Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
心房

(S618)

三次元心エコー法による肥大型心筋症のリザーバ期左房心筋伸展障害の実態と機序の検討

Abnormal left atrial myocardial extension during reservoir phase in hypertrophic cardiomyopathy assessed by 3D speckle tracking echocardiography

柳 裕介, 岡田 一範, 加賀 早苗, 三神 大世, 政氏 伸夫, 西野 久雄, 横山 しのぶ, 岩野 弘幸, 山田 聡, 安斉 俊久

Yusuke YANAGI, Kazunori OKADA, Sanae KAGA, Taisei MIKAMI, Nobuo MASAUZI, Hisao NISHINO, Shinobu YOKOYAMA, Hiroyuki IWANO, Satoshi YAMADA, Toshihisa ANZAI

1北海道大学医学部保健学科, 2北海道大学大学院保健科学研究院, 3北海道大学病院検査・輸血部, 4北海道大学大学院循環病態内科学

1Department of Health Sciences, School of Medicine, Hokkaido University, 2Faculty of Health Sciences, Hokkaido University, 3Division of Laboratory and Transfusion Medicine, Hokkaido University hospital, 4Department of Cardiovascular Medicine, Faculty of Medicine and Graduate School of Medicine, Hokkaido University

キーワード :

【背景と目的】
肥大型心筋症(HCM)では左房リザーバ機能が低下すると報告されているが,その機序には不明の点が多い.HCMでは左室の長軸方向収縮能が低下することが広く知られており,これが僧帽弁輪の移動を介して左房リザーバ機能に影響する可能性があるが,両者の関係についても不明である.最近,三次元スペックルトラッキング(3DST)法の進歩により,長軸方向や短軸円周方向など,互いに異なる方向の左房心筋の伸縮の程度(ストレイン)や左房容積の時間的変化などを同時に計測できるようになった.そこで,本研究では,3DST法を用いて,HCMの左房リザーバ機能障害に関わるリザーバ期の左房心筋伸展障害の実態とその機序を,左室心筋機能との関係を含めて検討した.
【方法】
対象は,東芝社製Artidaで左室と左房の3DST解析を行ったHCM患者12例(67±12歳,男性8例,女性4例)と正常対照12例(58±17歳,男性9例,女性3例)である.3DST法で得られた左室拡張末期を起点とする左室心筋のグローバルストレイン曲線から,長軸方向と円周方向のピークストレインの絶対値(順にLV-LS,LV-CS)を計測した.同様に,左房心筋のグローバルストレイン曲線から,リザーバ期の長軸方向と円周方向のピークストレイン(順にLA-LS,LA-CS)を計測した.また,左房ストレイン計測と同時に得られた左房容積曲線から,最大値と最小値の差を最小値で除すことにより,リザーバ期の左房容積変化率(LA-VC)を算出した.
【結果】
LV-LS,LA-LS,LA-CSおよびLA-VCは,いずれもHCM群で健常群より有意に小さかった(LV-LS: 11.8±2.4 vs 14.6±1.8%,p<0.01; LA-LS: 18.2±5.4 vs 25.1±6.7%,p<0.05; LA-CS: 20.5±7.1 vs 31.0±13.5%,p<0.05; LA-VC: 67.1±23.9 vs 112±38.1%,p<0.05).LV-CSには両群間に有意差がなかった(32.2±8.8 vs 31.3±5.5%,p=0.76).全24例において,LA-VCは,LA-LSと有意に相関したが(r=0.66,p<0.01),LA-CSとの間にはより強い相関を認めた(r=0.84,p<0.01).LV-LSは,LA-LSと有意に相関したが(r=0.53,p<0.01),LA-CSとは相関しなかった(r=0.30,p=0.16).
【考察】
本研究は,3DST法による左房のストレインと容積の計測に基づき,HCM患者では,左房のリザーバ期の心筋伸展が長軸方向のみならず,円周方向にも障害されていることを明らかにした.また,左房心筋の長軸方向伸展は左室の長軸方向収縮に影響されるが,円周方向伸展はその影響を受けないこと,さらに,リザーバ期の左房容積変化率として求めた左房全体のリザーバ機能には,長軸方向よりも円周方向の左房心筋伸展の方が,より密接に関与することがわかった.左室拡張障害をその臨床的特徴とするHCM患者において,左房リザーバ機能の障害は,左室拡張障害に基づく心不全を助長する重要な因子になると考えられる.今後,HCM患者の左房リザーバ機能を評価するにあたっては,円周方向の心筋伸展障害に注目すべきであると考えられた.
【結論】
HCM患者における左房リザーバ機能の障害は,長軸方向の左房心筋伸展の低下よりも,円周方向の伸展の低下により強く規定されると考えられた.また,左室長軸方向収縮の影響を受けない左房円周方向伸展の低下は,左房心筋固有の伸展性の異常をよりよく反映することが示唆された.