井上 勝次, 東 晴彦, 藤井 昭, 上谷 晃由, 青野 潤, 永井 啓行, 西村 和久, 鈴木 純, 檜垣 實男, 池田 俊太郎

Katsuji INOUE, Haruhiko HIGASHI, Akira FUJI, Teruyoshi UETANI, Jun AONO, Takayuki NAGAI, Kazuhisa NISHIMURA, Jun SUZUKI, Jitsuo HIGAKI, Shuntaro IKEDA

愛媛大学大学院循環器・呼吸器・腎高血圧内科学講座

Department of Cardiology, Pulmonology, Hypertension & Nephrology, Ehime University Graduate School of Medicine

キーワード :

左室駆出分画が保たれた心不全（HFpEF）における特徴的な構造リモデリングの一つとして左房拡大がある．左房拡大はHFpEF症例における左室拡張能障害や左室充満圧上昇を示唆する所見である．超音波心エコー図検査による左室充満圧（左房圧）の推定は心不全の診断に重要である．Andersenらは右心カテーテル検査によって診断した左室充満圧上昇例は，E/e’（＞14），収縮期三尖弁通過速度（＞2.8m/sec），左房最大容量（＞34ml/m2）の3つの心エコー図指標を評価することで精度よく診断できると報告した．また，Russoらは左房最大容量（LAVmax）より左房最小容量（LAVmin）の方が左室拡張障害を反映すると報告している．LAVminは左房リモデリングのみならず左房収縮能を加味した指標であり，LAVmaxに比し予後予測に有用である可能性がある．左房収縮能はブースター機能と呼ばれる．ブースター機能は一回拍出量の20-30％に寄与する重要な機構であり，HFpEFにおいて心房細動発生によるブースター機能の破綻が心不全の顕性化に直結することはよく経験される．左房ブースター機能に続くリザーバー機能も重要である．コンプライアントな左房は左房圧を上昇させることなく左房内へ十分な血液貯留を可能とする．一方，HFpEF症例では慢性的な左房負荷により左房スティフネスが増加している．左房スティフネスの定量評価は容易ではないが，左室四腔断面像から視覚的に推測することが可能である．我々は肥大型心筋症と心アミロイドーシスの鑑別に視覚的に行った左房のリザーバー機能評価が有用であることを報告した．両疾患群とも左房拡大を認めたが，後者では左房のアミロイド沈着が進行しており，左房の拡張動態が制限されていることが視覚的に確認された．超音波心エコー図検査による左房拡大の評価に留まらず，左房の収縮や拡張の振る舞いを観察することで，なぜ心不全を発症したかを理解出来る可能性がある．本セッションでは左房機能について解説し，その臨床的意義・展望についてdiscussionしたい．