Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

共同企画
日本心エコー図学会との共同企画 超音波による心血管機能評価

(S546)

血管内皮依存性血管拡張反応(FMD):簡単な原理の中に意外な新たな魅力

Flow-Mediated Dilation: A New Aspect and Finding

竹本 恭彦, 則岡 直樹

Yasuhiko TAKEMOTO, Naoki NORIOKA

大阪市立大学大学院医学研究科総合医学教育学・総合診療センター

Department of Medical Education and General Practice, Osaka City University Graduate School of Medicine

キーワード :

 上腕動脈の内皮依存性血管拡張反応検査(flow-mediated dilatation : FMD)は,多くの臨床試験において,心血管イベント予測因子としての有用性が示されている.
 従来,FMD計測には,多くの人員,設備,労力を必要とした.近年の超音波診断機器の進化にともない,少人数で簡便に施行でき,そのうえ,血流の駆血開放に伴う血管位置のずれが半自動で修正され,計測に最適な血管位置が維持される機能が搭載された機器が登場した.そのことで,駆血,血流開放といった血流状態の変化にともなう血管径の変化や血管の反応を,正確で精密にかつ経時的に観察,計測することが可能となった.
通常の駆血開放後血管拡張反応計測
 近年の超音波診断機器の進化もあり,FMDの実施は非常に簡便となっている.正確な計測のために,実施前に患者様に守っていただくべきいくつかの条件はあるが,検査実施当日は,一定時間の安静のあと,血圧脈拍測定,安静時上腕動脈径(D安静時)測定,5分間駆血,5分間駆血後血管径変化の経時的測定,と,手順は簡単である.FMDは,駆血開放後最大拡張した時点での上腕動脈径(D最大)を計測し,{(D最大-D安静時)/ D安静時}×100の計算式で算出され,%,で表示される.計測算出されたFMD値は,心血管イベント予測因子,薬剤応答性の確認,生活改善効果の確認,その他,多くの場面で,有用であることが証明されている.
駆血開放前血管収縮反応
 上記したように,一般には駆血開放後の血管拡張反応を観察する.一方で,駆血開放前に駆血で生じた血流低下に伴い血管が収縮する現象(Low-flow mediated constriction: L-FMC)があることが報告されている.筆者らは,喫煙者において,高い頻度でL-FMCが観察されることに注目し,観察を続けたところ,L-FMCが出現する喫煙者と出現しない喫煙者がいることに気づいた.そこで,その差異が生じる原因を追究し,男性喫煙者において,若年,低いBMI,小さな血管径であるほど,L-FMCは発生しやすいことを明らかにした.すなわち,男性喫煙者でL-FMCが出現した場合には,血管障害が少ない可能性が示唆された.さらには,従来のFMD とFMDにL-FMCを加えた新指標が,フラミンガムリスクスコア(FRS)と相関する程度を算出し,比較検討した.その結果,従来のFMDとFMDにL-FMCを加えた新指標は,いずれもFRSと有意に相関したが,後者の方がより強い相関を示した(相関係数 -0.20 対 -0.34).したがって,喫煙者においては,FMDにL-FMCを加えた新指標は,従来の指標であるFMDに比べ,より強く心血管リスクを予測する可能性が示唆された(N. Norioka, Y. Takemoto, et al. Atherosclerosis 2016; 251: 132-138).
 今回は,通常の駆血開放後のみならず,駆血開始前から開始後にかけて継続して血管反応を観察し,新たな知見を得た.今回の観察したL-FMCのみならず,それ以外にも多様な血管反応が観察される.それらの意義は不明であり,今後のさらなる検討が期待される.
まとめ
 FMDの歴史は長く,その有用性は多くの臨床研究にて証明されている.超音波診断機器の進化で検査実施が簡便となり,さらに広く一般臨床で用いられるようになってきている.そのような中,まだ十分に解明されていないが,心血管患者様のケアに役立つ新たな魅力が隠されているものと思われる.