Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
心筋症

(S646)

去勢抵抗性前立腺癌治療剤(CYP17阻害剤)によるがん治療関連心不全の一例

Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction in patient treated with Abiraterone for castration-resistant prostate cancer

中島 悠貴, 繼 敏光, 明瀬 裕史, 谷 哲夫, 影山 智己, 柴田 勝, 森谷 和徳, 香久山 裕史, 内田 厚, 三田村 秀雄

Yuki NAKAJIMA, Toshimitsu TSUGU, Yushi AKISE, Tetsuo TANI, Tomomi KAGEYAMA, Masaru SHIBATA, Kazunori MORITANI, Hirohumi KAGUYAMA, Atsushi UCHIDA, Hideo MITAMURA

1立川病院臨床研修医, 2立川病院循環器内科, 3立川病院泌尿器科, 4立川病院呼吸器内科

1Resident program, Department of internal medicine, Tachikawa Hospital, 2Department of Cardiology, Tachikawa Hospital, 3Department of Urology, Tachikawa Hospital, 4Department of Respiratory, Tachikawa Hospital

キーワード :

【はじめに】
去勢抵抗性前立腺癌の治療薬であるアビラテロン(CYP17阻害剤)は,アンドロゲン合成を阻害することにより腫瘍抑制効果を発現する.副作用として不整脈,虚血性心疾患,心不全などの心毒性が23%に生じるが,左室駆出率(LVEF)低下は非常に少ないと報告されている.がん治療関連心不全(CTRCD: Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)は化学療法を含めたがん治療による心不全であり,化学療法に関してはアントラサイクリン系や分子標的薬などの薬剤でおこるが,アビラテロンなどのホルモン療法によるものは非典型的である.今回われわれは,去勢抵抗性前立腺癌患者に対するアビラテロン投与によるCTRCDを疑った症例を経験した.
【症例】
症例は86歳男性.3年前に前立腺生検を施行し腺癌と診断された.ビカルタミド,デガレリクスを開始したが,PSAが上昇したためエンザルタミドに変更した.1年前にエンザルタミドによる薬剤性間質性肺炎を発症し,エンザルタミドの投与を中止した.アビラテロン投与前の心エコー図は,LVEF(Simpson法)67%,左室拡張末期径46mm,左室収縮末期径29mmであった.アビラテロン開始6週後後の心エコー図ではLVEF 48%,左室拡張末期径50mm,左室収縮末期径38mmに増悪しており,胸水貯留,下腿浮腫などの心不全症状が出現したため,アビラテロンによるCTRCDを疑い投与を中止した.中止2週後の心エコー図ではLVEF 59%,左室拡張末期48mm,左室収縮末期径33mmと心機能は改善していた.中止5ヶ月後にはLVEF 73%,左室拡張末期43mm,左室収縮末期径25mmへと回復した.
【考察】
去勢抵抗性前立腺癌に対するアビラテロン(CYP17阻害剤)による心毒性としては心房細動(4.1%),頻脈(2.0%)など軽微なものが多く,LVEF低下(0.2%)は非常に少ないと報告されている.CTRCDは,薬剤投与などによりLVEFが10%以上低下して,53%未満になることであると定義されている.不可逆的心筋障害であるtypeⅠ(心筋傷害)と,可逆的心筋障害であるtypeⅡ(心機能障害) に分類される.がん治療は,複数の抗がん剤使用や放射線療法が行われることが多く,CTRCDの診断に至ることは困難である.われわれの症例は,アビラテロンによりLVEF 68%からLVEF 48%(-19%)になり,薬剤中止によりLVEF 73%(+25%)に回復したため,CTRCD typeⅡを疑った.アビラテロン投与によるCTRCDを経験したので報告する.