Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
感染性心内膜炎

(S651)

大動脈弁置換術後に右心房中隔壁の感染性心内膜炎を来した1例

a case of infective endocarditis in the right atrial septal wall after aortic valve replacement surgery

川井 奈津紀, 喜舎場 良香, 澤岻 かすみ, 上原 正邦, 手登根 稔

Natsuki KAWAI, Yoshika KISYABA, Kasumi TAKUSHI, Masakuni UEHARA, Minoru TEDOKON

社会医療法人仁愛会浦添総合病院臨床検査部

Clinical laboratory department, Social medical corporation Jinaikai Urasoe General Hospital

キーワード :

【はじめに】
感染性心内膜炎は弁膜症や先天性心疾患などの何らかの基礎心疾患を有する例に発症することが多く,特に人工弁置換術後の場合ハイリスクとなる.また,感染性心内膜炎は左心系に感染を認めることが多く,右心系に認める割合は全体の5~10%と言われており,左心系と比べ頻度が少ない.今回我々は,大動脈弁置換術後に,右心房中隔壁の感染性心内膜炎を来した稀な症例を経験したので報告する.
【症例】
60歳代,男性
【主訴】
発熱,倦怠感,食欲不振,咳嗽
【既往歴】
大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症による大動脈弁置換術(8か月前),閉塞性動脈硬化症,末期腎不全による維持透析,左大腿部感染性粉瘤
【生活歴】
40年間喫煙歴あり,アルコール1日500ml
【現病歴】
一週間ほど前からの微熱と食欲不振があり,来院当日透析後に悪寒戦慄を伴う37.8℃の発熱を認め当院救急外来を受診.炎症反応高値を認めたため,原因精査・加療目的に入院となった.
【入院時所見】
意識清明,体温40.0℃,血圧174/80mmHg,脈拍68回/分,酸素飽和度97%(room air),心雑音あり,血液生化学:白血球数10200/µl,CRP8.7mg/dl,胸部レントゲン:CPA dull,肺炎像(-).頭部MRI:異常所見なし.胸部CT:右心房に腫瘤状陰影あり.肺塞栓の所見はなし.心電図:右脚・左脚ブロック.経胸壁心エコー:左室の肥大や拡大なく,左室駆出率は66%と収縮能は良好.三尖弁の中等度閉鎖不全症があり,右心房中隔壁に有茎性で形状不整,可動性に富んだ疣贅を疑う付着物(28×21mm大)を認めた.大動脈人工弁周囲からの逆流はなく,弁機能不全も認めなかった.僧帽弁の異常はなく閉鎖不全症は軽微であった.
【入院後経過】
心エコー検査で疣贅が疑われ,発熱の原因が感染性心内膜炎によるものと判断し,抗生剤による治療を開始.入院2日目に来院時の血液培養からStaphylococcus epidermidisを検出した.感染の伸展や人工弁の感染検索を目的に経食道心エコーを施行.大動脈弁レベルの右心房中隔壁に疣贅の付着を認めたが,人工弁及び僧帽弁に明らかな感染を疑う所見は認めなかった.入院3日目の血液培養は陰性となったが,発熱持続し,フォローの経胸壁心エコーでは疣贅のやや増大が疑われた.血小板減少と患者背景を考慮し手術は困難との判断で内科的治療が継続されたが,入院20日目に突然心停止.一度は心拍再開したが,翌日入院21日目に死亡となった.
【考察】
感染性心内膜炎の発症リスクには基礎心疾患の有無が重要で,特に弁膜症で多く,人工弁の場合では,よりハイリスクとなる.今回,人工弁である大動脈弁に明らかな感染はなく,腫瘤の形態や付着部位から粘液腫や乳頭線維弾性腫も鑑別に挙がったが,持続する発熱や血液培養陽性,1か月前の経胸壁心エコーでは腫瘤像は認めなかったことなどから,感染性心内膜炎による疣贅と診断された.また,心電図では新規の右脚・左脚ブロックが出現,さらには完全房室ブロックとなり,感染が房室結節の刺激伝導系を障害したと考えられた.今回,感染経路は特定されなかったが,末期腎不全の透析患者で,閉塞性動脈硬化症の既往や入院時に左大腿部感染性粉瘤も認めており,易感染性の状態であった.
【結語】
人工弁は感染性心内膜炎のハイリスクとなるが,今回感染の主体が人工弁ではなく,右心房中隔壁という稀な症例を経験した.感染性心内膜炎を疑う場合,人工弁や左心系の弁周囲を検索するのは当然の事だが,比較的頻度の少ない右心系の感染も念頭に置いて検査を行う必要がある.