Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・技を究める 救急エコー
救急エコー 超音波を利用した生理学的異常に対するアプローチ~ABCDを中心に~

(S529)

救急心臓超音波検査に関する教育とその課題-FATEプロトコールを中心に-

How to make an educational program for emergency cardiac ultrasound?

小室 哲也, 太田 隆嗣

Tetsuya KOMURO, Takashi OTA

湘南鎌倉総合病院麻酔科・集中治療部

Department of Anesthesiology and Critical Care Medicine, Shonan Kamakura General Hospital

キーワード :

【はじめに】
超音波機器の進歩により小型化・高性能化が進み,心臓超音波検査も熟練した循環器内科医や超音波技師でなくても簡便に施行できるようになってきている.また救急領域では高度な弁膜症の評価や血行動態の評価などを求められる訳ではなく,むしろ未熟な技術で誤った評価をして病態をミスリードしてしまう可能性がある.しかし,超音波検査の技術取得に関しては医師の独学でいわゆる「見よう見まね」で学習していることも珍しくはなく,当院でも系統的に超音波検査を学習できる機会は少なかった.
当院では24時間超音波技師が常駐しており,常に良質で高度な超音波検査所見を得ることができる.このため研修医が自ら積極的に超音波検査を行うことは少なかったが,超音波検査技術を習得したいという潜在的な需要はあった.したがって緊急性の高い情報を抽出しトリアージをしたのちに,しかるべき専門医や部門にコンサルトするための技術としてもFocused Assessed Transthoracic Echo(FATE)の習得は初期研修医のレベルから行うべきであると考え,当院のICUにて施行した超音波ワークショップについて概説し,今後の課題について述べる
【方法】
2016年4月から2017年3月までの期間で当院ICUをローテションした初期研修医やICUスタッフに対して,当院集中治療部と臨床検査部の心臓超音波技師が講師となり2ヶ月に1回off-the-jobのワークショップを開催した.ワークショップは眼球,肺,血管,心臓の4領域で行い,心臓についてはFATEを中心とした指導を心臓超音波検査に熟達した超音波技師が施行した.
【結果】
合計で22人の初期研修医及びICUスタッフがワークショップを受講した.ボランティアのモデルを使用して4領域のハンズオンセミナーを1領域あたり20-30分を用いて,1ブース当たり2-3人程度,1コースあたり5-6人程度のコースを作成して運営した.各領域のハンズオンセミナーはそれぞれ好評であった.また指導する側に立った検査技師たちにとってもよい刺激になっており,技師と医師・看護師のより良い人間関係の構築にも寄与していた.
大きな変化としては外科術後1日目の歩行前に初期研修医や診療看護師が下肢血管超音波を用いて深部静脈血栓症の有無を見てから歩行させるようになった.他の領域でも初期研修医たちが積極的に超音波検査を行う光景は見られるようになってはきたが,業務多忙や,上級医に詳細な所見を提供するという意味でもやはり超音波検査技師が施行している場面の方が多い.
【考察】
FATEプロトコールは初期研修医が超音波検査に慣れていない医療スタッフでも習得が容易な手技であると考えられる.しかし心臓超音波自体は画像の描出を行うためには繰り返しのトレーニングが必要である.ワークショップ形式のハンズオンセミナーは初学者が超音波検査に親しむという意味では大きな意義があるが,学習者がその後主体的に超音波検査をしていくようにon-the-jobでも超音波検査の指導を繰り返しながら手技に習熟してもらう必要があると思われる.
また,習熟度や学習到達の評価が不十分であった.ワークショップで取得した技術を実臨床でどのように使うかを考えさせるようなシミュレーション教育での展開も必要であると考えられた.
【結語】
超音波検査技術は今や初期研修医や看護スタッフでも必須の技能と考えて緊急病態を捉えて的確かつ迅速に上級医や専門医にコンサルトをするスキルを身につけるためにも,FATEプロトコールによる心臓超音波の教育を普及させていくことが必要と考えられる.