小松 博史, 村井 大輔, 立田 大志郎, 佐藤 友哉, 鈴木 理穂, 鳥羽 真弘, 浅川 響子, 檀浦 裕, 牧野 隆雄, 甲谷 哲郎

Hiroshi KOMATSU, Daisuke MURAI, Daishirou TATSUTA, Tomoya SATO, Riho SUZUKI, Masahiro TOBA, Kyouko ASAKAWA, Yutaka DANNOURA, Takao MAKINO, Tetsurou KONYA

市立札幌病院循環器内科

Cardiovascular Medicine, Sapporo City General Hospital

キーワード :

【背景】
大動脈弁複合体で最も左室側の弁輪である大動脈心室接合部弁輪（AVJ）は前後に短く左右に長い楕円形態をなし，その断面積（AVJA）は体格に比例するとともに，心周期で変動し収縮期には弁口を拡大，拡張期には弁接合を得る有効な弁機能を補う．我々は体格で補正したAVJAやその扁平率が弁疾患や機能により異なる事を報告した．しかしながらAVJAやAVJの扁平率とその周期変動が大動脈弁や僧帽弁の血行動態に影響を受けるのかはいまだ明らかではない．
【方法】
対象は2016年4月から17年9月までに当施設で経食道心エコーを実施し，PHILIPS社製EPIQ7cと3DTEEプローブ（X7-2t）を用いて，生来の大動脈弁の三次元データを取得された連続症例のうち，大動脈弁機能正常（FN）で中等度以上の僧帽弁閉鎖不全（MR）を認めない31例：FN&MR（-）群， FNで中等度以上のMRを認める16例：FN&MR（+）群，および中度以上の大動脈弁閉鎖不全（AR）を認め中等度以上のMRを認めない11例：AR群の合計58例．同社製3D解析ソフトQLAB/3DQのMPR表示で，大動脈弁各弁尖の底部を結ぶ仮想断面上のAVJを描出，心周期の4時相（拡張末期（ED）, 収縮期中期（MS）, 収縮末期（ES）, 拡張中期（MD））でAVJAと，短径および長径を計測，体表面積（BSA）で補正したAVJA（AVJAI）とAVJの扁平率（AVJobl）を算出した．Fisherの正確検定および一元配置分散分析（ANOVA）で，各群の臨床背景と各心周期時相のAVJAIとAVJoblを3群で比較，反復測定ANOVAで両指標の時相と群の2要因を統計学的に検討した．
【結果】
左室拡張末期径を除き，年齡・性別・身長・BSA・LVEF・中等度以上のTRと肺高血圧の臨床背景に3群で有意差を認めなかった．AR群のAVJAIは，心周期4時相いずれにおいても，FN&MR（-）およびFN&MR（+）群より有無に大であった（例:MS AVJAI（mean±SD）, FN&MR（-）群:264±50, FN&MR（+）群:263±39, AR群:337±58 mm²/m², p＜0.001 一元配置ANOVA）．FN&MR（-）群とFN&MR（＋）群のAVJAIは，心周期4時相いずれにおいても差を認めなかった（p値 ED:0.99, MS:0.99, ES:0.99, MD:0.95 post hoc）．AVJAIは心周期4時相の反復測定ANOVAにおいて，3群間で有意差を認めたが，4時相では差を認めなかった（3群 p＜0.001, 時相 p=0.051）．FN&MR（-）群のAVJAIのみ心周期4時相で有意差（時相 p＜0.05）をみとめたが，FN&MR（-）群およびAR群では心周期で差を認めなかった（FN&MR（-）p=0.38, AR群 p=0.19）．一方，AVJ扁平率は，反復測定ANOVAにおいて，いずれもMSに最も小さくMDに最大となる共通の時相変化を認め，3群間および4時相で統計学的な有意差を認めた（3群 p＜0.01, 時相 p＜0.0001）．一元配置ANOVAではESおよびMDには3群間に有意差を認め（AVJ扁平率 ES FN&MR（-）:0.23±0.09, FN&MR（+）:0.28±0.08, AR:0.18±0.09 p＜0.05, MD FN&MR（-）:0.25±0.09, FN&MR（+）:0.31±0.05, AR:0.22±0.06 p＜0.01），FN&MR（+）群のAVJ扁平率はESではAR群より大（p＜0.05 post hoc），MDではFN&MR（-）群およびAR（+）群より大（それぞれp＜0.05, p＜0.01 post hoc）であった．FN&MR（-）群とAR（＋）群のAVJ扁平率は心周期4時相いずれにおいても有意差を認めなかった（p値 ED:0.72, MS:0.37, ES:0.24, MD:0.44 post hoc）．
【結語】
AVJAはAR例で機能正常例に比べ有意に大きい．AVJの楕円形態は弁機能にかかわらず，収縮中期に円形に近くなり，拡張中期に最も扁平となる共通の心周期変化を認める．収縮末期と拡張中期のAVJ弁輪の扁平形態はMRの影響を受け，断面積とは独立して扁平率が増大する．大動脈弁機能を補う大動脈弁輪の形態とその時相変化は，体格や大動脈弁機能とともに僧帽弁機能による影響を受ける可能性がある．