Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 消化器
肝腫瘍/症例

(S665)

術前診断困難であった肝エキノコッカス症の1例

A case or Aveolar Echinococcosis of the liver.

竹内 有加里, 松居 剛志, 山中 志織, 大村 祐司, 潟沼 朗生, 大森 優子, 篠原 敏也

Yukari TAKEUCHI, Takeshi MASTUI, Shiori YAMANAKA, Yuji OMURA, Akio KATANUMA, Yuko OMORI, Toshiya SHINOHARA

1手稲渓仁会病院臨床検査部, 2手稲渓仁会病院消化器病センター, 3手稲渓仁会病院診療技術部, 4手稲渓仁会病院病理診断科

1Department of Medical Laboratory, Teine Keijinkai Hospital, 2Center for Gastroenterology, Teine Keijinkai Hospital, 3Department of Radiology, Teine Keijinkai Hospital, 4Department of Surgical Pathology, Teine Keijinkai Hospital

キーワード :

【症例】
60歳,女
【主訴】
背部痛
【現病歴】
2014年検診の腹部超音波検査,2015年2月の健康診断の採血では異常を認めなかった.2016年1月背部痛を主訴に前医受診し,CT/MRIにて肝左葉に6cmの腫瘤を指摘され,精査加療目的に当院紹介受診となった.
【生活歴】
喫煙:なし,飲酒:機会飲酒
【家族歴】
父:狭心症,母:心筋梗塞,兄:膵嚢胞
【居住歴】
北海道X市
【入院時現症】
身長155cm 体重53kg 体温36.7℃ 腹部:平坦・軟
【経過】
腹部超音波検査で肝左葉に55×49mm大の低エコー腫瘤を認めた.腫瘤は不整形,境界不明瞭,内部エコー不均一であり,腫瘤より末梢の胆管は3.2mmと拡張を呈していた.胆嚢は全周性に軽度の内側低エコー層の肥厚を認め,内部には10~17mmの結石数ヶと少量のdebrisを認めた.同病変は造影超音波で早期から全体が不均一な染影を呈し,内部に造影不良な領域を認めた.後血管相では不整形なdefectを呈した.造影CTでは同部は動脈相で辺縁から内部に濃染し,中心部に造影不良な領域を認め,内部に嚢胞を疑う所見を認めた.MRIではT1強調像で低信号,T2強調像では淡い高信号で内部に点状の高信号を散在性に認め,DWIでは不均一な高信号の中に不整形の低信号が混在していた.MRCPではBlの狭窄を認め,B2とB3の拡張を認めた.ERCPではBlの狭窄像を認め,ブラシ擦過細胞診を施行したところ,陰性2回,不適正6回という結果であった.CTAPでは肝左葉に結節状のperfusion defectを認め,内部に既存の門脈枝が走行していた.CTHAでは1st phaseでtumor内部に濃染される部分と,造影効果の弱い部分が存在し,濃染する部分は2nd phase,3rd phaseでは造影効果が減弱しているが,造影効果の弱い部分は遅延性濃染を呈していた.以上の所見から肝内胆管癌(腫瘤形成型)を疑い,肝左葉尾状葉切除,肝外胆管切除,肝門部リンパ節郭清,胆管空腸吻合を施行した.組織学的には腫瘤は壊死物を含む多房性嚢胞性病変の集簇から成り,嚢胞性病変内には壊死物質と石灰化物に混じ,折りたたまれたクチクラと胚層が認められ,エキノコッカスの所見であった.
【考察】
エキノコッカス症は主として肝に病巣を形成する寄生虫症である.画像診断上,肝癌や他の肝疾患との鑑別に苦慮した肝エキノコッカス症については報告例が散見される.肝エキノカックス症の画像所見は嚢胞や石灰化像が集簇・混在している像が典型的とされるが,進行に伴い多彩な病変を呈することが知られている.本症例ではいずれの画像でも腫瘤内に石灰化を指摘できなかった.また,肝エキノコッカス症のほとんどの病変は乏血性であるが,本症例では多血性病変であり,非典型的であった.しかし,腫瘤内の嚢胞はMRIやCTにて指摘可能で,造影超音波検査後血管相でもworm-eaten defectを呈しており,肝エキノコッカスに矛盾しない像であった.
【結語】
術前診断困難であった肝エキノコッカス症の1例を経験したので報告する.