Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
肺高血圧

(S606)

潰瘍性大腸炎に対する漢方薬 青黛の服用による運動誘発性肺高血圧が疑われた一例

A case with exercise-induced pulmonary hypertension caused by herbal medicine for ulcerative colitis

神野 真司, 山田 晶, 杉本 邦彦, 伊藤 さつき, 杉山 博子, 高橋 礼子, 久保 仁美, 東本 文香, 田中 梨紗子, 尾崎 行男

Shinji JINNO, Akira YAMADA, Kunihiko SUGIMOTO, Satsuki ITO, Hiroko SUGIYAMA, Ayako TAKAHASHI, Hitomi KUBO, Ayaka HIGASHIMOTO, Risako TANAKA, Yukio OZAKI

1藤田保健衛生大学病院臨床検査部, 2藤田保健衛生大学循環器内科

1Clinical Laboratory, Fujita Health University Hospital, 2Cardiology, Fujita Health University

キーワード :

【はじめに】
青黛(せいたい)とは,リュウキュウアイ,ホソバタイセイ等の植物を原料とする生薬で,染料(藍)や健康食品としても用いられている.近年,潰瘍性大腸炎に対する有効性が期待され,臨床研究が実施されているほか,潰瘍性大腸炎患者が個人の判断で摂取する事例が認められている.一方,青黛を摂取した潰瘍性大腸炎患者において,肺動脈性肺高血圧症(PAH)が発現した症例が複数存在することが判明し,青黛の摂取によりPAHが生じる可能性があるため,PAHが疑われる場合には青黛の摂取を中止して適切な処置を行うよう注意喚起がなされている.今回,長期にわたる青黛服用が原因と考えられた運動誘発性肺高血圧の一例を経験したため報告する.
【症例】
28歳,男性
【現病歴】
2007年に潰瘍性大腸炎と診断され,2010年5月より青黛(1.5g/日)服用を開始し,当初は経過良好であった.しかし2017年6月頃から腸炎症状再燃のため,青黛が増量された(3g/日).また同じ頃から労作時呼吸苦を自覚するようになり,精査目的で当院紹介受診となった.原因検索のため,運動負荷心エコー図検査(仰臥位エルゴメーター)が施行された.
【来院時検査結果】
外来初診時身体所見:身長160cm,体重43kg,血圧102/62mmHg,脈拍68bpm,整,SpO2 98%(room air),結膜貧血・黄疸なし,肺野ラ音なし,心雑音聴取せず,下腿浮腫なし,胸部X線写真:CTR40%,心電図検査:洞調律,正常範囲内,運動負荷心電図検査(トレッドミル法):94% of THR,負荷中に軽度の息切れ,P波増高,安静時負荷時ともに不整脈の出現なし,心エコー図検査:心機能正常,右心負荷なし,三尖弁逆流収縮期圧較差(TRPG)は10.3mmHgと明らかなPAHを示唆する所見は認めなかった.しかし運動負荷心エコー図検査(仰臥位エルゴメーター)にて,以下のとおり運動誘発性肺高血圧が認められ,経過から青黛の副作用が疑われた.78% of THR,下肢疲労のため75Wで負荷終了,負荷時胸部症状・呼吸苦等の自覚症状を認めず,三尖弁逆流はtrivial(安静時)→mild(最大負荷時)とやや増加,TRPGは16.2mmHg(安静時)→57.8mmHg(最大負荷時)と上昇.
【考察】
PAHは予後不良であることが知られているが,近年,治療法が著しく進歩しており,早い段階で治療介入すれば,PAHの進行を遅らせ予後の改善が期待できるようになった.しかし,これまでのところPAHを早期に診断するための検査法は確立していない.近年,運動負荷心エコー図検査は従来の心エコー図検査では評価困難な早期PAHを診断できると報告されている.また,運動誘発性肺高血圧は正常と安静時PAHの中間にある病態と考察されている.青黛服用による肺動脈への影響の機序は不明だが,厚生労働省の注意喚起には,PAHが疑われる場合には青黛の摂取を中止させ適切な処置を行うこととされており,代表的な症例としてPAHと診断された後,青黛の摂取中止及び在宅酸素療法(HOT)導入,マシテンタン投与により改善した例を挙げている.本症例においては,安静時の心エコー検査では右心負荷・肺高血圧症を示唆する所見は指摘できず,安静時PAHまでは進行していないが,青黛の長期服用及び容量の増加による運動誘発性肺高血圧が疑われた.
【結語】
今回,青黛による運動誘発性肺高血圧が疑われた一例を経験した.運動負荷心エコー図検査は,運動誘発性肺高血圧の検出に有用であり,肺高血圧症が疑われる場合は積極的に運動負荷心エコー図検査を施行すべきだと考えられる.