Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 基礎
組織性状計測

(S582)

超音波散乱特性の変化を解析した赤血球集合度評価に関する検討

Study of red blood cell aggregation evaluation by analyzing changes in ultrasonic scattering properties

榊 紘輝, 永澤 幹太, 荒川 元孝, 八代 諭, 石垣 泰, 金井 浩

Hiroki SAKAKI, Kanta NAGASAWA, Mototaka ARAKAWA, Satoshi YASHIRO, Yasushi ISHIGAKI, Hiroshi KANAI

1東北大学大学院医工学研究科医工学専攻, 2東北大学大学院工学研究科電子工学専攻, 3岩手医科大学内科学講座

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Graduate School of Engineering, Tohoku University, 3Department of Internal Medicine, Iwate Medical University

キーワード :

[目的]
糖尿病は自身の血糖管理によりコントロールできる病気である.糖尿病患者は1日複数回の血糖値測定を行っているが,これは侵襲的であり高コストである.このため,非侵襲かつ低コストな血糖値測定が要求され,その開発が進められているが,まだ臨床的に利用可能になっていない.本報告では,臨床的に広く使用されている医用超音波を用いた血糖値測定の検討を行う.
[方法]
高血糖状態では血液粘度が上昇すること,特に血流が低ずり速度状態のとき,その上昇が顕著になることが報告されている[1].また,血流の低ずり速度状態で発生しやすい赤血球の可逆的接着現象である赤血球集合は,血液粘度の上昇と相関があると報告されており,超音波画像診断においても定性的に確認されている.このことから,超音波を用いた非侵襲的血糖値測定において赤血球集合度の定量的評価を行える可能性があるといえる.超音波が不均質な物体に入射すると散乱が生じ,そのパワーは周波数特性を示す.散乱体サイズと入射超音波波長との関係により,散乱パワーおよびその周波数依存度 n が変化する.赤血球および赤血球集合体を球散乱体と仮定すると,本報で用いる周波数帯域(27~45 MHz)において,赤血球単体の長径(8 µm)から赤血球集合体の長径(60 µm)まで,サイズが大きくなるほど散乱パワーは増加し,その周波数依存度 n は 3.5 から 0.5 まで低下する.超音波診断装置(Tomey社製,UD-8000,中心周波数:40 MHz)を用いて,ヒト手背静脈の血管内腔を対象にin vivo計測を行った.本手法で取得されるRF信号には前述した散乱の周波数特性以外にも計測依存の周波数特性を含むため,血流停止前後に取得したRF信号の周波数スペクトル間の差をとり散乱特性変化のみを抽出した.抽出された血流停止前後の散乱特性変化に対して,散乱パワー比 ρ と周波数依存度変化 ∆n の2つのパラメータを算出した.RF信号は10秒ごとに取得し,計3分間で19フレームのBモード像を構成した.最初の1分間は安静のまま,その後2分間は上腕を180 mmHgで駆血して血流を低ずり速度状態にして計測した.血流停止前のスペクトルは安静時7フレームの平均スペクトル,血流停止後のスペクトルは駆血期間後半6フレームの平均スペクトルとした.in vivo計測直後に血糖自己測定器(ニプロ製,フリースタイルフリーダムライト)を用いて皮膚穿刺により血糖値を測定し,本手法のパラメータと比較することで臨床有意性を検討した.被験者は20代健常男性1名で,計測回数は16回行った.食前や食後に計測することで幅広い血糖値状態での計測を実現した.血糖値とパラメータの比較は,パラメータの血糖値に対する決定係数により評価した.
[結果]
血糖値と散乱パワー比 ρ との決定係数が0.33,血糖値と周波数依存度変化 ∆n との決定係数が0.10となった.また,血糖値が高いと散乱パワー比および周波数依存度変化の絶対値も大きくなるという予想された相関が得られた.
[考察・結論]
散乱パワー比 ρ の方が周波数依存度変化 ∆n よりも決定係数が高くなり,よりロバストなパラメータであるといえる.しかし,決定係数がまだ低いことから値のばらつきが多い.本手法は血流停止前との変化量により赤血球集合度を評価しているため,最終結果が血流停止前の赤血球集合状態に依存すると考えられる.臨床で用いるためには,この問題の解決が不可欠であるが,本報告では非侵襲的かつ定量的な赤血球集合度評価の可能性を示すことができた.
[参考文献]
[1]Paisey, R.B, et al; Diabetologia, 19, 345-349, 1980.