Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 基礎
組織性状計測

(S582)

自己回帰モデルを用いた皮下組織の音響インピーダンス解析

Application of auto-regressive model to specific acoustic impedance analysis of hypodermis

吉田 憲司, 本田 瑶季, 大村 眞朗, 秋田 新介, 真鍋 一郎, 山口 匡

Kenji YOSHIDA, Tamaki HONDA, Masaaki OMURA, Shinsuke AKITA, Ichiro MANABE, Tadashi YAMAGUCHI

1千葉大学フロンティア医工学センター, 2千葉大学大学院融合理工学府, 3千葉大学医学部, 4千葉大学大学院医学研究院

1Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University, 2Graduate School Science and Engineering., Chiba University, 3Faculty of Medicine, Chiba University, 4Graduate School of Medicine, Chiba University

キーワード :

【目的】
走査型超音波顕微鏡を用いた音響インピーダンス解析は,培養細胞や摘出組織の音響特性を評価する強力なツールとなっている.評価対象内部に波長程度の大きさの構造が存在する場合,受信信号には計測対象面からの反射信号に加えて試料の内部構造物からの散乱波もしくは反射波が重畳してしまうため,既存手法では解析精度を低下することが指摘されている.計測面からの反射波と内部構造からの反射波を分離するために自己回帰モデルを用いた音響インピーダンス解析を実施し,その効果について検証した.
【対象】
外科手術(乳房再建手術,リンパ節移植手術,リンパ管静脈吻合手術)において摘出された余剰な皮膚組織を計測対象とした.摘出直後の直径百ミクロン程度の脂肪滴と線維性結合組織が混在する部位に注目し,下記に示す解析を実施した.
【方法】
数百MHz帯の周波数に適用可能な超音波顕微鏡システムを用いて音響インピーダンスを解析した.振動子の中心周波数は80 MHz,パルス長は60 ns(音波伝播距離に換算して45 μm),方位分解能は20 μmである.摘出された皮下組織の表皮部分を,10 mm角程度にトリミングし,皮膚表面と直行する断面をポリスチレンシャーレ上に設置し,これを計測面とした.この状態において水を介して超音波を送波し,固定台と試料の界面からのエコー信号を取得した.事前に音響インピーダンスが既知の参照物質(精製水)からエコー信号を取得し,そのピーク振幅を参照値として使用した.まず,既存の解析手法として,計測試料のエコー信号の正のピーク振幅を用いて音響インピーダンスを算出し,二次元分布像を作成した.次に,音響インピーダンス分布の空間的特長と受信信号波形の特徴から,超音波ビーム内で線維性結合組織と脂肪滴が層状構造を成していると想定される部位を特定した.当該部位における受信信号を対象に,自己回帰モデルを用いて計測対象面からの反射信号を分離し,分離波形のピーク振幅を用いて音響インピーダンスを算出した.
【結果】
受信信号波形の正のピーク振幅を解析に用いた場合,線維組織と脂肪滴が層状構造なしていると想定される部位では,音響インピーダンスは1.90±0.07 kg/s2mと評価された.一方,自己回帰モデルを適用した場合では1.80±0.08 kg/s2mとなった.層状構造が確認されない部位において,受信信号波形の正のピーク振幅から算出した値は1.62±0.02 kg/s2m,自己解析モデルを適用した場合では1.59±0.02 kg/s2mとなった.波形重畳が明らかに確認される部位においてのみ,自己回帰モデルを用いた手法と従来法の結果に大きな差異が確認された.
【結論】
 中心周波数が80 MHzの超音波を用いて皮下組織の音響インピーダンス解析を行った結果,線維性結合組織と脂肪滴が層状構造を成している部位において,自己回帰モデルを用いた解析の効果が確認された.