鯉渕 晴美, 藤井 康友, 佐藤 祐介, 望月 剛, 山田 俊幸, 山本 さやか, 紺野 啓, 谷口 信行

Harumi KOIBUCHI, Yasutomo FUJII, Yusuke SATO'O, Takashi MOCHIZUKI, Toshiyuki YAMADA, Sayaka YAMAMOTO, Kei KONNO, Nobuyuki TANIGUCHI

¹自治医科大学医学部臨床検査医学講座, ²京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻臨床医科学講座, ³自治医科大学医学部感染免疫学講座細菌学分野, ⁴MU研究所

¹Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University, ²Human Health Science, Kyoto University Graduate School of Medicine, ³Division of bacteriology, Department of infection and immunity, Jichi Medical University, ⁴Medical Ultrasound Laboratory Co,. LTD

キーワード :

【目的】
カテーテル関連バイオフィルム感染症は，細菌が自ら形成するバイオフィルムに覆われるため抗菌薬に対して難治性であり，有効な治療法は確立されていない．我々はこれまで超音波照射とバイオフィルムの関係に着目し，表皮ブドウ球菌が培養皿の底面に形成したバイオフィルムは超音波照射によってその量が減少することを明らかにした．しかし，生体内で，すでに形成されたバイオフィルムが破壊されれば，その中に覆われていた細菌が血流に拡散し，血流感染症が増悪することが予想される．このことから，カテーテル関連血流感染症を制御するためにはバイオフィルムの形成を阻害することが重要であるとの考えに至った．
本研究では，表皮ブドウ球菌の菌液に超音波を照射し，超音波照射による細菌のバイオフィルム生成阻害を目的とする．
【方法】
実験1
6穴wellプレートのwell内に，1％グルコース含有Brain Heart Infusion（以下BHI）を2mlと表皮ブドウ球菌の菌液を20μlずついれた．6穴wellプレートの上段3つのwellは表皮ブドウ球菌ATCC 35984 RP 62Aの菌液，下段3つのwellには表皮ブドウ球菌臨床分離株の菌液とした．プレートをSound Cell Incubator（MU研究所製，以下SCI）の照射器にのせ，37℃の孵卵器にいれて超音波を照射した．照射条件は強度 14mW/cm^2，周波数 1MHz，連続波とした．照射時間は24時間，12時間とした．照射後，well底面に形成されたバイオフィルム量をクリスタルバイオレット法で測定した．
実験2
実験1と同様に表皮ブドウ球菌 RP62Aの菌液が入った6穴wellプレートを作成し，SCIの照射器にのせ，37℃の孵卵器の中で1時間静置後，超音波を照射した．超音波照射条件は，印加電圧5Vpp，周波数1MHz，PRT 10ms，Duty比 20％ 照射時間20分とした．照射後，2時間40分静置し，再び同様の条件で超音波を照射した．2時間40分間静置後，well底面のバイオフィルム量をクリスタルバイオレット法で測定した．（3時間おきに2回超音波照射）
【結果】
実験1
24時間照射：RP 62A，臨床分離株ともに，超音波照射群は非照射群と比較して有意にバイオフィルム量が減少していた．
12時間照射：RP 62A，臨床分離株ともに，超音波照射群と非照射群ではバイオフィルム量に有意差は認めなかった．
実験2
超音波照射群では非照射群と比較して有意にバイオフィルム量が少なかった．
【考察・結語】
24時間照射によってバイオフィルムの生成は阻害されることが確認できたが，24時間照射の半分の超音波エネルギーとなる12時間照射ではバイオフィルム生成阻害が期待できないことがわかった．またパルス波繰り返し照射では照射時間が短くても阻害効果が期待できることがわかった．