Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・技を究める 産科エコー
産科エコー 技を究める:産科エコー

(S509)

産科医による胎児心スクリーニング:検出率向上を目指して

Fetal heart screening by obstetrician: an approach to improve the detection rate

上田 優輔, 中西 篤史, 根木 玲子, 吉松 淳

Yusuke UEDA, Atsushi NAKANISHI, Reiko NEKI, Jun YOSHIMATSU

1京都大学医学部附属病院産科婦人科, 2国立循環器病研究センター周産期婦人科, 3国立循環器病研究センター周産期遺伝相談室

1Department of Gynecology and Obstetrics, Kyoto University, 2Department of Perinatology and Obstetrics, National Cerebral and Cardiovascular Center, 3Department of Medical Genetics, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

本邦の妊婦健診では胎児心エコー検査が標準検査に含まれず,2017年産婦人科診療ガイドラインにおいては,心臓の位置や軸,四腔断面像の描出を目的とした胎児超音波検査すら,妊婦全員を対象とした健診項目に含まれていない.しかしながら,胎児診断により動脈管依存性の先天性心疾患は,出生後の状態悪化前にプロスタグランジン製剤を投与することができ,また,左心低形成症候群,完全大血管転位,総肺静脈還流異常などの先天性心疾患は,胎児診断に基づく計画分娩と出生直後の計画手術・インターベンションが可能になる.胎児心疾患の診断はその予後改善のみならず,医療経済学的見地からも有益であるが,現状では,上記に挙げた出生後に緊急治療を要する胎児心疾患の抽出を,多忙な産科医が妊婦健診の合間で行う胎児心スクリーニングに依存していることが少なくない.従って,産科医による胎児心スクリーニングの検出率向上と時間的負担の軽減は喫緊の課題であると言える.
 胎児心疾患に精通した医師が行う胎児心精査では,新生児と同様segmental approach に沿った心臓区分診断を行う.この方法は,心臓の解剖の構成要素を心房位・心室位・大血管位の3つのレベルに分けた上で,それそれの位置関係を診断し,その後に心房と心室および心室と大血管の連結関係を診断する.Segmental approachによる心臓区分診断後に,胎盤に依存した胎児期の並列循環から,肺を用い,動脈管や卵円孔が閉鎖する出生後の直列循環への移行がきちんと成立するかどうかを想像することが理想である.しかし,新生児の診療経験に乏しく,その循環動態に精通していない産科医にとって,先天性心疾患の区分診断や,出生後の循環動態を想像することは容易ではない.
 そこで我々が産科医による胎児心スクリーニングの検出率向上のために,以下の2つを提案する.まず,普段の診察から胎児の正常心臓をsegmental approach で観察しておく.多くの症例を観察した後に,そこから明らかに逸脱するものを2次精査へ依頼する.この訓練により,要点となる観察断面だけを描出することに終始するのではなく,腹部断面から three vessel trachea view までを,連続性を持って観察することができ,検出率向上に寄与すると思われる.次に,出生後緊急治療を要する胎児心疾患のエコー画像を,事前に動画等で十分学習しておく.我々は探している所見,知っている所見しか観察することができないからである.これらの訓練により,胎児心スクリーニングの検出率は向上し,最終的にはスクリーニングにかける時間も大きく短縮することが期待できる.
 今回,我々が実際に行っている胎児心スクリーニングを,出生後緊急治療を要する先天性心疾患でみられる異常所見を交えながら動画で供覧し,産科医が行う胎児心スクリーニングの検出率向上のための要点を解説する.