Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 消化器
膵臓/症例

(S690)

膵Solid pseudopapillary neoplasm(SPN)の2例

Solid pseudopapillary neoplasm of the pancreas: report of two cases

田口 由里, 石田 秀明, 長沼 裕子, 岡庭 信司, 小川 眞広, 石田 和之, 伊藤 恵子, 須田 亜衣子, 大森 泰文

Yuri TAGUCHI, Hideaki ISHIDA, Yuko NAGANUMA, Shingi OKANIWA, Masahiro OGAWA, Kazuyuki ISHIDA, Keiko ITOU, Aiko SUDA, Yasuhumi OOMORI

1市立横手病院消化器内科, 2秋田赤十字病院消化器科, 3飯田市立病院消化器内科, 4日本大学消化器肝臓内科, 5岩手医科大学附属病院病理診断科, 6大曲厚生医療センター臨床検査科, 7秋田大学大学院医学系研究科分子病態学・腫瘍病態学講座

1消化器内科, 市立横手病院, 2消化器科, 秋田赤十字病院, 3消化器内科, 飯田市立病院, 4消化器肝臓内科, 日本大学, 5病理診断科, 岩手医科大学付属病院, 6臨床検査科, 大曲厚生医療センター, 7分子病態学・腫瘍病態学講座, 秋田大学大学院医学系研究科

キーワード :

【症例1】
30歳代女性.一過性の下血を主訴に当院救急外来受診.その時のCT検査で膵頭部に15x10mmの腫瘤を認めた.毎日350ml以上のビール飲酒習慣有り.家族暦では糖尿病例はあるが膵癌例はいない.生化学データ上腫瘍マーカーも含め異常無し.超音波所見は,a)膵頭部に輪郭整な15x10mm類円形腫瘤有り,b)病変は淡い後方エコー増強効果を認めるも外側音響陰影は伴わない,c)病変内部に小嚢胞を多数認めた,d)膵管拡張や周囲脈管異常はみられなかった,e)腹部に他の異常所見はみられなかった.これらの所見は,超音波内視鏡(EUS)及びEUS下造影超音波で,一層明瞭となったが,基本的には同様であった.ERCPでは胆管は問題なく,膵管の軽度圧迫を認めたのみであった.EUS下の生検では,ChromograninA+/-, Synaptophysin+focal,βCatenin核集積で,SPNと診断した.本人の希望があり膵頭部分切除術施行.免疫染色ではβCateninが核に陽性,Vimentin, CD10は細胞質に陽性で,SPNと最終診断された.悪性所見はみられなかった.現在無症状で外来経過観察中.
【症例2】
80歳代男性.既往歴,家族暦に特記すべき事項無し.検診目的の腹部超音波検査で膵尾部に6.5x4cm大の腫瘤を認め精査加療目的に当院消化器科入院.超音波所見は,a)病変の輪郭は不整,b)病変内部は複雑であったが大まかには著明な石灰化を伴う低エコー腫瘤で,c)後方エコーに関しては石灰化から生じる音響陰影のため判定は困難であった,d)膵管拡張や周囲脈管異常はみられなかった,e)腹部に他の異常所見はみられなかった.CT検査では,辺縁が僅かに染まる石灰化低染病変で,腹部に他の異常を認めなかった.膵病変の性状診断目的に施行した造影超音波では,病変はCT同様,辺縁が僅かに染まる石灰化低染腫瘤であったが,検査中にS5胆嚢近傍に15mm大の単発性濃染腫瘤が描出された.再度,その指摘箇所をねらったMRI, CT再検では,共に,血流に富む小病変を検出し得た.膵に関してはSPNなどの石灰化腫瘍が考えられたが,肝病変に関しては,膵と異なる他病変の可能性も考えたが結論に至らず,膵と肝の2病変に関し開腹下にこれらを切除した.膵病変は充実性,一部偽乳頭状の増殖を示し,ChromograninA, Synaptophysinは陰性, βCatenin核陽性,Vimentin, CD56, CD10が陽性でSPNと診断され,肝病変は膵病変と同様の組織で,肝転移と診断された.膵病変ではKi67が2.3%であったのに対し,肝転移のそれは8.7%で原発巣よりも高値を示した.術後経過順調で現在外来経過観察中.まとめと考察:膵SPNは膵外分泌腫瘍全体の1-2%と比較的稀である.膵体尾部に発生しやすく,被包化され壊死,変性,石灰化を生じ易い.この特徴は症例2の膵病変に顕著にみられた.症例1の病変径が小さいためこれらの特徴を欠いたと思われる.この点に関しては,今後小病変の蓄積で明らかになると思われる.SPNは以前は“良性”病変に分類されていたが,近年はlow malignancyとして悪性腫瘍に分類されるようになった.注目すべきは症例2で,画像所見が膵と肝で異なったことが挙げられる.これは膵病変よりも転移巣で高値を示し,原発巣と転移巣で悪性度が異なる事に起因すると考えられるが,SPN例の診療を考える上で示唆に富む所見である.今後SPN例に対しては常に転移も念頭に入れるべきと思われた.