藤井 久枝, 菊池 祥平, 若見 和明, 大手 信之

Hisae FUJII, Shohei KIKUCHI, Kazuaki WAKAMI, Nobuyuki OHTE

¹名古屋市立大学大学院医学研究科心臓・腎高血圧内科学, ²名古屋市立大学病院中央臨床検査部

¹Department of Cardio-Renal Medicine and Hypertension, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, ²Clinical Laboratory, Nagoya City University Hospital

キーワード :

【目的】
Vector flow mapping（VFM）は心腔内の血流速度をベクトルを可視化する技術であり，この方法により心周期の各時相における左室内血流の速度と方向の計測が角度非依存的に可能となった．速度ベクトルを用いて，任意の時相における心腔内の圧較差を測定できるが，心腔内圧較差を測定する臨床的意義に関してはこれまで十分には検証されていない．そこで我々はVFMを用いて等容弛緩期の左室内圧較差を測定し，その臨床的意義に関して検討した．
【対象】
心機能の評価を目的に，安静時心エコー図検査と運動負荷試験を同日に施行した，当院通院中の外来患者30人を対象とした．下肢筋力の廃用や脳血管障害にて十分な運動負荷が行えない者や，検査中に不整脈が発生したり，中等度以上の弁膜症を有する者は除外した．
【方法】
安静時心エコー図検査ではModified Simpson法による左室駆出率（LVEF），拡張早期の左室内血流伝播速度（Vp），僧帽弁口血流速波形の拡張早期波（E），心房収縮期波（A），組織ドプラー法による拡張早期僧帽弁輪移動速度（e’）とE/e’を計測した．またProsound afla10（日立社）を用いて心尖部三腔像における左室内血流をカラードプラ法で描出し，DAS-RS1によるVFMのオフライン解析にて等容弛緩期における左室内圧較差（IVPG-IR）を測定した．心エコー図検査の終了後に，症候限界まで心肺運動負荷試験を施行し，最大酸素摂取量（pVO2）を測定した．
【結果】
有意な正の相関関係がIVPG-IRとLVEF（r=0.72, p＜0.0001），Vp（r=0.69, p=0.0001），e´（r=0.49, p=0.01）との間にそれぞれ認められた．我々の以前の研究において良好な左室Suctionを有する左室のLVEFのカットオフ値はLVEF=58％であったが，今回の研究結果においてLVEF＞58％の判別に適切なIVPG-IRのカットオフ値はIVPG-IR＝1.0 mmHgであった（AUC=0.97, p ＜0.0001）．IVPG-IR≧1.0 mmHgの群ではIVPG-IR＜1.0 mmHgの群と比較してpVO2は有意に高値で（20.9±4.4 vs 16.5±5.5 ml/kg/min, p=0.026），BNP値は有意に低値であった（中央値12.3 vs 170.7 pg/ml, p=0.0012）．
【考察】
IVPG-IR≧1.0 mmHgは良好な左室Suctionを反映する指標として，臨床的に有用である．