Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
症例 心筋症

(S647)

β遮断薬投与で異なる経過を示したS字状中隔の2症例

A Report of Two Cases with Different Clinical Presentation of Patients with Sigmoid Septum and Left Ventricular Outflow Obstruction

山口 直人, 広江 貴美子, 三浦 重禎, 大嶋 丈史, 太田 庸子, 岡田 清治, 太田 哲郎

Naoto YAMAGUCHI, Kimiko HIROE, Shigeyoshi MIURA, Takeshi OSHIMA, Yoko OHTA, Seiji OKADA, Tetsuro OHTA

松江市立病院循環器内科

Division of Cardiology, Matsue City Hospital

キーワード :

【症例1】
85歳,女性.主訴:左前胸部痛.臨床経過:左大腿骨課上骨折の術後,リハビリ中に左前胸部痛が出現し不安定狭心症として当院へ救急搬送された.緊急冠動脈造影検査では左冠動脈前下行枝に高度狭窄病変を認め,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施した(#6-7.90%→0%,#9.99%→0%).PCI後3日目に発熱・胸痛・呼吸困難が出現,心尖部を最強点にLevine4/6の収縮期雑音を聴取,心電図でⅡ/Ⅲ/aVF/V3-6のST低下を認めた.経胸壁心エコー図検査(TTE)でS字状中隔と最大圧較差221mmHgの左室流出路狭窄:Left ventricular outflow tract obstruction(LVOTO),僧帽弁前方運動(SAM),重度僧帽弁閉鎖不全症(MR)を認めた.TTE観察下にランジオロールを1γから投与開始し,徐々に増量.それに伴いLVOTO及びMRは改善し,胸部症状,心電図変化も改善した.
【症例2】
77歳,女性.主訴:心電図異常.臨床経過:帯状疱疹で入院,心電図異常で当科に紹介.心電図は左室肥大所見を認め,TTEでS字状中隔あり,LVOTに安静時で36mmHg,Valsalva負荷で143mmHgの圧較差を認めた.カルベジロールとシベンゾリンの投薬を開始したが2週間後に呼吸困難で救急外来を受診され,胸部レントゲン写真で心拡大と肺うっ血,TTEで左室拡張末期径(LVDd)の拡大と重度MRを認めた.LVOT圧較差は16mmHgに低下しておりMRの増悪はLVOTO増悪ではなく左室拡大に伴うtetheringが原因と考えられた.カルベジロールとシベンゾリンは中止し,利尿薬投与などを行い心不全は改善した.TTEでは,MRは減少したがLVOT圧較差は44mmHgと増加していた.右心カテーテル検査時にプロプラノロール2mg投与を行い,投与前HR=68bpm,LVDd=46mmからHR=53bpm,LVDd=52mmと徐脈に伴い左室は拡大し,MRは増加,肺動脈楔入圧は13mmHgから21mmHgと血行動態は悪化し,β遮断薬がMR,心不全の増悪の原因と考えられた.
【考察】
S字状中隔は加齢に伴い出現し,高齢者・女性に多く認められる.LVOTO,SAM,MRにより胸痛・呼吸困難・失神などの症状の原因となり閉塞性肥大型心筋症と同様の病態を示すことがあり,β遮断薬やⅠa群抗不整脈薬の有効性が報告されている.症例1では感染,発熱による心不全の増悪にβ遮断薬が著効したが,症例2ではβ遮断薬やⅠa群はむしろMRを増加させ心不全を増悪させる原因になると考えられた.結語:高齢者のS字状中隔による左室流出路圧較差にβ遮断薬やシベンゾリンの投与を行い,異なる経過が認められた2症例を経験した.S字状中隔による左室流出路狭窄は脱水や発熱で容易に増強して心不全増悪の原因となるが,適切な治療方針の選択には左室や僧帽弁の形態の注意深い観察が重要であると考えられた.