Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 基礎
イメージング・信号処理

(S588)

超音波の集束効率の改善を目的とした遅延時間の補正方式の検討

Efficient Ultrasound Focusing by Delay Time Compensation Method

安田 惇, 吉川 秀樹

Jun YASUDA, Hideki YOSHIKAWA

日立製作所研究開発グループ

Research & Development Group, Hitachi, Ltd.

キーワード :

【背景】
超音波診断装置にとって,生体組織の構造に起因した波面の乱れによる画質劣化は普遍的な課題である.生体構造が音波伝播に与える影響の補正により,画質の改善などが期待される.本研究では,組織境界での屈折の影響をスネルの法則に基づいて推定し,探触子に与える送信信号の遅延時間を補正する手法を提案した.さらに,生体内の散乱体の影響も含めた補正効果を評価した.
【目的】
屈折を考慮した遅延時間補正方式の効果の解析
【方法】
音波伝播の解析が可能な汎用ソフトウェア(PZFlex)を用い,脂肪組織(密度985 kg/m3,音速1465 m/s)と筋肉組織(密度1050 kg/m3,音速1580 m/s)を想定した皮下組織の2次元生体モデルを構築した.脂肪組織内には,散乱体をランダムに配置した.散乱体の音速は,脂肪組織に対して+5%の値とした.形状は円形とし,直径は,0 μm(散乱体なし),100 μm(1/5λ),250 μm(1/2λ),500 μm(λ),1000 μm(2λ)に変化させた.なお,λは,脂肪組織内における3 MHzの波長513 μmである.散乱体数は,占有面積が10%となるよう設定した.送信系として,3 MHzの周波数を用い,口径12.8 mmのリニアアレイ探触子を模擬した.探触子に与える信号の遅延時間として,屈折を考慮しない場合(補正なし)と,考慮した場合(補正あり)を用い,焦点領域の音場を算出し,理想音場(水の場合)と比較した.補正効果の評価指標は,焦点領域における方位方向の音場のピーク位置と,半値幅内のエネルギー積分値を用いた.
【結果】
ピーク位置において,補正なしの場合では,理想音場からのずれは散乱体の有無やサイズに依存せず 1.0 mm-1.2 mmであった.一方,補正ありの場合は,理想音場からのずれは最大0.021 mmまで補正された.よって,ピーク位置のずれに関しては,散乱体が存在する条件下でも,提案手法の補正効果は有効であることが示された.エネルギー積分値に関しても,補正効果が見られたが,散乱体サイズが大きいほど補正効果が小さくなった.これは,散乱体サイズが大きくなると,屈折の考慮のみでは補正できない後方散乱成分が大きくなるためであると考えられる.よって,エネルギー積分値に関しては,より小さな散乱体が含まれた媒質の方が高い補正効果が得られると考えられる.以上,提案手法によって,散乱体が存在する条件下においても,ピーク位置とエネルギー積分値の補正効果が得られた.応用先として,B像の画質改善などが期待できる.