脇坂 裕子, 井上 誠, 佐久間 隆貴, 谷口 泰, 千田 宏司

Yuko WAKISAKA, Makoto INOUE, Ryuki SAKUMA, Tohru TANIGUCHI, Koji CHIDA

¹大田病院循環器内科, ²大田病院臨床検査課

¹Department of Cardiology, Ohta Hospital, ²Department of Clinical Laboratory Medicine, Ohta Hospital

キーワード :

　症例は25歳，女性．健診の胸部Ｘ線で右縦隔結節影を指摘され精査目的で当院を受診した．自覚症状なし．既往歴，家族歴に特記すべきことなし．心電図は冠状静脈洞調律，徐脈を呈していた．血液検査は異常なし．胸部CTを施行したところ，下大静脈は右房に流入せず奇静脈に連結し，上大静脈に流入して右房に還流しており，下大静脈奇静脈結合と診断した．合併心奇形の精査目的で心臓超音波を施行したところ，冠状静脈洞の拡大はなく，左上大静脈遺残を疑う所見はなかった．心房中隔欠損などのシャント疾患の合併もみられなかった．肝静脈は右房に直接流入し，下大静脈は右房に流入せずに横隔膜をこえ頭側へむかった．左室の背側に下行大動脈と伴走する奇静脈がみられた．経食道心臓超音波も施行したが，合併心奇形はみられなかった．胸腹部CTでは，内臓逆位の所見はなかった．肺は右3葉左2葉に正常に分葉しており，脾臓は軽度変形を認めるも1個で，膵体尾部の一部が欠損している可能性も考えられたが，明らかな多脾症候群の所見はみられなかった．
　下大静脈奇静脈結合では，多脾症や無脾症，心房中隔欠損，肺静脈環流異常，内臓逆位などの先天異常を伴うことが多く，これらの合併の検索が必要である．本症例は奇静脈の拡張を右縦隔結節影と指摘された．合併心奇形や内臓錯位症候群の合併のない孤立性の下大静脈奇静脈結合であり，無治療で経過観察とした．　心臓超音波では下行大動脈周囲の血管にも注意し，下大静脈の右房への流入を確認すること，腹部超音波でも腹部大動脈周囲の血管や下大静脈と肝静脈の関係を把握して走査することが重要であると考えた．