田中 結衣, 坂本 和広, 梅村 晋一郎, 吉澤 晋

Yui TANAKA, Kazuhiro SAKAMOTO, Shin-Ichiro UMEMURA, Shin YOSHIZAWA

¹東北大学工学部, ²東北大学大学院工学研究科, ³東北大学大学院医工学研究科

¹School of engineering, Tohoku univ., ²Department of engineering, Tohoku univ., ³Department of biomedical engineering, Tohoku univ.

キーワード :

【背景・目的】
強力集束超音波（HIFU: high-intensity focused ultrasound）を用いて非侵襲にがんを熱凝固させて治療する手法が注目されている．
HIFU治療では，気泡を援用することで加熱効果を増強できることが知られている．我々はキャビテーション気泡を援用するHIFU照射方法として，Trigger HIFUシーケンスを提案している．これは，キャビテーション気泡を発生させるための高強度パルスであるTrigger pulseと気泡を持続的に援用するための中強度連続波であるHeating burstから構成される. 気泡援用HIFU治療において治療効果を上げつつ副作用を抑えるためには，焦点領域外での気泡の影響を抑制することが重要である．HIFUの連続照射によって生じる定在波は，キャビテーションを発生しやすくし，気泡合体等による気泡の長寿命化の影響を及ぼすと考えられる．そこで，定在波抑制Trigger HIFU照射法を提案し，高速度カメラを用いた気泡領域測定によって有用性を検証した.
【方法】
HIFUトランスデューサは直径100 mm，焦点領域85 mmの球面形状で，図（a）に示すように電極を円周方向に6分割したものを用いた．今回提案する定在波抑制照射法は，Heating burstにおいて図（a）中の素子 1と2から0.05 msごと交互に超音波を照射し，音場を時間的に切り替えるものである．比較対象として，図（a）中の素子1と2から同時かつ連続的にHeating Burstが照射される連続照射，素子1と2から同時かつ0.05 msごとにHeating burstの照射のオンオフを切り替えるon-off照射を採用した．すべてのシーケンスにおいて，Trigger pulseは素子1と2からの同時照射で565　W，照射時間0.1 ms，Heating burstは時間平均で150 W，照射時間75 msとし，これを10 Hzで繰り返した．実験は脱気した水中で行い，HIFU焦点から5 mmトランスデューサ側にサファイアガラスを設置した．サファイアガラス上に発生した気泡をパルス長20 nsの赤色パルスレーザを用いて250 kfpsでバックライト撮影を行った．
【結果・考察】
撮影結果の一例を図（b）に示す. このような0.1 ms間25枚の撮影画像から算出したHeating Burst照射中の気泡領域を図（c）に示す．on-off照射では焦点5 mm手前に生じた気泡は残り続けた．一方，提案手法である分割照射では生じた気泡が最も早く消滅した．従って，提案手法は従来照射方法に比べて焦点領域外の気泡加熱を抑制し，臨床応用した場合において従来法よりも皮膚熱傷等のリスクを低減できると考えられる．