Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
感染性心内膜炎

(S652)

Bartonella quintanaが起因菌であった血液培養陰性心内膜炎の一例

A case report of blood culture negative endocarditis caused by Bertonella quintana

宮本 亜矢子, 内藤 和幸, 北 宏之, 渡邉 智之, 村井 大輔, 小松 博史, 児玉 文宏, 中村 雅則, 湯田 聡

Ayako MIYAMOTO, Kazuyuki NAITO, Hiroyuki KITA, Tomoyuki WATANABE, Daisuke MURAI, Hiroshi KOMATSU, Fumihiro KODAMA, Masanori NAKAMURA, Satoshi YUDA

1JCHO札幌北辰病院検査部, 2JCHO札幌北辰病院循環器内科, 3JCHO札幌北辰病院総合診療科, 4市立札幌病院循環器内科, 5市立札幌病院感染症内科, 6市立札幌病院心臓血管外科, 7手稲渓仁会病院循環器内科

1Department of Clinical Laboratory, Japan Community Health care Organization Sappporo Hokushin Hospital, 2Department of Cardiology, Japan Community Health care Organization Sappporo Hokushin Hospital, 3Department of General and Family, Japan Community Health care Organization Sappporo Hokushin Hospital, 4Department of Cardiology, Sapporo City General Hospital, 5Department of Infectious Diseases, Sapporo City General Hospital, 6Department of Cardiovasucular Surgery, Sapporo City General Hospital, 7Department of Cardiology, Teine Keijinkai Hospital

キーワード :

【症例】
71歳,女性.
【主訴】
生来著患なく,1ヶ月前より微熱,感冒様症状を自覚.1週間前より,全身,顔面の浮腫,胸苦が出現したため,当院を受診した.胸部Xpにて胸水貯留,肺うっ血を認め,心不全を疑われ心エコー図検査を施行した.
【経胸壁心エコー図検査】
右冠尖-無冠尖交連部に付着する13mmの可動性に富む腫瘤像,無冠尖弁尖に6mmの腫瘤像を認め,いずれも高輝度エコーを呈していた.弁尖接合面中央から幅広く吹き,心尖部付近まで到達する高度な大動脈弁逆流(AR)を認め,左室拡張末期径は55mmと拡大していた.
【臨床経過】
体温は37.3度,WBC 5340/μL,CRP 1.04mg/dLと炎症反応は軽度であったが,経胸壁心エコー図検査から感染性心内膜炎(IE)が疑われた.IEの弁破壊による高度なARが原因で心不全を生じていると判断し,入院となった.弁機能障害による心不全を発現していること,腹部エコー検査で脾膿瘍を認め塞栓症も発症していることから,早期の外科治療が必要と考え,心臓血管外科へ転院となった.起因菌は同定できていなかったが,心不全コントロールと感染巣郭清を目的に,転院後5日目に手術を施行した.
【術前経食道心エコー図検査】
右冠尖-無冠尖交連部に14mmの可動性に富む腫瘤像,無冠尖弁輪部付近に4mmの腫瘤像を認めた.無冠尖弁尖の中央は肥厚が強く,右冠尖も肥厚していた.各交連部にも肥厚があり,弁尖,交連部の肥厚すべて疣贅と考えた.
【術中所見】
右冠尖-無冠尖交連部に棍棒状の疣贅,無冠尖弁尖に大きな疣贅,右冠尖と左冠尖の弁尖に小さな疣贅を認めた.弁輪部膿瘍は認めなかった.疣贅を一塊として弁尖を切除し,十分な洗浄後,牛心嚢膜生体弁に置換した.
【術後の臨床経過】
当院で,抗生剤開始前に採取した血液培養3セット,転院先での血液培養もすべて陰性であったため,血液培養陰性心内膜炎(BCNE)が疑われた.疣贅のPCR法からBartonella quintanaが検出され,同菌によるIEと診断された.ドキシサイクリンとゲンタマイシンの併用療法を予定したが,腎機能低下がありドキシサイクリン(200mg/日)のみ開始した.心不全は改善したが,術後16日目,頭蓋内出血を発症し,緊急開頭手術を施行した.出血の原因は不明であったが,感染による可能性もあり,ゲンタマイシン(80mg/日)も開始した.その後,全身の感染徴候も改善し,リハビリ目的のため他院へ転院となった.
【考察】
本邦でのBCNEは,IE全体の5~20%を占めるとされ,起因菌としてHACEK群が知られているが,Bartonella属によるIEの報告は少ない.欧米では,BCNEの約28%がBartonella属であったという報告があり,BCNEの場合には,Bartonella属を疑うことが一般的となっている.Bartonella属は,赤血球内に寄生するグラム陰性桿菌で,長期間の血液培養期間を要するため,同定には,血清学的検査法やPCR法が必要となる.Bartonella quintanaは,コロモジラミなどによって伝播され,近年,路上生活者,アルコール中毒者,免疫不全患者のIEの原因菌として注目されている.Bartonella quintanaによるIEでは,感染徴候は比較的軽度で,亜急性の経過をとり,高度な弁破壊を伴うという報告が多い.また,心エコー図検査において,疣贅のエコー輝度が高いと報告されているものが多い.本症例は,不衛生な自宅環境で生活していたため,ノミを介した感染が,今回のIEの原因と推測される.また,感染徴候,疣贅のエコー性状,高度な弁破壊を伴っていたことが,過去の報告と同様であった.
【結語】
Bartonella quintanaが起因菌であったIEを経験した.BCNEを疑う場合には,本菌の可能性も念頭に置いた起因菌同定が必要であると考える.