Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
肺高血圧

(S605)

膵神経内分泌腫瘍に合併した肺高血圧症の2症例

Two cases of pulmonary hypertension associated with pancreatic neuroendocrine tumor

生駒 久美子, 田辺 康治, 山本 麻紀子, 井口 涼子, 高岡 咲子, 益田 智美, 松本 文美子, 宗政 充, 山地 博介

Kumiko IKOMA, Yasuharu TANABE, Makiko YAMAMOTO, Ryouko IGUCHI, Sakiko TAKAOKA, Tomomi MASUDA, Fumiko MATSUMOTO, Mitsuru MUNEMASA, Hirosuke YAMAJI

1岡山ハートクリニック検査部, 2岡山ハートクリニック内科, 3国立病院機構岡山医療センター循環器内科

1Department of Clinical Laboratory, Okayama Heart Clinic, 2Department of Internal Medicine, Okayama Heart Clinic, 3Department of Cardiovascular Medicine, National Hospital Organization Okayama Medical Center

キーワード :

膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor; pNET)の年間初診数は人口10万人あたり2.7人と稀な疾患である.一方でpNETに肺高血圧症(PH)が合併したという症例は報告に乏しい.今回われわれはpNETにPHが合併した2症例を経験したので報告する.症例1は30代男性.主訴は動悸を伴う意識消失.高校生の頃,何度か意識消失があるが詳細は不明.約一週間前に動悸を自覚.翌日,息苦しさを感じた後意識消失.また,一年半で体重が約20kg減少した.来院時のSpO2は98%(room air),心雑音(-),浮腫(-),varix(-).心電図は洞調律,不完全右脚ブロック.SⅠQⅢTⅢパターン.心臓超音波検査では右房・右室拡大,心室中隔扁平化,軽度~中等度三尖弁逆流・肺動脈収縮期圧の上昇(推定右室収縮期圧=87mmHg)を認めた.TAPSE 30mm.明らかな心内shunt flowは認めず.左心系の拡大なく,左室収縮能良好.PAHを疑い,専門的な治療が必要と判断され他院紹介となった.紹介先の病院での血液検査ではWBC,CRP,肝胆道系酵素,アンモニア,BNPの上昇を認めD-ダイマーは正常であった.造影CTでは,膵尾部に連続する腫瘤,肝臓に多発性の腫瘤を認めた.また,シャント血管が発達しており,脾腫もみられ門脈圧亢進の所見が得られた.病理組織診断にてpNETと診断され,PHは門脈肺高血圧症によるものと考えられた.症例2は50歳代男性.主訴は労作時息切れ,咳.3カ月前より労作時息切れを自覚.食欲不振と体重減少あり.来院時のSpO2は99%(room air),心雑音(-).血液検査ではCK-MBとBNPの上昇を認めた.心電図は不完全右脚ブロック.右軸偏位.四肢誘導でS波(+),V1~V4で陰性T波(+).胸部単純CTでは肺野に異常はなく心拡大・肺血管の怒張なし.腹部腫瘤あり.心臓超音波検査では右房・右室拡大,右室収縮能軽度低下(TAPSE 15mm,FAC 31%),心室中隔扁平化,軽度三尖弁逆流,肺動脈収縮期圧の上昇(推定右室収縮期圧=71mmHg)を認めた.左心系拡大なく,左室収縮能は軽度低下.少量の心嚢液を認めた.明らかな心内shunt flowは認めなかった.PAHが疑われ,精査のため他院紹介となった.他院での造影CTでは膵体尾部を占拠する巨大腫瘤を認めた.腫瘤内部を脾動脈などの動脈が走行し,シャント血管の発達を認めた.CT所見からは悪性膵内分泌腫瘍が疑われた.肺動脈吸引細胞診で腫瘍細胞が陽性であり,病理組織診断にてpNETと診断された.このことよりPHは肺動脈腫瘍塞栓によるものと考えられた.
NETは神経内分泌細胞に由来する腫瘍であるが,特に膵臓や消化管などの消化器に生じることが多い.非機能性pNET に特異的な症状はなく,腫瘍増大に伴う非特異的症状として腹部膨満感,腹痛,イレウス症状などが見られることがあるが,PHに伴う動悸や呼吸困難を呈することはまれである.本症例の心臓超音波検査では,右心系の拡大や著明な肺動脈収縮期圧の上昇を認めPHが示唆されたが,症例1では造影CTによりシャント血管の発達した膵神経内分泌腫瘍を認め,門脈圧亢進の所見も得られたためPHは門脈肺高血圧症によるものと考えられた.症例2もシャント血管の発達した膵神経内分泌腫瘍を認めたが,肺動脈吸引細胞診の結果から,肺動脈腫瘍塞栓によるものと考えられた.pNETに伴うPHは極めて稀な例ではあるが,心エコー検査にてPHが疑われる場合は,血液検査やCT,右心カテーテル,病理検査等の他のモダリティの検査も行う必要があると思われた.