Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 基礎
心筋・血管計測

(S586)

多数点で超音波計測した頸動脈壁振動解析による局所脈波伝播速度の算出

Estimation of local pulse wave velocity from small vibrations measured ultrasonically at multiple points on carotid arterial wall

伊藤 未夏, 森 翔平, 荒川 元孝, 金井 浩

Mika ITO, Shohei MORI, Mototaka ARAKAWA, Hiroshi KANAI

1東北大学大学院医工学研究科医工学専攻, 2東北大学大学院工学研究科電子工学専攻

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Graduate School of Engineering, Tohoku University

キーワード :

【目的】
動脈硬化の診断指標である脈波伝播速度(PWV)は,従来法においては伝播速度が速い末梢血管[1]を含めた広範囲の平均速度を算出している上,脈波の立ち上がり時刻の伝播速度を算出しているため,脈波の反射を考慮せず進行波成分のみであると仮定し算出するという課題がある.そこで本報告では,超音波を用いて頸動脈の長軸方向多数点において動脈壁振動を計測し,さらに局所脈波伝播速度の経時変化の算出法を検討した.
【原理】
20代前半の被験者に対して頸動脈長軸方向に11本の超音波ビームを3.2 mm間隔で配置し,位相差トラッキング法[2]により動脈後壁の中膜外膜境界での微小振動速度を4秒間計測した.これらの波形を直交検波し,その位相波形をアンラップ処理することで連続な位相波形に変換した上で最小二乗法により等位相直線を求めることで,脈波伝播速度を脈波の立ち上がり時刻周囲の各時刻で決定した.
【結果】
動脈壁微小振動速度の実効値が1 mm/s以上であるとき,動脈壁は振動しておりこの区間において算出されたPWVが信頼できるものとする.心電図のR波直前から心I音後までの局所脈波伝播速度の経時変化を算出し図示した.動脈壁の速度波形が極値をもつ時刻において,心臓側から末梢側へ伝播する約6 m/sの進行波成分とその直後に反対方向に伝播する約8 m/sの反射波成分を確認した.また,動脈内径変化の立ち上がり時刻よりもわずかに早い時刻に,約11 m/sの大動脈弁開放に伴う機械的振動と考えられる伝播成分を確認した.この3つの伝播成分は他の2名の被験者でも確認された.さらに脈波の進行波成分よりも反射波成分の方が速く算出された.これは脈波の進行波成分が確認された大動脈弁開放時よりも反射波成分が確認された時刻の方が,動脈内圧の増加により動脈壁の非線形性によって弾性率が増加しPWVが速く算出されたものと考えられる.
【結論】
超音波を用いてヒト頸動脈の微小振動速度を多数点で計測し,その解析信号の位相波形において等位相直線を求めることで局所脈波伝播速度の経時変化を算出した.これにより心臓の機械的振動と脈波の進行波成分および反射波成分の3つの伝播成分を確認した.この局所脈波伝播速度の経時変化は,動脈硬化の局所病変のより高精度な評価の可能性を有すると考えられる.
【参考文献】
[1]McDonald DA: “Blood Flow in Arteries,” London, Edward Arnold, 1974.
[2]H. Kanai et al., IEEE Trans. UFFC, 1996;43:791-810.