瀬尾 晃平, 市塚 清健, イズデプスキ 龍也, 西井 彰悟, 土肥 聡, 岩崎 亮祐, 高木 亮, 吉澤 晋, 梅村 晋一郎, 関沢 明彦

Kohei SEO, Kiyotake ICHIZUKA, Tatsuya IZDEBSKI, Shogo NISHII, Satoshi DOHI, Ryosuke IWASAKI, Ryo TAKAGI, Shin YOSHIZAWA, Shin-Ichiro UMEMURA, Akihiko SEKIZAWA

¹昭和大学横浜市北部病院産婦人科, ²昭和大学医学部産婦人科学講座, ³国研）産業技術総合研究所医工学研究科, ⁴東北大学工学部医工学研究科

¹Obstetrics and Gynecology, Showa University Northern Yokohama Hospital, ²Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine, ³Biomedical Engineering, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, ⁴Biomedical Engineering, Tohoku University Graduate School

キーワード :

【目的】
　強出力集束超音波（high-intensity focused ultrasound : HIFU）治療は診断用超音波の100万倍に相当する出力の高い超音波を用い，フローフから離れた部分に選択的に焦点領域を作り出すことて，焦点部分の組織を凝固壊死に導く治療法である．極めて低侵襲な治療である一方，治療領域を直接目視することができないため非侵襲的イメージング技術との併用が不可欠である．HIFUが屈折や反射などの生体の音響特性に依存した影響を受け，焦点位置の予期せぬ変動が起こり得るため，焦点位置の可視化による事前把握すなわち焦点ナビゲーション法は非常に重要である．
　本研究は，治療領域を事前に予想するための焦点可視化実験を行い，焦点ナビゲーション法がHIFU治療照射時に有用かどうかを明らかにするために行った．
【対象と方法】
　直径100mm，焦点距離85mm，6素子からなる2チャンネルHIFU 用 2 次元アレイトランスデューサを用いた．HIFUを温度上昇に至らない2msの短パルス照射（ナビゲーション照射）することで音響放射圧による組織変位を生じさせ，この照射前後でHIFU 用トランスデューサの中心に設置した診断用イメージングプローブを用いて周波数 3 MHzのエコー信号を取得し，位相差トラッキング法を利用することで変位量を導出しマッピングを行った．
　全身麻酔下の生後3か月の幼若豚2頭を対象とした．組織障害の程度を確認するため，ナビゲーション照射のみを大腿筋に3回照射した．ナビゲーション照射を，1頭目＋2頭目で，肝臓に対し5+6箇所，大腿四頭筋および大腿直筋に対し2+8箇所，左右の腎臓に対し6+4箇所，計31箇所に対し，それぞれ3回ずつ照射を行った後，HIFU治療照射を行った．照射後に対象臓器を摘出し肉眼的および病理組織学的に照射領域の観察を行った．照射中の幼若豚へのナビゲーション照射およびHIFU治療照射の影響を調べるため血圧，脈拍，呼吸数，血中酸素濃度を照射前後を通し連続的に計測した．本研究は実験動物倫理員会の承認を得て行なった．
【結果】
　大腿筋に行ったナビゲーション照射のみでの組織変性は全く認めなかった．ナビゲーション照射1回で41.9％（13/31），2回で80.6％（25/31），3回で96.8％（30/31）の精度で焦点の把握が可能であった．変位量マップは1s以内に表示され，照射直前に焦点位置を把握することができた．ナビゲーション照射，HIFU治療照射，いずれの照射時もバイタルサインの変化を含めた有害事象の発生を認めなかった．
【考察】
　ナビゲーション照射により生じる音響放射圧は超音波吸収とほぼ等しいため，得られた変位量マップはHIFU照射により生じる凝固領域の事前予測を可能としていると考えられた．さらに，そのマッピングの形状から凝固形状の予測や，骨や気泡による反射に伴う意図せぬ発熱の予測にも利用可能であることが示唆された．複数回のナビゲーション照射で精度が上昇する理由は，ナビゲーション照射のタイミングの問題，すなわち術者の手ブレ，術者や対象の呼吸性変動の影響が示唆された．他にも，2回目以降で精度が上昇している理由は，ナビゲーション照射を1度組織に照射することで，その組織中の気泡核が除去されノイズ源が減るためナビゲーション照射2回目以降での純粋な変位量が得られるのではないかと推察された．3回ナビゲーション照射を行ってもナビゲーション画像が得られなかったのは左腎臓上葉であり，肋骨と干渉したためと思われた．
　HIFU治療において焦点位置を事前に把握できることがわかり，安全性の向上において非常に有用であると思われた．