菅原 政貴, 朝倉 正紀, 合田 亜希子, 正井 久美子, 大門 愛加, 増山 理

Masataka SUGAHARA, Masanori ASAKURA, Akiko GODA, Kumiko MASAI, Aika DAIMON, Tohru MASUYAMA

兵庫医科大学内科学循環器内科

Cardiovascular Division, Department of Internal Medicine, Hyogo College of Medicine

キーワード :

背景：左室および右室の非侵襲的血行動態評価は超音波を用いた従来の方法では限界がある．デュアルドプラエコー法（DDS）による僧帽弁－三尖弁開放時間差（MO-TO time）は従来法の制限を克服できる可能性がある．そこで我々はMO-TO timeが非侵襲的診断手段として左心原性肺高血圧症（PH-LHD）の診断に有用であるかを検討した．
方法：急性心不全で入院後，薬剤介入ののち症状が安定した洞調律例 60例（男性 28名, 年齢 66±14歳）を対象とした．重症弁膜症症例，透析患者，心房細動例やペースメーカー植え込み後症例を除外症例と設定した．一般的な心エコー図検査に加えて，心尖部四腔断面像を描出しからDDSで左室および右室流入速波形を同時記録した． 右室流入と左室流入の開始時間差をMO-TO timeとした．僧帽弁開放が三尖弁開放よりも先行している場合をMOP（mitral opening precedence to tricuspid opening），三尖弁開放が僧帽弁開放よりも先行している場合をTOP（tricuspid opening precedence to mitral opening）とした．全例で心臓カテーテル検査を施行し，平均肺動脈楔入圧（mPAWP）15mmHg以上かつ平均肺動脈圧（mPAP）25mmHgをPH-LHDと診断した．
結果：MOPはTOPに比べてmPAWPとmPAPは有意に高値であった（mPAWP : 21 ± 8.5 vs. 11 ± 4.5 mmHg, p ＜ 0.001; 32 ± 8.8 vs. 21 ± 5.5, p ＜ 0.001）． MO-TO timeはmPAWPとmPAPともに相関していた（r = -0.74, p ＜ 0.001; r = -0.70, p ＜ 0.001）．ROC解析により僧帽弁開放が三尖弁開放よりも4.5msec先行している時の診断性能は感度0.83 で特異度は 0.81 であった（AUC 0.84, p＜0.001）．MOPを認める65％の症例で，またTOPを認める12％の症例でPH-LHDであった（p＜0.001, Chi-square = 25.0）．従来のエコー指標（最大三尖弁逆流血流速度 2.9m/sec以上かつE/e’ 15以上）とMOPではPH-LHDと関連するモデルとして優れていた（Akaike information criterion comparison: MOP 63.5 vs. 従来のエコー指標 78.7）．
結語: MO-TO timeはmPAWP と mPAPの上昇を反映し，非侵襲的にPH-LHDを診断する指標として有用であった．