増加傾向にある.神経内分泌腫瘍はホルモン産生症状を有する機能性(症候性)とホルモン産生症状のない非機能性(非症候性)に大別され,特に消化器に発生する神経内分泌腫瘍では機能性を有することが多いといわれている.治療については病理学的な分類と発症部位に基づいて治療方針を検討する必要があるため,神経内分泌腫瘍が疑われる場合には病理学的な診断を行うことが重要と言われている.
今回我々は超音波で充実性骨盤内腫瘍を認め,精査経過中,病状が急速に進行し,生検の病理学的確定診断直後,初診時より約1.5ヶ月後で永眠した症例を経験したので文献的考察も含め報告する.
症例は30代,未経産,3週間前からのくりかえす左下腹部鈍痛を主訴に近医内科を受診し,経腹超音波検査で卵巣腫瘍を指摘され当院に紹介受診となった.既往歴に特記事項はなく,4ヶ月前に行った会社の健康診断ではA判定であった.初診時の超音波検査で両側性に充実性骨盤内腫瘤を認めたために,卵巣がんや転移性卵巣がんを疑い,CT,MRI画像検査を行った結果,肝,肺,膨大動脈リンパ節への多発転移を認めた.腫瘍マーカーではCEA42.1ng/dlと上昇あり消化器がんも疑い,GF,大腸CT検査を施行するも異常所見はなかったために,卵巣がん疑いで精査加療目的にて専門施設への紹介となった.紹介施設で診断目的にて肝生検を行ったが,生検翌日から全身倦怠感,食欲不振にて生検2日後に当院を受診し,肝機能障害,黄疸,炎症兆候の著名な増悪を認たために緊急入院となった.腎機能障害,肝機能障害,全身状態の悪化から加療は困難と判断した.生検後10日で下部消化管原発神経内分泌腫瘍と診断した翌日に永眠となった.当院初診の1.5ヶ月後であった.
神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)は神経内分泌細胞に由来する腫瘍であり,この神経内分泌細胞の特徴が明らかになるにつれて,内分泌臓器のみではなく全身に分布するdiffuse neuroendocrine system (DNES)に存在し,神経内分泌腫瘍も全身臓器に発生することが明らかとなった.神経内分泌腫瘍は特に膵臓や消化管などの消化器や肺に生じることがほとんどだが,下垂体,副甲状腺,甲状腺,副腎や胸腺,卵巣,子宮にも発生することもある.神経内分泌腫瘍において悪性度・増殖能の高い神経内分泌がんに分類される病態はNETとまったく異なった疾患として治療が選択される.神経内分泌がんは極めてまれな病態であるために疾患概念から類似性のある小細胞肺がんに準じた治療選択が推奨されており,シスプラチンをベースとした治療法としてシスプラチンとエトポシドの併用療法,あるいはシスプラチンとイリノテカンの併用療法が行われている.今回我われは診断に至る前に病状が急速に悪化し,加療まで至れなかった症例を経験し,神経内分泌腫瘍の理解が必要であることを学んだ.