Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 消化器
消化管/症例

(S669)

川崎病患児における便中α1-アンチトリプシンと腸管ドップラー血流測定に関する検討

A study of fecal α1- antitrypsin and intestinal Doppler blood flow measurements in pediatric Kawasaki’s disease patients

神保 圭佑, 新井 喜康, 京戸 玲子, 宮田 恵理, 細井 賢二, 青柳 陽, 工藤 孝広, 大塚 宜一, 清水 俊明

Keisuke JIMBO, Nobuyasu ARAI, Reiko KYOUDO, Eri MIYATA, Kenji HOSOI, Yo AOYAGI, Takahiro KUDO, Yoshikazu OHTSUKA, Toshiaki SHIMIZU

順天堂大学小児科

Department of Pediatrics, Juntendo University Faculty of Medicine

キーワード :

【はじめに】
川崎病(Kawasaki’s disease: KD)は,全身血管炎を本態とする疾患で,急性期に低蛋白血症をしばしば経験する.しかしながら,その原因として腸粘膜病変による蛋白漏出の関与を検討した報告はない.本検討において,我々はKD患児における便中への蛋白漏出を検討するため,経時的に便中α1-アンチトリプシン(Sα1-AT)を測定し,また,腹部超音波検査にて,KD急性期の小腸粘膜血流量を定量し,検査値および臨床データとの相関を検討した.
【方法】
対象は45例のKDで主要症状を5つ以上有し,診断基準を満たした症例で,男女比26/19,平均月齢34.4±24.3(2-102)か月,および平均診断病日4.5±1.0(2-8)病日である.それらにおいて,① 免疫グロブリン投与前(急性期)と解熱後3-5日後(回復期)のSα1-ATの比較.② 急性期Sα1-ATとUSによる小腸粘膜血流定量値(vessel density: VD)との相関.③ Sα1-ATおよびVD値と他の検査値(アルブミン,CRP,D-ダイマー)および臨床データ(群馬スコア,腹痛,再発,冠動脈瘤,およびステロイドパルス(SP)の有無)との比較検討.を行った.VDとはpower doppler画像4cm2内における血流シグナルとそれ以外を2色化(赤/黒)し,赤色の割合(%)を算出したものである.VDの測定に際し,小腸と腸間膜画像(間質)にしぼり測定し,最も血流が強く描出される部位を選択した.大血管,筋,他の実質臓器は測定範囲に含めず,空腸と回腸それぞれが4cm2を満たすように測定範囲を調節し,画像は体動の影響がない画像(空腸と回腸それぞれ5枚: 計10枚)を選定し,それぞれの平均VD値を採用した.超音波プローベは8-12MHzリニアプローベを,超音波機器はHI VISION Preirus®(日立-アロカ社製)を使用した.
【結果】
①回復期に比べ急性期Sα1-ATは有意に高値(p=0.01)であった.②VDとSα1-ATに有意な正の相関がみられた(r=0.65,p=0.002).③急性期Sα1-ATはCRPと有意に相関し(r=0.61,p=0.001),腹痛を訴えた症例(p=0.02)とSP例(p=0.02)で有意に高値を示した.さらに,VDは冠動脈瘤合併例(p=0.04)とSP例(p=0.04)で有意に高値を示した.
【考察】
KD急性期における血中蛋白減少について考察した報告はみられないが,原因の1つとして,腸管内への蛋白漏出が示唆された.Sα1-ATの増加とVDに正の相関がみられたが,既報でVD増加を報告したのは乳児消化管アレルギーのみで,今回,KDでも増加がみられる場合があることがわかった.また,VDは腸管内蛋白漏出の程度が強い疾患で増加する可能性が示唆された.Sα1-ATはCRP,D-dimerと有意に相関し,腹痛例とmPSLパルス療法実施例で有意な増加がみられた.一方,VDは冠動脈瘤形成例とmPSLパルス療法実施例で有意な増加がみられ,Sα1-ATとVDはKDの重症度や合併症の予測に有用である可能性が示唆された.
【結語】
KDの急性期において,腸管からの蛋白(Sα1-AT)漏出と小腸粘膜血流(VD)の増加を認めた.急性期のSα1-ATとVDは,KDの重症度および合併症の予測指標となる可能性があり,今後,多施設研究などを行うことで症例数を増加し,より詳細な検討,およびリスク因子の抽出を行う必要がある.