Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
循環器 その他

(S635)

ニューギニア島奥地に暮らす住民の心エコー図・腹部大動脈エコー・頸動脈エコー所見

Transthoracic echocardiographic, abdominal aorta echo and carotid echo findings of the people live in deep New Guinea island in Indonesia

磯谷 彰宏, 藤澤 道子, 石田 明夫, GARCIA DEL SAZ Eva, INDRAJAYA Manuaba, 木村 友美, 奥宮 清人, RANTETAMPANG Andreas, 和田 泰三, 松林 公蔵

Akihiro ISOTANI, Michiko FUJISAWA, Akio ISHIDA, Eva GARCIA DEL SAZ, Manuaba INDRAJAYA, Yumi KIMURA, Kiyohito OKUMIYA, Andreas RANTETAMPANG, Taizo WADA, Kozo MATSUBAYASHI

1小倉記念病院循環器内科, 2京都大学東南アジア研究研究所, 3琉球大学, 4高知大学, 5Wamena General Hospital, 6大阪大学, 7Cenderawasih University

1Kokura Memorial Hospital, 2Center for Southeast Asian Studies, Kyoto University, 3Ryukyu University, 4Kochi University, 5Wamena General Hospital, 6Osaka University, 7Cenderawasih University

キーワード :

【背景】
文明から離れた生活を送る人類において,心臓疾患の有無や,文明化による生活習慣病から独立して動脈硬化がどのように起こるかは未知である.
【目的】
本研究では文明への暴露が極めて少ない生活を送る人々に対し各種の超音波検査を行い,心臓疾患の有無や腹部・頸動脈の動脈硬化所見を調査することを目的とした.
【対象】
ニューギニア島の奥地,約1600mの高地に暮らすソロバ村及びその周辺住民61名を対象に心エコー図検査,腹部大動脈のエコー検査,頸動脈エコー検査を行った.
【方法】
GE社 Vivid-iqを用い標準的な心エコー図検査を行い心形態/機能評価や弁膜症評価を行った.心臓検査用のセクタ型プローベを流用して腹部大動脈径を測定し大動脈瘤の有無を評価した.またリニア型プローベを用いて頸動脈エコー検査を行い,左右総頚動脈・左右内頚動脈それぞれのplaque の有無と有意狭窄の有無を評価した.
【結果】
年齢 43±10歳,女性 33名(54%),身長 157±8cm,体重 53±10kg,BMI 21±3で,血圧 123±18mmHg/75±7mmHg,脈拍数 71±13 /分であった.心エコー図検査では左室拡張末期径 43±5mm,収縮末期径 29±4mm,左室駆出率 60±6% で,左室重量係数では左室肥大は0%であった.狭窄性の弁膜症は0%で,逆流性の弁膜症はいずれも軽度までであった(trivial/mildの肺動脈弁逆流 25%,三尖弁逆流 23%,僧帽弁逆流 11%,大動脈弁逆流 7%).リウマチ性弁膜症は認めなかった.3名で軽度の左室の収縮性低下を認め,左室拡張末期径/駆出率/GLSはそれぞれ 43mm/42%/-16.2%(39歳男性),49mm/48%/-15.1%(42歳男性)及び 48mm/47%/-16.5%(43歳男性)であった.これらの例では特に自覚症状は認められなかった.肥大型心筋症は認めなかった.52歳女性において推定肺動脈圧 51mmHg が認められた.腹部大動脈は最大短径 18±3mm,最大値 25mm で大動脈瘤は認めなかった.頸動脈では1名において左球部にIMTの肥厚を認め,1.2mmであった.明らかな頸動脈狭窄は認めなかった.
【考察】
未開発地域における住民健診において,リウマチ性弁膜症を始めとする有意な弁膜疾患は認められず肥大型心筋症も認めなかったが,軽度の心機能低下症例を5%に認めた.これはスポーツ心臓よりも軽度の拡張型心筋症別の可能性も考えられたが一般的な頻度より多いと思われ,1600mという高地環境も影響しているかもしれない.別の1名(2%)において軽度から中等度の肺高血圧が疑われ,喫煙習慣によるものの可能性も考えられた.腹部大動脈には大動脈瘤は認めず,また1名(2%)において頸動脈plaqueを認めたが狭窄症は見られなかった.
【結論】
ニューギニア島ソロバ村周辺住民には弁膜症は認めず,拡張型心筋症がみられた.また動脈硬化所見は殆ど見られなかった.未開発地域においては,動脈硬化の進行がより緩やかである可能性が考えられる.