Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 消化器
消化管/症例

(S670)

小児の内ヘルニア診断における超音波検査の有用性

Usefulness of ultrasonography for the diagnosis of intenal hernia in children.

野中 航仁, 市橋 光

Kazuhito NONAKA, Kou ICHIHASHI

自治医科大学附属さいたま医療センター小児科

Pediatrics, Saitama Medical Center Jichi Medical University

キーワード :

【はじめに】
 内ヘルニアは,体腔内の陥凹あるいは裂孔内に体腔内臓器が陥入する稀な疾患である.先天性もしくは外傷や炎症による後天性の発生機序が考えられており,陥入部位によって傍十二指腸窩,傍盲腸窩,Winslow孔,腸間膜裂孔,S状結腸間膜窩,後吻合部ヘルニアなどに大別される.間歇的な腹痛を呈するものから急激な経過で絞扼性イレウスを発症するものまで臨床経過はさまざまであり,画像検査による術前診断が困難な場合もある.
 今回,我々は超音波検査を繰り返し行うことで絞扼性イレウスおよび内ヘルニアを疑い,緊急開腹手術で小腸腸間膜ヘルニアと確定診断した症例を経験したので報告する.
【症例】
 特に既往症のない7歳の男児.元来,嘔吐しやすい体質であった.
 入院前夜から腹痛と嘔吐が出現し,夜間急患センターを受診して制吐薬を処方された.入院当日の日中にかかりつけ医を受診し,急性胃腸炎の診断で整腸薬を処方されたが,その後も嘔吐が続いて腹痛が増悪傾向であったため,同日に前医を再診した.補液を施行されたがその間にも2回嘔吐したため,精査加療目的に当院へ紹介された.当院受診時には嘔気および腹痛は軽快していたが,経口摂取が困難であるため入院した.絶食で補液を行い,入院2日目には症状軽快し,腹部超音波検査でも異常所見は認めなかった.食事を再開したところ腹痛と嘔気が再燃したが,1回嘔吐後には軽快していた.入院3日目にも食後に胆汁性嘔吐があったため,腹部超音波検査を再検した.超音波検査では,上腹部小腸壁の一部が肥厚かつ虚脱してその口側が著明に拡張していたことから絞扼性イレウスと診断し,内ヘルニアを鑑別に考えた.腹部造影CTでも空腸の部分的な拡張を認めたが確定診断には至らず,緊急開腹術を施行した.手術所見は小腸腸間膜に欠損孔があり,腸管の陥入を認めた.陥入した腸管を裂孔から引き出して通過障害を解除し,裂孔を修復した.陥入腸管に虚血性変化はなかったことから腸管切除は要さず,術後経過は良好であった.
【考察】
 内ヘルニアの症状は腹痛や嘔吐など非特異的なものが多く,臨床症状から診断することは困難である.また腹部造影CTが有用との報告が散見される一方,無症状時には異常所見を呈さず診断に難渋したとの報告もある.今回の症例でも,症状軽快時の腹部超音波検査では異常所見を認めなかったが,食事再開後の症状再燃時に超音波検査を再検したところ絞扼性イレウスの所見を認め,内ヘルニアを疑うことができた.これらの経緯から,食事摂取による腸管の蠕動や拡張が内ヘルニアをおこす誘因となったのではないかと考えられた.内ヘルニアでは症状軽快時には画像所見も異常を呈さない可能性があることを認識し,反復する腹痛および嘔吐では有症状時に画像検査を繰り返し行うことが重要と考えられた.その際,超音波検査は侵襲なく繰り返し行うことができるため第一選択であり,絞扼性イレウスをきたした内ヘルニアの診断にも有用と考えられた.
【結論】
 反復する腹痛および嘔吐では内ヘルニアを鑑別に挙げ,有症状時に超音波検査を行うことが診断に有用である.